タイトル画像
 
アバンギャルドの歴史と製品特徴
文/炭山アキラ

■開口180度のスフェリカル・ホーンこそが正解だと確信

アバンギャルド社の総帥ホルガー・フロム氏は1956年生まれ。ジャズ好きの父とオペラ好きの母の下に生まれたが、ビートルズ登場以降のロックの洗礼を受け、仲間でバスをレンタルしては各地のライブというライブを訪れる若者だったという。

創始者写真
1986年頃、ホルガー・フロム氏(右)はスピーカーデザイナーであるマティアス・ラフ氏(左)を迎えてスフェリカル・ホーン・システムを完成させた

そんなフロム氏が耳を奪われたのは、あるライブ会場の音響装置だった。ごく簡素な2基のスコーカー・ホーンが大ホールを音楽で満たしていたのである。

また、それからしばらくしてオーディオショップで聴いた風変わりなスピーカーにも衝撃を受けたとか。それはクリプッシュ・ホーンだった。以来ホーンシステムのとりことなったフロム氏は、僅か8.5畳ほどの自室に15インチ・ドライバーによる木製低域ホーンを持つオールホーン・システムを構築してしまう!

しかし、特定の音楽には際立った相性を聴かせるものの、声や生楽器には余分な音がついてしまい、成功とは言い難いものだったとか。そこでフロム氏は、一般的なエクスポネンシャル・カーブによるホーンに疑問を持ち、研究を進めた結果、開口が180度まで広がるスフェリカル・ホーンが正解だ、との確信を得たという。

しかし、高度なスフェリカル・ホーンは木工で製作することがかなわない。そこでフロム氏はコンピューターで治具を製作、石膏でメス型を作り樹脂成型する工法を開発した。自宅の庭で石膏まみれになりながら製作した第一試作にして、現在の精度とほぼ変わらなかったというから驚く。

グラフ1   グラフ2
180度のスフェリカル・ホーンは数あるホーンカーブのなかでも理論的にもっとも周波数特性上のピークやディップの少ない、フラットな周波数特性を誇る。エジソンの蓄音機時代には至難の技であったカーブ解析と成型も、現代はコンピューター解析により正確に行える

一般に、スピーカーのユニットは振動板が軽いほど動きやすく、リニアリティが高まるものだ。しかし軽量化にも限界があることから、小口径にすればいいかというと、今度は同じだけの音圧を稼ぐのに振幅が大きくなり、やはり難しい。そのジレンマを解決するのがホーンだ。

フロム氏によると、ダイレクトラジエーションで86dBの能率を持つユニットに適切なホーンを取り付けると100dBにもなるという。スピーカーは3dB上がれば能率が2倍になるから、何と30倍もの能率を稼ぐことが可能になるわけだ。小さな軽い振動板のごく小振幅の振動を効率よく音波にする。ホーンはリニアリティ確保のもっとも合理的な手法なのである。

そんなフロム氏が主宰するアバンギャルドのスピーカーは、他にも多くの特徴がある。最大のものは、ミッドレンジ・ホーンであろう。ホーンのカットオフで低域を切り、ホーンの始点近くに設けたごく小さな空気室によって高域を自然に減衰させるといった手法で、何と一切のクロスオーバー素子を用いることなしに必要な帯域を得ているのだ。

ミッドレンジホーン
ミッドレンジホーンの信号経路にはパッシブフィルター類を一切搭載していない。ホーンを大きくすればより低域が出るという物理特性を応用してホーンサイズを採用、位相の乱れを解決している

トゥイーター・ホーンは不必要な低域信号をカットしなければボイスコイルが焼き切れてしまうので、ネットワーク素子が挿入されているが、厳選したコンデンサー一発だけ、という極めてシンプルなものだ。

さらにduo Ωの「CPCコンデンサー」の絶縁体には何と100Vの直流がバイアスとして流され、歪みの低減を図っているという。

オメガドライバー
Ωドライバーには非常にインピーダンスの高いボイスコイルが採用されている。アンプへの負荷を劇的に軽減し、ドライブしやすくしている

また、低域部はアンプ内蔵タイプで、どうしても振動板が重くなる低域ドライバーに対して、入力信号と出力信号の違いをフィードバック、高度なアナログ回路で補正する「インテリジェント・アクティブ・サブウーハー」システムが構築されている。一種のモーショナル・フィードバック(MFB)だが、昨今のMFBは違和感の強かった大昔のものとはまるで別物の感がある。

アクティブサブウーファー   背面ボタン類
duoとunoは大口径ウーファーの慣性質量の影響を回避するためアクティブ・サブウーファーを搭載している。この春アバンギャルドはG2バージョンへアップグレードしたのだが、進化したのはこのサブウーファー部においての変更が大きい。ユニットのマグネットが強化され、内蔵アンプも電源の容量が大幅アップ。これは軽やかで音が前へ飛んでくるタイプの中高域と低域をよりスムーズに整合させるための変更であろう   G2全モデルのサブウーファーの背面には電源端子、REMOTE端子、VOLUMEつまみ、RANGE切り換え、FPEQ、MUTEつまみを装備

このたび同社のシステムは、さまざまな箇所に手が入ったG2に生まれ変わった。代表的な変更点は、サブウーファーのドライバーがネオジウム磁石を搭載した強力型となり、内蔵アンプの電源も大幅増強、そしてサブウーファー・キャビネットの縦横比が変更され、duoとunoではトゥイーター・ホーンを飲み込む形状となったおかげで奥行きが縮小され、設置の利便性が向上しているのも見逃せない。

 

シンプルな「真理」へ向かって……

これまで、最低域を除いてローカットフィルターの入っていないホーンドライバーと出合ったことはない。それだけに、ミッドレンジホーンのネットワークをすべて排したCDCテクノロジーには驚き、感激した。思えば、超高能率なのだから実際に入力されるパワーアンプの信号は微々たるもので、ある程度の振幅を許容し、ボイスコイルの排熱に優れたドライバーとしておけば、カットオフ以下の信号が入っても問題ないのであろう。思えば、スフェリカル・ホーンにしても高度なMFBウーファーにしても、最もシンプルな「真理」へ向けて膨大な手間をかけるという手法は共通している。同社の社風なのであろう