iVDRが誕生したのは2003年のこと。当初は主にPC用のストレージとして使われていたが、2007年にコンテンツ保護技術SAFIAを搭載して、デジタル放送を録画できる「iV」が登場したことで、新たな可能性が生まれた。

デジタル放送の記録メディアとして、次世代DVDとも呼ばれるブルーレイのような光学メディアと比較して、HDDであるiVは、転送速度や容量、記録コンテンツをムーブ可能であることなど、様々な面でアドバンテージを持っている。それが世間に受け入れられ、iVの出荷台数は現在まで右肩上がりの増加を続けている。

2007年にiVが登場した際の対応機器は日立の薄型テレビ“Wooo”の一部機種に過ぎなかったが、現在では今春に登場したWooo新機種の全モデルがiVポケットを搭載するなど、そのプラットフォームは拡大を続けている。

そして今回、iVに録画したコンテンツを再生できるiVマルチプレーヤーが登場し、再生環境が広がったわけだが、さらにあらゆるTVにつないでiVに直接録画が可能なiV対応レコーダー発売も視野に入っている。iVDRコンソーシアムが開催した「2009 iVDRセミナー」の発表内容については当サイトでもお伝えしたが、iVのプラットフォームはここにきて急速に拡大しているのだ。

また海外市場を見渡すと、中国のV-showテクノロジーがiVDR対応STBを年内に発売する予定となっている。そうなれば、プラットフォームは爆発的に拡大することになるだろう。

そんな中、iVのメディア自体も年々進化を続けている。HDDは毎年、猛スピードで大容量・低価格化が進んでいるが、iVもこの流れと同様に容量が増え続けている。今年春には320GBの製品が登場したが、年内にはは500GBの製品も登場する予定になっている。500GBともなれば、もはや、現在のブルーレイレコーダーのミドルレンジの容量と変わらない大容量だ。そして当然、来年にはより大容量なモデルが登場してくることだろう。

iVの容量ロードマップ。来年には500GBモデルも登場する予定となっている

コンシューマー向けのiVが順調に普及を進める一方、業務用のiVカセット「エクストリーム」も登場してきており、海外の大手放送局などと商談が進行中という。この業務用製品の特徴は過酷な使用環境を想定し、耐衝撃性をさらに高めたことで、1.4mの落下耐衝撃性を誇っている。

 
耐衝撃性をさらに高めた業務用の「iVDR-Xtreme」   電子ペーパー搭載iVDRの試作機

進化の方向性は単純に容量を増やすだけにとどまらない。その1つに電子ペーパーを搭載したiVカセットがある。まだ試作段階だが、コンシューマー用途では録画したコンテンツの情報やメディアの残量を表示するなどの使い方を想定しているとのことで、そうなればメディアを機器に挿入しなくても様々な情報が確認できることになり、利便性はさらに高まる。さらには、SSDタイプのiVも登場する可能性があるという。

iVDRの国際標準規格化も進んでおり、早ければ年内にも国際標準化規格となることになっている。そうなれば、デジタル放送やハイビジョンコンテンツを扱うリムーバブルHDDの世界的なデファクトスタンダードとなる可能性もあるだろう。

 
iVDRコンソーシアムが開催した「2009 iVDRセミナー」ではSSDタイプのiVDR試作機も登場した   同じくiVDRセミナーで発表された資料。早ければ年内にも国際標準化規格として認定される見込みだ

 

現在のiVDRは映像やデータの記録メディアとして使われているが、この用途を拡大する試みにも注目したい。iVDRは当初、HDDのデータをやりとりするSATA端子しか規格に存在しなかったのだが、昨年11月にUSBポートが規格に追加され、従来のSATA端子はAポート、USB端子はBポートと呼ばれることになった。これにより、データの保存に限らず、様々な機能を持つiVDRが実現できるようになったのだ。

この拡張された規格を利用して作成された試作機にiVDRステーションがある。iVDRステーションでは、たとえば地デジチューナーを内蔵したiVDRをセットすることでレコーダーのようにも使うことができるし、ヘルスケア機器と接続するiVDRを装着すれば、健康器具の情報をテレビで表示することが可能となるなど、柔軟な拡張性を持っている。iVDRは今後、さまざまな用途で使われるようになる可能性があるのだ。

 
iVDRステーション試作機。様々な機能のiVDRを入れ替えることで、自分好みの機器にカスタマイズすることができる   iVDRステーションとヘルスケア機器を連動させるなど、様々な可能性を秘めている

ここまで見てきたように、iVDRはまだまだ進化を続けるデバイスであり、今回のiVマルチプレーヤーの登場も、その壮大なストーリー全体から見れば、まだ序章にすぎないようだ。今後が楽しみなメディアと言えるだろう。