松山 今回の製品開発の力点はどんなところにありましたか?

清水(正)  前作PJ-TX100J(以下TX100)を我々が実際に使ってみて、ユーザーの立場に立った製品がどんなモデルであるべきかをとても考えさせられました。やっぱり会社で観るのと家で観るのとは、雰囲気が違ってくるものですね。

松山 なるほど。基本的な機能や特長はこちらに譲るとして、ここではPJ-TX200Jの画質の特性。どういう画質を目指したのか、を聞かせてください。では、まず今回の大きな特徴の一つとして、初めてアクティブ(ランプ)アイリスを導入されました。本質的に何を狙いましたか?

清水(正) アクティブアイリスによる効果としては、暗いときの黒の沈み。もう1つは、閉まったときのコントラスト効果。その2つです。

松山 実際上それは白と黒で決まってしまうのだけれども、中間の部分は? 例えば暗い部分をある程度階調を出しながら沈めたいというコントロールなのか、それとも、明るい部分を少しコントロールしたいということなのか、どちらですか?

森下 映像のAPL(平均輝度レベル)を検出し、アクティブアイリスを32stepで制御しています。制御方法としては、アクティブアイリスで照度を抑える。それに加えてコントラストを上げるという制御をしています。
映像シーンに合わせて、アクティブアイリスを駆動させ光量を制御している。黒レベルを沈めてコントラストを向上させた

松山 スタンダードの画質は、非常に良かったですね。アクティブアイリスの助けを借りなくて、スタンダードの画質が出せればいいのだけれども。

清水(正) アクティブアイリスの助けを借りないネイティブでコントラスト比3000対1以上を実現するのが理想だと思っています。

松山
 フォーカス感の良さというのは前作譲りで今回も素晴らしいのですが、解像力の良さとコントラスト拡大の間には何か関係がありますか。

清水(正) アクティブアイリスとは関係ないですが、新デバイスを採用し、シャープネスの描き具合や、ノイズリダクション系の制御のバランスをとりながら作り込みました。

松山 アクティブアイリスの機構部の開発は苦労しましたか?

大島 機構という意味では、今回適用したアクティブアイリスを冷やすのに一番苦心しました。駆動方式のコンセプト自体はオリジナルではありませんが、静音化のための機構部で特許を出しています。アイリス単体で静音化し、加えて、構造的にも防振ゴムを使ったり苦労の連続でした。液晶パネルや光学部品の冷却には新開発の3相シロッコファンを採用し、耳障りな周波数の音を低減しています。騒音レベルは25dBとTX100よりも1dB低減しましたが、実際に耳から入ってくる音としては、1dB以上の静音化効果があると思います。

松山 シャッターが動いて、ファンもあってじゃ大変ですね。このシャッターの場合、開放と最も絞った場合との差で言うと、コントラストはもっと出る可能性もありますか?

清水(拓) やろうと思えば1万でも2万でも可能ですけど、ユーザーにメリットがなければ意味がありません。調光量は現在4倍ぐらいですが、それ以上先は特殊な用途を除いてあまり必要性を感じないし、むしろ調光単独で言ったら、自然に調光できるとか、そういう方向の技術を突き詰めていきたいと思っています。

松山 黒の表情がずいぶん良くなりましたね。感心しました。

清水(拓) 液晶パネル周辺に偏光板と光学補償素子が存在するのですが、弊社ではTX100から光学補償素子の調整に対し、他社よりも自由度の高い、分離して回転調整する方式を採っています。これまでは光学補償素子を多く使って、アクティブにどんどん液晶パネルのコントラスト低下要因をなくすやりかたをしていましたが、光学補償素子というのは、液晶パネルとの相性が重要で、導入したら、した分だけ全部性能が良くなるという魔法のものではありません。導入したことによって逆に悪さをする弊害も持っています。それを調整できるところはなるべく残し、弊害となる部分は逆に取ってしまって、光学補償素子と液晶パネルのマッチングの良さを今回改善しました。結果として、ネイティブなコントラスト、黒の色目ともに大幅に改善でき、納得のいく黒表現ができました。

PJ-TX200 J
松山 動画のIP変換やスケーラーについてですが、TX100のユーザーから、何か指摘はありましたか?

清水(正) 動きに関して遅いとか言われる方も中にはいらっしゃいました。今回、スケーラーのICデバイスを10bitに変えることで、画質レベルを向上しました。IP変換性能も前作に比べて向上しています。

編集部 今回の製品開発の一番の狙いというのは、そういうところにあるのですか?

清水(正) そうですね。ユーザーの方がTX200を見て「あ、変わったな」と思われるところは、アクティブアイリスと、回路で言えば10bit映像処理技術の2つです。TX100にも採用したレンズアイリスに加えてアクティブアイリスを追加したことによって黒の締まりが良くなりました。回路的には、10bitにしたことによってグラデーション(階調性)が奇麗になります。その2つが大きな柱だと思います。

松山 映像信号の処理はどうなりましたか?

清水(正)
 入力段のbit数がTX100の8bit(256階調)から10bit(1024階調)に変わって、グラデーション的にはかなり魅力的になっているのは確かです。それに加えて低階調から高階調まで色のトラッキングができるだけ変わらないように各モードの作りこみを行いましたので、かなり印象が変わっています。

松山 ガンマで「シネマファンタジー」と「シネマリアリティ」を設けた理由は何ですか?

清水(正) TX100のときは、どちらかというと「シネマリアリティ」に近い画作りにしていたんです。それと、もう少し色温度も高かった。TX100を発売した後、いろいろ意見を伺うと「しっとりとした画質でも見たいね」という要望がかなりありました。イコライジング(画質調整)していただければ、そうした画質に追い込めるという説明をしていたのですが…。その辺を反省し、簡単にしっとりした画質が選択できるよう、映画モードとして、低階調の表現性を重視した“しっとり画質”の「シネマファンタジー」を追加しました。

松山 筐体設計で苦労された点は?

松山凌一
映画製作の世界からスタート。製作者の視点をもってオーディオ・ビジュアル評論を展開する。シネフィルムからデジタルVTRまで、広範な知識をバックボーンに活躍する。
大久保 部品のレイアウト設計には大変、苦労しました。アクティブアイリス、冷却ファンなど、部品は増えましたが、できるだけ前作と大きさが変わらないように工夫しています。端子部も左寄りにコード類がまとまって使いやすいような設計、ボタンの配置換えや操作性を向上するように努めました。あとは外観の色にこだわりました。落ち着いた高級感を出すために、光の反射を抑えたメタリック色にしました。

編集部 前作を踏襲しながら存在感あるデザインですね。