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「選択の自由」が増える一方、セキュリティへのリスクも懸念

「スマホ新法」が12月18日施行へ。アップルへの影響は? ユーザー体験はどう変わる?

公開日 2025/12/15 06:40 山本 敦
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スマホ新法はスマホアプリなどの「公正かつ自由な競争の確保」を目的に策定された

2025年12月18日に「スマートフォンにおいて利用される特定ソフトウェアに係る競争の促進に関する法律」(以下、スマホ新法)が施行される。

この法律は2023年5月に欧州委員会が施行した「EUデジタル市場法(Digital Markets Act:DMA)を参照して、公正取引委員会(公取委)が制度設計にも深く関わった。

アップルやグーグルといったプラットフォーム事業者を対象として、OSやサービスの開放を要求する事前規制の法律だ。

スマホ新法が目指すもの

スマホ新法は「特定ソフトに係る市場における公正かつ自由な競争の確保と、スマートフォンの利用者における利便性や安全・安心の確保の両立を図ること」を目的として掲げている。今年の7月29日には公取委が成案となるガイドラインを公開して、法律の具体的な運用方針を明確にした。

この法律の根底にあるのはプラットフォーム事業者による管理を否定し、アプリの提供者に自由を任せるというプラットフォームの「中立化」の視点だ。

具体的には代替アプリストアの設置容認、代替決済手段の利用許可、ブラウザエンジンの制限禁止、そしてユーザーがブラウザや決済サービスなどのデフォルト設定について、容易に変更できる措置の義務付けなどが含まれている。

特にハードウェアとソフトウェアを垂直統合したクローズド型のエコシステムを持つ、アップルのデバイスとサービスがターゲットとされている。

サービスとユーザーの端末をエンド・ツー・エンドで結び付ける統合型管理のスタイルは、アップルにとっては競争戦略の根幹でもある。

スマホ新法は、iPhoneとiOSのオープン化を強く求めるものであり、従来製品とサービスを独自に差別化することにより、競争と革新を維持してきたアップルのビジネスモデルの根幹を揺るがす可能性がある。

最大の課題として指摘されているのがセキュリティリスクだ。OS機能の開放は、これまでプライバシーとセキュリティを優先してきたアップルの安全設計を迂回させ、第三者企業がOSの基盤層へ直接アクセスできるようにしてしまう。

例えばAirDropやカメラ機能へのアクセスを外部に許可すれば、ユーザーの機密情報が漏洩したり、監視・追跡につながるおそれがあり、重大なプライバシー侵害を招きかねない。

専門家が指摘する法律の問題点

今回は独自取材として、競争法と国際経済法を専門とする関西大学法学部 法学政治学科の滝川敏明名誉教授に、スマホ新法への見解を聞いた。

滝川氏は、独占禁止法(以下 独禁法)の場合は総合的な判断を要する企業による自社優遇や差別の行為について、スマホ新法では「当然に違法」とする硬直的な事前規制として導入される点が「自由主義経済の原則に反しているのではないか」と指摘している。

企業間における一般的な競争上では、自然なことであるはずの「自社優遇」の行為が法律で禁止され、企業の活動を限定してしまう点を滝川氏は問題視しているのだ。

さらに、スマホ新法はアップルによる技術的統一性を確保することをひとつの目的とした、クローズドなエコシステムの設計哲学に対して外部から細かく介入する「マイクロマネジメント」を招き、品質や機能性の低下につながるリスクがあるとも滝川は述べている。

その介入の基準が、消費者利益よりもアプリ事業者の保護に偏っているように見える懸念もあるという。また、法律でOS機能の開放を義務付けることは知的財産権の趣旨を否定し、長期的にはイノベーションを損なうことにもつながりかねない。

ここでいったん、スマホ新法のメリットについても考えてみたい。

スマホ新法により、App Storeを代替するアプリストア、Apple Payの代替となる非接触型決済サービス、あるいはブラウザや決済アプリのデフォルト設定を容易に変更できる「選択の自由」がもたらされる。

公取委はガイドラインの成案において、法の基本目的に「スマートフォンの利用者における利便性」を追記しており、利用者に向けて利便を確保する姿勢を打ちだしている。

だが、その対価としてもたらされるデメリットもある。ひとつは前述の通りセキュリティとプライバシーへのリスクだ。

デフォルト設定の変更画面が強制されることにより、特にITリテラシーの低いスマホのエントリーユーザーや子供などが、リスクや不便を十分に理解しないまま安全性の低い選択をしてしまうことも見込まれる。

環境改善には「ユーザーの声」が欠かせない

スマートフォンの分野でも生成AI関連技術が競争の中心になりつつある一方で、セキュリティ上の懸念や事前規制への対応の複雑さから、アップルが今後日本で先進的な新機能の導入を延期、または見送る可能性も指摘されている。

実際、EUでは「DMAによる規制の不確実性」を理由にApple Intelligenceの提供が当初の予定より遅れた前例がある。

滝川氏はもしスマホ新法がデジタル業界の健全な発展を希求するのであれば、スマホ新法のような硬直的な事前規制法ではなく、公正取引委員会が既存の独禁法により課題に対処するべきだったと述べている。

独禁法は、特定行為の違法性や合法性を個別事例ごとに総合的に判断し、是正措置も柔軟に調整できる法律だからだ。

実際に2021年には公正取引委員会による調査を受けて、アップルはApp Storeのガイドラインを見直し、電子書籍や音楽配信などのアプリ内に外部サイトへのリンク設置を許可している。

スマホ新法の施行開始後に、もしアップルが日本で新しい機能の利用を制限したり、またはiPhoneやiOSまわりのセキュリティや利便性が損なわれるようなことが起きた場合、その問題を公取委の運用にフィードバックすることが「ユーザーが取り得る有効な行動になる」と滝川は語る。

例えばソーシャルメディア(SNS)などを通じて、自身の意見や意思を積極的に発信することも、公取委のガイドライン運用や今後の政策対応に影響を与える大きな価値を持つのではないかとも滝川氏は指摘している。

スマホ新法が施行された後も、制度をより成熟させていくためにはスマートフォンのユーザーが自身の体験に基づく声を発信し、議論に継続的に参加することが重要になってくるだろう。

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