半導体の開発・設計、その営業・技術サポートに携わる人達とお会いして様々な話を聞く機会は私にとっても滅多にあることではない。彼等にとってビジネスの対象は一般消費者ではなくメーカーである。メーカーのエンドユーザーが一般消費者であるのに対し、彼等にとってのエンドユーザーはメーカーと言うわけだから当然だ。

今回お会いした開発・設計の方々はDAC一筋。いわば“DACマン”と言っても失礼ではあるまい。一人はデジタル部に精力を傾けつつもオーバーオールで、もう一人はアナログ部に専念していると言う。そのプライドと生来の真面目さが全身から滲み出ている印象を持った。営業・技術サポートの佐藤氏とは数回お会いしているが、なかなか懐の深さを持った人物で恐らくメーカー側の受けも良いのではないか、と勝手に想像している。何れにせよ“ミクロの世界の戦士”の方々である。

彼らが創り出したDACデバイスは、私のような門外漢であっても先進的であることは判る。例えば、ESOTERIC「D-05」が初めて採用し、知られることとなった「AK4397」だが、これは驚異の32bit分解能を備えるDAコンバーターだ。DSPを含めデジタル演算の32bit対応が日常的になりつつある現在、DACがいつまでも24bitでは矛盾が生じる。この矛盾を「AK4397」は完璧にブレイクスルーしたのである。因みに本製品は192kHzのPCM入力とDSD入力に対応しており、リップルも極小。詳細は避けるがコスト以外は各メーカーの技術者も納得のデバイスとして一気に注目され始めている。旭化成エレクトロニクスの“Audio 4 pro”は、当面この「AK4397」で対メーカー戦略を続けて行くだろうと思っていたが、何とこれをベースとしたより先進的なデバイス“Celesta”シリーズのハイエンドモデル「Celesta C1」(仮称)を年内に供給する体制だと言う。既にこれを「高級機に採用するつもりだ」と言う話を、私は個人的に幾つかのメーカーから聞いている。

早速、「Celesta C1」を聴く機会を得た。聴くと言ってもそれはメーカーの技術者に対するプレゼンテーション用の“評価ボード”を介してであり、実際は各メーカーの回路構成、使用部品、使いこなしなどで変化するから、あくまでも参考と言う範囲だ。また、PCM入力44.1kHz/16bitのみの試聴である。しかし、先行の「AK4397」のボードと比較ができた。


「Celesta C1」を搭載した評価ボードによる音質テストは音元出版オーディオ試聴室で行った (クリックで拡大) 評価用ボードに別途電源ユニットを接続してリスニングを行う。プレーヤーからの音声入力は同軸デジタル、出力はアナログLRからアンプへ送り出す (クリックで拡大)

結論から先に言えば、凄い分解能とSN比である。オーディオ的聴こえの領域で差はないといっていい。無理やり相違を言えばこじつけになってしまう。つまり、両デバイスはそれだけ高次元に位置するのである。ただ、「Celesta C1」にはデジタルフィルターが組み込まれており、その切換による特に高域方向の表現や空間感の違いは曲想によってかなり変化し興味深いものがあった。

今日の内外デジタルプレーヤーなどに採用されるDACは何処も同系・同類ばかりだ。消費者側で選択はできないわけで、この点では欲求不満は募る。もっと様々なDACを知りたいし、聴きたい。勿論、コストパフォーマンスはもとより重要だが、各メーカーはこの際、DACについて選択肢をもっと広げていいのではないか?と思う次第である。なお、“Audio 4 pro”はCelestaXのシリーズについて、「Celesta C1」のみならず幾つかの価格ラインナップも展開し、積極的にシェアアップを図ってくるようである。こちらの動向にもぜひ、注目したい。