ポータブルDAC/ヘッドホンアンプ

CHORD「Hugo 2」国内発表。DAVEの開発成果を投入、演算規模は従来機の2倍

2017/03/16 編集部:小澤貴信
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アユートは、英CHORD ElectronicsのDAC内蔵ポータブルヘッドホンアンプ「Hugo 2」の日本発売を発表した。発売日および価格は現時点で未定となり、決定し次第アナウンスされる。カラーはブラックとシルバーを用意する。

Hugo 2(シルバー)

カラーはシルバーとブラックを用意

Hugo 2は、CHORD初のDAC内蔵ポータブルヘッドホンアンプ「Hugo」の後継モデルとなる。CHORDはフラグシップDAC「DAVE」を昨年発売したが、Hugo 2にはDAVEの開発成果が投入されたという。

本日、アユートは製品発表会を開催。Hugo 2のグローバル価格は1,800ポンドで、日本でもこれに為替状況を加味した価格になる見込みだという。発売時期は未定だが、2017年5月を目指したいとのことだった。

CHORD Electronicsより、ジョン・フランクス氏(左)、DAC開発を手がけるロバート・ワッツ氏(中央左)、Poly開発を担当したラジヴ・デイブ氏(右)が登場

Hugoに引き続き、独自アルゴリズムを組み込んだFPGA(フィールド・プログラマブル・ゲートアレイ)を搭載。これにより実現したWTAフィルター、およびディスクリート構成のパルスアレイDACによって、高精度なD/A変換を実現する。またHugo 2はWTAフィルターを従来機から大幅に進化させた。

具体的には、従来のHugoのWTAフィルターは26,000タップ(タップは演算数を示す)、8FS(8倍オーバーサンプリング)という仕様だった。

これに対してHugo 2では、約2倍となる49,152タップ、16FS(16倍オーバーサンプリング)というWTAフィルターを搭載。これにより、さらなるタイミング精度(時間精度)の向上、ダイナミックレンジの向上、-175dBという極めて低いノイズフロアを実現した。

再生スペックも大幅に向上。従来のHugoの再生上限が384kHz/32bitおよびDSD128(5.6MHz DSD)だったのに対して、Hugo 2では最大768kHz/32bit、DSD512(22.5MHz DSD)のネイティブ再生に対応した。なお、DoPではDSD256までの対応となる。

Hugo 2(手前)と、旗艦DAC「DAVE」(奥)

Hugo 2(ブラック)

機能面では、新たに4種類のデジタルフィルターを搭載し、好みの音質を選択できるようになった。また頭外定位のような音場表現を可能とするクロスフィード機能も新搭載した。

ヘッドホン出力も従来から強化され、出力段に新型デジタルDCサーボを採用することなどで、さらなる高出力と低歪みを実現したという。ヘッドホン出力は1050mW/8Ω、740mW/33Ω、94mW/300Ω。ダイナミックレンジは126dB、歪みは0.0001%(3V 300Ω)、出力インピーダンスが0.025Ωといった優れた特性を備える。

デザインも刷新。筐体には航空機グレードのアルミニウムシャーシを採用する。据え置き用途を想定してリモコンも付属する。

上部から見たところ

本体色にカラーを合わせたリモコンも付属。

ヘッドホン端子は、6.3mmステレオ標準端子×1、3.5mmステレオミニ端子×1を搭載。アナログ・ライン出力として、RCAアンバランス端子を搭載する。

従来モデルではmicroUSB入力を出力スペック別に2系統搭載したが、Hugo 2では1系統のみの搭載。また、別途充電用のmicroUSB端子を備える。その他、768kHz/32bit対応の同軸デジタル入力、192kHz/24bit対応の光デジタル入力を備える。引き続きaptX対応のBluetoothも内蔵する。

ヘッドホン端子は標準/ミニの2系統を搭載。RCAのライン出力も備える

USB端子は2系統を搭載するが、片方はUSB入力用、片方は充電専用だ

2,600mAhのリチウムイオンバッテリーを内蔵し、約4時間の充電で約7時間の駆動に対応。急速充電機能も備えている。

外形寸法は100W×22H×130Dmm、質量は約450gとなる。

D/A変換の要となるWTAフィルターが大きく進化

本日開催された製品発表会には、CHORD Electronicsより、マネージングディレクター兼チーフデザイナーであるジョン・フランクス氏、同社のDAC開発を創業から一貫して手がけているロバート・ワッツ氏、Polyの開発を行ったラジヴ・デイブ氏らが登場。技術や使用について詳細な説明を行った。ナビゲーターは佐々木喜洋氏が務め、通訳と共に各技術について解説も行った。

ロバート・ワッツ氏

前述のように、Hugo 2は49,152タップ、16FSのWTAフィルターを搭載。これは従来のHugo(26,000タップ、8FS)の2倍の規模となる。Hugo 2のWTAフィルターは、内蔵されたFPGA内にて、208MHzで並列動作する45個のDSPコアで構成されている。

2段目(2次)のWTAフィルターでは、さらに16倍のアップサンプリングを実施して、256FSまで引き上げる(従来のHugoでは、2次WTAフィルターでは16FSまでの引き上げだった)。

