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公開日 2006/02/27 16:59

<TVF2006レポート>トークフォーラム詳報 審査委員が語る今年のビデオフェスティバル(前編)

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トークフォーラム「市民ビデオの新しい展開」
         
         2006年2月18日 日本ビクター株式会社主催
         東京ビデオフェスティバル2006
                            トークフォーラムより。


本年の東京ビデオフェスティバルTVF2006発表・表彰式は大林宣彦監督のゆったりとした語り口の総合司会で進められた。

審査員のトークフォーラムでは、審査員たちの丁丁発止の議論が交わされ、熱心な審査風景の一端が垣間見られた。今年のフォーラムの中から審査員コメントをご紹介しよう。

フォーラム参加審査員(敬称略)

大林宣彦(映像作家)

小林はくどう(ビデオ作家・成安造形大学教授)

佐藤博昭(ビデオ作家・日本工学院専門学校教員)

椎名誠(作家)


高畑勲(アニメーション映画監督)

羽仁進(映画監督)

北見雅則(日本ビクター(株)カムコーダーカテゴリー長)

      目次

(1)感性で見て審査
(2)アニメの作品は技術的に高度でもかえって難しい
(3)個人製作の良し悪し
(4)自分のメッセージやテーマが必要
(5)最初のTVFグランプリは中学生の作品
(6)アカデミー賞受賞作がTVFに応募。
(7)被写体との関係から素晴らしい作品ができる
(8)機材が市民の表現活動を後押し
(9)日常を見つめる心が深くなってきた
(10)持続的に社会の中で循環する活動
(11)関係をどう作って映像化していくか
(12)映像の類型化・・・ホリエモン騒動に見る視点の固定やマスコミジャーナリズムの自縛コード
(13)パターン化を突き破る創造の力を



(1)感性で見て審査

大林宣彦:ヴィデオフェスティバルも28年目を迎えました。世界中ではいろいろな人が暮らしていて、愛したり恋したり戦争が起きたり、そのような中に私たちのビデオがある。私たちはビデオの世界に生きているわけではなく、広い世界に生きていてその中に私たちのビデオがある。
 ビデオで作品を作ったり見るということも、そんなわけで私たちの日常の暮らしの一部です。

椎名誠:感性でいつも見ていて、(今回は北極にいて全入賞作は見ることができなかったが)そうなのか、こういう見方をするのかという感じがありました。『家宝の作り方』は自由にのびのびと作っているようで楽しく良かったです。

「家宝の作り方」作者:宮澤晴恵 (長野県)

(この作品について椎名審査員は「今回のTVFは若い人と女性の作品が目立って増えて新しい展開を感じた。この作品はその始まりとなる作品だ」とコメント。)



(2)アニメの作品は技術的に高度でもかえって難しい
 
高畑勲:アニメーションというものは難しいなあといつも感じている。(今回の)入賞作全体を見ると実写のほうが好きなんですね。映像の作り方に関してはいろいろなことができるようになってそれをこなしている。『バード』などこった映像だし。でもそれができるから難しくなった。昔だったらできないことをやった時に、そのこと自体を新鮮に受け取ることができましたが、今はかえって難しくなってきているんではないかと感じます。 
 一人だと人が見ておもしろいかどうかを考えなくても作れるというところがある。そこに良い面、悪い面がある。人に自分が伝えたいことをわからせようという努力がどうもちがうんじゃないかという気がしますけれど。

「Birds」半崎信朗(東京都)

(「洗練された美意識を感じたので作者はお年を召した方だと思ったらお若いので驚いた。」(羽仁進)」



(3)個人製作の良し悪し

羽仁進 :『下班時間(仕事が終わる時間)』という台湾のアニメがおもしろかった。これは大きなストーリーは時間の中で人間がとらわれているという描き方のように見える。ところがよく見てみると、その中で人間が結構抵抗している。時間なんていうものは、実に不可思議なものかもしれないというところが描かれているんですね。ただ、これを一般の人に見せてわかる人は少ないかもしれない。
 でも、ビデオというものは、そんなに山のような人が見なくてもなりたつんじゃないか。大勢の人がみてもわかるかわからないかという映画でも、小さい映画館で細々やって2年で制作費が戻ったなんていうこともある。

「下班時間(仕事が終わる時間)」Chen Kang Wei (台湾)

「下班時間(仕事が終わる時間)」Chen Kang Wei (台湾)

大林宣彦:若い人が素晴らしいセンスの作品を作ると同時に、伝達能力が希薄になっているとも言われます。外国の人から見ると日本映画はどうしてこうアマチュア映画になったんですかと。つまり5メートル範囲の中のことは素晴らしく描けるけれど、5メートルの向こうに住んでいる人にはちっとも伝わらないと。映画というものの時代は、自分から一番遠いところにいる人にどうものを伝えるかが技術であり、あるいは表現の主題の選び方だということがありました。



