エントリークラスのAVアンプといえば、性能を犠牲にして安さを追求した製品が多いというイメージをお持ちの方は多いと思う。そんなエントリー層に一石を投じたのがヤマハの実力派AVアンプ「AX-V465/565」だ。今回はHDオーディオ、7.1ch対応、そしてアップスケーリング機能を搭載するハイコストパフォーマンスモデル「AX-V565」をライターの折原一也氏がレビューする。



2009年、ついに本格的なHDオーディオ対応の入門機が登場

2009年は、BD-ROMに収録されている最新の音声方式「HDオーディオ」への全面移行が実現する年である。BD-ROMの登場と同時にHDオーディオ対応のAVアンプ買い換え機運が高まったのは約3年前のこと。ミドルクラスの製品から始まり、昨年以降次々とHDオーディオ対応モデルが登場した。その一方で入門機のHDオーディオ対応はこれまで先送りとなっていた。

このような状況の中で、ヤマハのAX-V465/565は5万円クラスのAVアンプでありながら、HDオーディオに完全対応。この説明だけでも「遂に登場したか」と思わず身を乗り出す人もいるかもしれない。

7.1ch出力、HDオーディオに対応したAVアンプ「AX-V565」

まず基本仕様から解説していこう。AX-V565は7.1ch対応のサラウンド機能を搭載(兄弟機のAX-V465は5.1ch)したエントリー機だ。今やAVアンプの定番となった自動音場設定は、付属のマイクを接続して初心者でも部屋の環境に合わせて最適な音響特性に調整できる「YPAO」を搭載。ヤマハ伝統のサラウンド技術「シネマDSP」も投入している。

映像と音声のデジタル信号を1本のケーブルで伝送できるHDMI端子がAVアンプに搭載されるようになり、AVアンプは複数の機器を自在に切り替えるセレクターとしての役割も重視される時代になってきた。AX-V465/565の特徴の一つにHDMI入力端子を上位機種並の4系統も搭載したことにある。例えばBDプレーヤー、PS3やXboxといったゲーム機、HDビデオカメラと繋いでもまだ1系統の余裕があるという贅沢な仕様で、セレクターとしても優秀な製品だ。

更にAX-V565のみ、旧世代の機器からの入力信号を高画質化してHDMIで出力するアップスケーラーも搭載。スケーラーについては後半で改めて詳しく解説していこう。

操作性に注目すると、接続した機器のディスプレイ表示名をHDMI1、AV1といった表示から、Blu-ray、TVなどの分かり易い機器名称へと自由に変更できる機能も搭載している。他社製のTVやBD/DVDプレーヤーとのHDMIリンク機能も公式に動作検証済みなので安心して導入できる(HDMIリンク操作対応機器一覧はこちら)。

背面端子。HDMI入力を贅沢にも4系統装備している

フロントパネルにはAVアンプの様々なメニュー設定を登録できる 「SCENEボタン」 を配置する





躍動感あふれるサラウンド再生
− 7.1chでさらにBD本来のスペックを最大限に引き出せる

それではサラウンドアンプとしてのAX-V565の実力はどうだろうか。HDオーディオの実力を検証すべく、ドルビーのデモディスクに収録されているサラウンドコンテンツを使用して性能をチェックした。

5.1ch音声を収録する『ハリーポッターと炎のゴブレット』を視聴すると、躍動感溢れる音再現性と大音量を余裕で鳴らす実力に唸らされた。部屋の大きさを越えた奥行きある音の空間や、瑞々しい音の描写力、そして低音の力感も十分だ。

7.1ch音声を収録する『イノセンス』は、沸き上がるような煌びやかで厚みのある音の波と包囲感の中で、微細な音を隠さず鳴らしてくれる。7.1ch音声収録のBDソフトはまだそんなに多いとはいえないが、HDオーディオ対応と併せてBDソフトの本来持つ全機能を引き出す条件を網羅した本モデルは、このクラスでは希有な存在だ。

5.1chシステムでもサラウンド感は味わえるが、AX-V565ではさらに左右のサラウンドバックスピーカーを追加して7.1chシステムを構築できる 今回の取材ではスピーカーにヤマハのNS-310シリーズを使用した。サラウンドスピーカー(SL/SR)は5.1ch時はリスニングポイントから垂直60度、7.1ch時は80度が設置の目安


実売5万円となると手頃なスピーカーの価格も含めても、競合する製品は一体型のシアターラックの最上位クラスとなる。価格で同等クラスとなれば、店頭のデモなどで本機を中心に構成された本格志向の5.1ch/7.1chシステムの音を聴いて、あまりの実力差に圧倒される姿が目に浮かぶようだ。

「AX-V565」とスピーカーシステムNS-310シリーズとの組み合わせ例


長年使い続けたアナログ機器の映像も高画質で楽しめる

AX-V465/565ともにハイコストパフォーマンスな製品であるが、両機を比較した際に、5.1ch/7.1chの違い以外に差異の一つとなるのがアップスケーリング回路の搭載だ。聞き慣れない言葉という人もいるかもしれないので、用語解説から始めよう。