こうしたWTAフィルターの性能向上により、タイミング精度をさらに向上させることが可能になったという。このときのWTAフィルターの精度は81ナノ秒にもなる。

FPGAは従来のHugoから変更され、同じXilinx社だが最新世代となる「Artix7」が採用された。これはMojoに搭載されたFPGAと同じものだが、非常にコンパクトなMojoでは、電力や周辺回路の関係で、その性能が発揮しきれていなかったという。Hugo 2ではDSPをはじめ100%の性能が発揮できるとワッツ氏は語っていた。

FPGAでデジタル処理を行い、パルスアレイDACでD/A変換を行う

ワッツ氏の解説に前後して佐々木氏は、CHORDの独自のD/Aコンバーターの技術について解説した。「CHORDのDACは、FPGAを中心に据えていて、ここにWTAフィルターが実装されています。一方で、FPGAで直接アナログ信号への変換を行っていると誤解しているケースを見受けますが、実際にアナログ変換を行っているのはその後段のフリップフロップ回路です。

佐々木喜洋氏

このフリップフロップ回路と抵抗が1組になって、パルスアレイDACを構成しています。FPGAではパルスアレイ信号が生成され、このパルスアレイDACでD/A変換を行います。Hugo 2では10エレメントのパルスアレイDACを搭載していますが、これはフリップフロップ回路と抵抗の組み合わせが全部で10組あるということです」。

ポータブル領域を超えたオーディオ性能をさらに進化させた

Hugo 2では、ノイズフロア変動歪(音楽信号に応じてノイズフロアが上下することで生じる歪の一種)の低減を実現したことも特徴。ノイズフロア変動歪は、音を識別する脳の能力に影響するため、人間の近くは特にこの問題に敏感だという。

Hugo 2をはじめ、CHORDが採用する独自のパルスアレイDACは、原理的にこの歪を極小に抑えることが可能だという。加えてHugo 2では、アナログ領域のノイズ低減とともに広範囲なRFフィルタリングを採用する。

さらに、グランドの問題によるノイズと歪みを除去するために4層基板を採用。ジッターについても、DPLL(Digital Phase Lock Loop)によって除去する。こうした対策により、-175dBという極めて低いノイズフロアを実現したという。

優れたオーディオ特性もアピール

また、非常に難しいというDSD再生におけるノイズフロア歪変動への取り組みも実施。Hugo2は大幅に改良されたDSDフィルターを採用し、帯域歪みとノイズから生じるDSDの音量問題を抑える、200dBを超えるフィルタリング性能を実現したとする。

CHORDが重視する奥行き再現を左右するというノイズシェイパーは、Hugo 2では10個のパルスアレイから構成。ノイズシェイパーは104MHzで動作する7次フィルターへと改良され、260dBの性能を備えるとのこと。これは従来の1,000倍の分解能に相当するという。これにより、優れた細部の解像力と音場の奥行き方向の再現を改善させたとする。


新たに4種類のデジタルフィルター切り替えも実装された。これは本機から追加HFフィルター(HF:ハイ・フリークエンシー)によるもの。「1次WTAフィルター+2次WTAフィルター+HFフィルター」「1次WTAフィルター+HFフィルター」「2次WTAフィルター+HFフィルター」「1次WTAフィルター+2次WTAフィルター(HFフィルター:オフ)」の4通りから選ぶことができる。

ロバート・ワッツ氏は「HFフィルターを用いることで、音に暖かみが加わる」と説明。なお、このHFフィルターはWTAフィルターとは別モジュールで、40kHz, -3dBに設定されている。主に88.2kHzを超えるハイレゾ音源の残留ノイズを除去する効果があるのだという。

ヘッドホン出力もさらに向上。圧倒的な測定値

Hugo 2はDACの後段にディスクリートによる出力段を採用。これがヘッドホン出力を担うことになるが、この出力段は負荷や歪みを低減する2次ノイズシェイパーを採用したアナログ回路を特徴とする。さらに、高出力と低インピーダンスを実現する昇圧回路も備えている。これにより、純Aクラスの出力段、極めて低い出力インピーダンスを実現したという。

発表会会場では、Astell&Kern「AK380」や「AK T1p」と組み合わせたデモも実施

前述のように3段階で設定できるデジタルクロスフィード機能も備えるが、これは48bitのDSPコアに実装されている。クロスフィードは、アナログタイプのIIRフィルタリングを採用する。

Hugo 2の測定値を示して、その性能をアピールしていた

最後に実際にHugo 2の特性を測定した結果についても紹介。測定上では-177dBにもおよび変動歪もないノイズフロア、1方のチャンネルの混入をほぼ排除したチャンネルセパレーション、極小のジッター、ガルバニックアイソレーションによって光伝送と同レベルのノイズ排除を実現したUSB伝送などがアピールされた。ロバート・ワッツ氏は、「測定性能でHugo 2を上回れるDACはDAVEのみ」と自信をみなぎらせていた。

Hugo 2用のモジュールも登場予定?

今回、Mojoをネットワークプレーヤー化する専用モジュール「Poly」も同時に発表されたが「Hugo 2用に同様のモジュールを発売する予定はないのか」との質問が飛んだ。

これに対してジョン・フランクス氏は「Yes!」と力強く返答。現時点では構想があるというレベルのようだが、実現へ含みを持たせた。このやりとりに対して佐々木氏は「Hugo 2のボタン配置が天板部に変更されたこと、microUSB端子が2つ並んでいることなどがヒントになるのでは」とコメントしていた。

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