(4)自分のメッセージやテーマが必要

小林はくどう:TVFスタートの頃は、ビデオカメラ普及率は0パーセントの時代だった。家庭用ビデオカメラの登場で、特権的なアーティストという名で表現することだけでなく、初めてビデオを撮った人も映画監督も皆同じ画像でスクリーンで出る。これがある種のブラウン管民主主義ではないかな。みんな権利があるわけだからみんな作って発表できるような仕組みを考えたいということがこの東京ビデオフェスティバルにつながってきたんです。
 そこで重要なことは、自分のテーマとして撮るんだけれど、自分が社会の一番初めの観客になる。ですからメッセージが必要なんです。今回はそのメッセージがすごく強くでてきたと思います。
 『家宝の作り方』でも、これは一人ではいくらがんばってもできない映画。おじいちゃんがいて孫娘がいて、その関係の中で(家宝としてラーメン作りを教わり)味わっていく。家族や親戚まで広がっていくコミュニティーが見えた。 グランプリの「羽包(はぐく)む」では、いろいろな目線がある中、信頼している関係があって、きちんと生きていることをカメラで撮ることで、被写体と握手して被写体を支えている。こういうことが見えてくる。

「羽包む」中井佐和子(奈良県)

(若くして母親になり子どもを育てる親友の姿を見つめた作品。いつも激論が交わされる大賞受賞作で、本年度は審査員全員一致のビデオ大賞を受賞。)

小林: こういうことは学校教育の中で技術としてハウ・ツーとして教えるのではなく、作品の中に眠っている家族論や男女のジェンダーの問題などを解き明かしながら、自分のテーマではっきりさせていくことだと思う。



(5)最初のTVFグランプリは中学生の作品だった。

大林:最初のグランプリ作品は14歳の中学生の『走れ!江ノ電』だった。これは素晴らしかった。

「走れ!江ノ電」川崎市御幸中学校放送部(神奈川県)

(当時御幸中学生だった佐藤実さんと中学の恩師原勤先生登壇。)

佐藤博昭:これは地域の問題を中学生がカメラを使って取り組んでいくという、とても象徴的な素晴らしい作品だった。

原:昔は良い時代だった。雪が降った時に彼が仲間と一緒に江ノ電を取りに行きたいと言い出した。授業があるからそれは駄目なのに、この子が目に涙をためて「運動部の試合は授業があっても行かせてくれる、それなら雪の撮影は試合みたいなもので最後のチャンスなんだから行かせて欲しい」と校長に訴えた。そしたら校長が今の一言はすごい、行ってこいと撮影に行かせてくれたこともありました。

大林:第1回目の出品者には、今日本映画の中核になってきている森田義光君や山形直人君などもいた。これからの時代のビデオの可能性を見つめようということで、そういう人たちの作品を駆逐して中学生の作品が選ばれました。
 亡くなられた審査員の荻昌弘さんが、ビデオのこれからは子どもと女性とお年よりが増えると。今までの制度的な映像作品の中で参加しなかった市民たちがビデオで作品を作り出すだろうとおっしゃっていました。



(6)アカデミー賞受賞作がTVFに応募。

大林:3回目の受賞作、「サード・アベニュー」はジョン・アルパートさんがニューヨークで撮影した素晴らしい作品だった。当時の社会制度の中ではこういうところに集まる一人で作った作品はアマチュアの素晴らしいビデオという言われ方。我々はそう思わず、市民ビデオというアマ、プロを超えた市民が作るビデオという捕らえ方。アルバートさんは、その後何度も入賞しグランプリも取り、いまだに同じ活動を続けて今は世界のビデオアーチストのトップになっています。同じことをやっているのに、社会の方が彼をアマチュア作家から世界のトップビデオジャーナリストへと認識を変えてきた。
 今年もアルバートさんの仲間からチェルノブイリ・ハートという作品が出品された。これはアカデミー賞の短編作品賞を受賞している作品だ。

(チェルノブイリハートのマリアン・デレオさん登壇。)

「Chernobyl Heart(チェルノブイリ・ハート)」Maryann Deleo(アメリカ)

(1986年のチェルノブイリ原発事故で放射能汚染された立ち入り禁止区域に入って取材。ベラルーシの病院で被曝した子どもたちや事故後生まれたこどもたちに障害が出ていることを見つめた。)

佐藤:この作品はジャーナリスティックな視点で評価されているドキュメンタリー作品だが、作家性をはっきり持っている。DCTV※作品の伝統みたいなものかもしれないが、誰がここに行ったんだという具体的なことが問題にされていて、私が見たのはこれ、この人たちのこの話をきいたんだという、これが大切なんだなと思う。そのデテールの素晴らしさを感じる。
  
小林:この作品は事故からずっとたった現在でも、生まれた子どもたちが事故の影響を受けているのを撮っている。その子たちのことを俯瞰的に見るのでなく、患者さんと近い関係で撮っている。看護婦さんの子どもの抱き方に心を痛めたり。そこから社会の構造が見えてくる。

デレオ:ジョン・アルパートさんと一緒に働いていたときがあり、作品の描き方は似ていると感じている。日本の方々にとっても興味深い題材だと思って、このフェスティベルに出品しました。

※DCTV:1972年にジョン・アルパートと津野敬子夫妻によりニューヨークで設立されたNPO非営利団体Downtown Community TVCenter。地域に密着しながらビデオドキュメンタリーを制作。2005年度のTVF大賞にはDCTVディレクターのルノー兄弟が取材、制作したイラク戦争従軍米州兵とその家庭を同時に追ったドキュメンタリー『off to war』が選ばれ、本年度はその後の経過を追った作品『Echo Troop(エコー小隊)』が入賞している。


『Echo Troop(エコー小隊)』Brent Renaut/ Craig Renaud (アメリカ)

※ 以上の審査員発言は部分的に割愛編集してあります。




( 取材/文責:山之内優子 )

≫次項に続く

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