アップスケーリングの実力をチェックする折原氏

「アップスケーリング」とは、映像信号を上位の規格へと変換して高画質化する機能のことだ。こう聞くと難しそうだと感じるかもしれないが、例えば現在発売されているフルHD(1,920×1,080ドット)の大画面テレビにSD解像度(640×480ドット)のDVDプレーヤーの信号を映そうとしても画面のサイズが合わない。このサイズを変換する動作をアップスケーリングと呼ぶと考えれば良い。アップスケーリングの実際の動作は単純化すると映像の拡大ではあるが、デジタル信号であっても単純に実行すると映像が荒くなる。そこで映像の補完回路を持ちHDMI端子から出力する高性能のスケーラーを搭載するAX-V565の出番となるわけだ。

ちなみに、「だったらDVDプレーヤーを直接TVに繋いだらどうなるの?」と疑問に思う人もいるかもしれない。この場合はテレビ内蔵のスケーラーが働くので、テレビに映像が映らないことはない。このように考えると、AX-V565を導入した場合は、TVの持つ内蔵スケーラーとAX-V565の内蔵スケーラー、二つの選択肢から選べると考えても良いだろう。

AX-V565のスケーラーが動作する条件は、480p以下のHDMI信号、各種アナログ入力の信号だ。例えば最新のBDプレーヤーやDVDプレーヤーなど最初からHDMI端子で1080p出力可能な機器は無関係。どちらかというと、VHSやHDMI端子を持たないゲーム機など少し古い機器の映像を楽しむ際に活躍する機能と言っても良い。ちなみに、AX-V565は”アップ”せずにHDMI端子への変換のみの設定も可能だ。

アップスケーリングのイメージ

AX-V565のビデオアップスケーリングとビデオアップコンバート機能。アナログ放送(480i)やDVDソフトに収録されている映像(480p)を108pのフルHD画質にアップスケーリングし、HDMIで出力することができる

以上の前提条件を踏まえてAX-V565のスケーラーを使ってみると、なかなか良く出来ていると感じた。まずは、赤白黄のAV端子で繋ぐことの多いWiiの画面もAX-V565を通して再生すると画面の精細さが増し、ぼやけ感を解消している。古いDVDプレーヤーで再生したDVDソフト『ダークナイト』もテレビと直繋ぎした場合と比較して鮮明さを増しており、画質向上の効果を確認できた。

アップスケーリング前 アップスケーリング後
480pをテレビとDVDプレーヤーをD端子で直接接続して出力した画像 AX-V565を通して480pを1080pにアップスケーリングした画像。「アップスケーリング前と比べて葉っぱがなめらかになった」と折原氏は指摘する


複雑な配線もケーブル1本に集約。テレビまわりをスッキリできる

またAX-V565がスケーラーを搭載することで、実は使い勝手の面でも大きなメリットがある。

AVアンプを購入したら、BDレコーダーやHDMI端子搭載のゲーム機のようなハイビジョン対応機器以外に、D端子搭載のDVDプレーヤーやVHSデッキもまとめて配線してテレビに繋ぎたいと考えている人も多いだろう。しかし、スケーラーを搭載していないAVアンプに様々な機器を配線した場合、テレビへの接続はHDMIケーブル以外に、繋いだ端子の種類分だけのケーブル配線が必要になってしまう。さらに視聴の際にテレビ側の設定でも入力端子の切り替えが必要になる。

スケーラー搭載のAX-V565なら、信号の種類問わず全ての信号をHDMI端子で出力が可能。このため、どんなに機器を繋いでもAX-V565とテレビを繋ぐケーブル配線は一本でOK、テレビ側の設定もHDMI入力に固定して使える。このため多数の機器を集中管理したい人は、配線の利便性を考えてもAX-V565を選択するべきだろう。

以上、AX-565の性能と機能をまとめてみると、ミドルクラスAVアンプの機能をほぼカバーしていることに改めて気付かされる。更に、5.1chから7.1chに拡張する選択肢まであり、入門機というクラスを越えてヒットを予感させるモデルだ。




YAMAHA AVアンプ 
AX-V565
【SPEC】
●実用最大出力:115W(6Ω、1kHz、10% THD)×7ch ●入力端子:アナログ×5、デジタル×4(光2、同軸2)、DOCK、コンポーネント×2、D4×2、コンポジット×5、HDMI×4 ●出力端子:SP OUT 7ch、サブウーファーOUT、REC OUT×2、コンポーネント、コンポジット、D4、コンポジットAV OUT、HDMI×1 ●消費電力:175W ●外形寸法:435W×151H×364Dmm ●質量:8.5kg

>>製品データベース
>>ヤマハの製品ページ


執筆者プロフィール
折原 一也 Kazuya Orihara

埼玉県出身。コンピューター系出版社編集職を経た後、フリーライターとして雑誌・ムック等に寄稿し、現在はデジタル家電をはじめとするAVに活動フィールドを移す。PCテクノロジーをベースとしたデジタル機器に精通し、AV/PCを問わず実用性を追求しながら両者を使い分ける実践派。