シリーズ初の4K UHD化プロセスとは
決め手はAI?『超時空要塞マクロス愛・おぼえていますか』初の4Kブルーレイ化の裏側に迫る
■AIによる作画ディテールの明瞭化。クープ開発「FORSAI」の実力がすごすぎる
「最新のフィルムスキャン」でより鮮明化した「愛おぼ」についての魅力と、それを実現させたエンジニアの苦心をお伝えさせて頂いたが、本アイテムではこれまでのソフトパッケージに無かった新たなアプローチが取り入れられている。それは、2024年2月に発売された「マクロスゼロ Blu-ray Box プレミアムリマスターEdition」でも用いられたクープ開発の画像改善ツール「FORS AI」によるピント調整、作画ディテール強調だ。
取材の場には作業担当者不在かつ、「企業機密」とのことでどういった処理が行われているのかを聞くことが叶わなかったが、下記に掲載する「FORS AIシステムを通す前・後の画像」を見て頂ければお分かりになる通り、その効果は非常に目覚ましい。最終的な4K版の場面写ではないものの、キャラクターの描画線はシャープになり、コックピット内計器の表示ディテールのにじみ感が一掃される。そして、背景に輝く宇宙の星々も埋もれていた作画が引き出されたのか、その数が増えている。まさに「線を書き直し、セル画を再撮影した」かのような鮮明化である。
また、鮮明感とあわせて触れておきたいのがフィルム映画特有の「粒状感」について。本作の4Kリマスターにおける粒状感は、クープのエンジニアサイドで方向性を定めたのち、「マクロス」シリーズの権利元であるビックウエストや、発売元のバンダイナムコフィルムワークスのチェックを経た上で河森監督のチェックを受けるといったフローで策定したという。その中で、直近のパッケージである2016年盤よりも良いものを目指すべくフォーカス調整や、入念なパラ消しを行ったとのことだ。
取材の場で再生された映像を見るに、今回の4K UHD盤はこれまでの盤以上にフィルムの粒状感は少なくなっている印象。ただ、粒状感を一切排除した訳ではなく、フィルム映画の味と4Kの解像感を両立させたテイストに仕上げたといったところだ。実際にチェックの段階では「公開当時の映写」を意識した粒状感の強い仕上げも用意されていたとのことだが、比較の結果、今回製品化される鮮明感に振った仕上げを河森監督がチョイスしたという。
取材に同席していたビックウエストの平井伸一氏によると、メディアのデジタル化が進むにつれてじわじわと画に乗るフィルムの粒子が減少しており、近年ではユーザーも粒状感を減らした画面作りを好む傾向があるそうだ。この粒状感のバランスについては、Blu-rayの2012年盤製作の際にも「難儀をした」と当時を振り返る。
様々なメディアでソフト化をする都度、河森監督がマスターをチェックしており、2012年盤のアプローチについては「セル画で作ったフィルム」を意識した粒状感が演出された。その揺り戻しというわけではないが、このたび発売される4K UHD盤は上記の通り鮮明化に振ったとのこと。その一方で、5Kスキャンを行ったオリジナルの素材は粒状感が強く、それをそのまま出すと「非常に目立ってしまう」と明かしてくれた。
庄司氏をはじめとしたエンジニアの熱量が注がれ、これまでに無い鮮明感を獲得した4K UHD盤『愛・おぼえていますか』であるが、「リマスター作業で最も苦労した点は?」との問いを投げかけたところ、劇場公開の後年発売されたOVA『超時空要塞マクロス Flash Back 2012』にて、新規作画で描かれた「天使の絵の具」パート、いわゆる「完全版エンディング」だったとの答えが返ってきた。
本編こそ35mmのネガフィルムが残存しているものの、「天使の絵の具」パートについてはSD素材しか残されていなかったとのことで、天と地ほどの画質差のあるSD素材の4Kブローアップ化を行ううえではかなりの試行錯誤を繰り返したという。SDの限られた情報を活かし、シャープネス強調などフィルムにはなかった要素やノイズを低減し、4K画質との擦り合わせを実施した。「苦労した結果良い物が出来あがった」と自信の程を覗かせた。
ちなみに音声周りは2012年盤から特に変化がないとのことだが、「当時は気付かなかった」というノイズを1点だけ修正したという。なお、2012年に作成されたDTS-HD MASTER AUDIO 5.1chサラウンドトラックは6mmマルチのオリジナルテープと、BGMパートはCD音源から作成。当時の普及率と非圧縮フォーマットながら再現率などの差でDTSフォーマットが選ばれたとのことだ。
その他の音源(リニアPCMサラウンド/モノラル)についても過去のメディアで収録されたものを引き継いで収録する。ドルビーアトモスやDTS:Xといった立体音響フォーマットの作成については、気が早い話だが「次のソフト化」を期待したい。
劇場公開から40年を経た今でも語り継がれる『超時空要塞マクロス愛・おぼえていますか』。つい先日も2025年の新作TVアニメにて、板野一郎氏によるアクロバティックなミサイル作画表現「板野サーカス(初出は『伝説巨神イデオン』とされる)」がフィーチャーされSNSでトピック入りするなど、その「古びなさ」を再三感じさせられる。
そして、4Kリマスターの制作に携わった庄司氏も「見たことない人に見ていただいて、『40年前にこんな面白い作品が創られた』というのを知ってほしい」との思いを寄せてくれた。幾度も見続けてきた記者のようなファンは4K化に伴う精細化や、暗部表現の向上による作画への気付きといった楽しみ方ができるだろう。
「我々ができることは全部やりきりました」という「超時空要塞マクロス愛・おぼえていますか 4Kリマスターセット」。本記事で語られた思いとともに、楽しんで頂ければ何よりである。
■製品概要
超時空要塞マクロス愛・おぼえていますか 4Kリマスターセット(4K ULTRA HD Blu-ray & Blu-ray Disc) 2025年1月29日発売
(特装限定版)
品番:BCQA-0020/価格:9,900円(税込)
(初回限定版)【A-on STORE、プレミアムバンダイ、超時空ファンクラブ マクロス魂限定】
品番:BCQB-0020/価格:14,300円(税込)
※特装限定版は予告なく生産を終了する場合がございます。
【Disc仕様】
<1984年劇場公開時フォーマット>と<2016年完全版フォーマット>の2種を収録
※劇場公開版(116分)と完全版(116分)をメニュー画面で選択可能。
・日本語・英語字幕を初収録
・映像特典:「天使の絵の具」 from「Flash Back 2012」アップコンバートver.
UHD BD:123分(本編116分+特典:7分)
仕様:DTS-HD Master Audio(5.1ch)・リニアPCM(サラウンド)・リニアPCM(モノラル、一部ステレオ)/HEVC/100G/16:9<2160p UltraHigh Definition>/日本語・英語字幕付(ON・OFF可能)
BD:123分(本編116分+特典:7分)
仕様:DTS-HD Master Audio(5.1ch)・リニアPCM(サラウンド)・リニアPCM(モノラル、一部ステレオ)/AVC/50G/16:9<1080p High Definition>/日本語・英語字幕付(ON・OFF可能)
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発売・販売元:バンダイナムコフィルムワークス
(C)1984 BIGWEST




