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日本での提供は近日予定

ついにスタートしたクラシック専門サブスク「Apple Music Classical」、今わかっていることは?

2023/03/29 山本 敦
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アップルが、クラシックに特化した音楽配信サービス「Apple Music Classical」を3月28日に提供開始した。

Apple Musicのクラシック音楽に特化したサービス「Apple Music Classical」がスタートした

3月29日時点ではまだ日本のほか、中国・韓国・台湾、トルコ、ロシアでサービスが始まっていない。日本でも近日ローンチされることを期待しつつ、新たに始まったサービスについて現時点でわかっていることをまとめてみたい。なお3月10日にアップルがサービスを発表した時点のニュース記事も合わせて参照してほしい。

■ハイレゾや空間オーディオ対応の楽曲も揃う



Apple Music Classicalは2015年7月に開始されたApple Musicに続く、「クラシック音楽と、その愛好家のため」に作られたアップルによる音楽配信ストリーミングサービスだ。スタート当初から500万を超えるクラシックの楽曲を扱う。検索と再生のためのデータベースを再構築したことにより、Apple Musicでは探しにくいクラシックの「作品番号による検索」などを可能にした。

サービス全体で最大192kHz/24bitのハイレゾロスレス/ロスレス再生を採用したとしているが、ハイレゾに対応する楽曲数は公開されていない。ドルビーアトモスによる空間オーディオに対応する楽曲もあり、毎週新しい対応楽曲の追加が予定されている。また本サービスだけの独占配信のアルバム提供なども行われる。

ローンチ当初はiPhoneのみに対応。Android向けアプリは近日提供予定。今後はiPadやMacにも展開が期待される

Apple Musicのユーザーであれば追加料金を支払うことなく、アプリをダウンロードしてすぐにApple Music Classicalが楽しめる。ただ、ローンチ時点ではiPhoneのApp Storeのみで取り扱われるサービスとなり、iOS 15.4以降のiPhone、またはiPod touchが必要。Android向けのアプリについては「近日公開予定」とされている。日本に投入される頃にiPadOS、macOS、tvOSなどへの展開があることを期待したい。



■500万を超える楽曲から、作品番号や楽章・楽器などの条件検索ができる



Apple Music Classicalではクラシックの楽曲メタデータを充実させたことで、聴きたい楽曲を探しやすくしたことが大きな特徴だ。

データベースには2万人以上の作曲家が登録されている。タイトルやアルバムといったApple Musicの検索方法に加えて、作品番号(Opus number)やベートーヴェンの『運命』としても知られる『交響曲第5番 ハ短調 作品67』のように、「通称」からも探せるようになる。ほかにも楽章、指揮者、演奏者、楽器などの多彩なターゲット検索項目が揃う。Apple Music Classicalでは、1,500万以上のデータポイントから楽曲情報をマッチングさせる独自のアルゴリズムを開発した。

楽曲ごとにメタデータを充実させて様々な検索キーワードへの対応を実現した

Apple Music Classicalのアプリを開くと、画面の下には「今すぐ聴く」「見つける」「ライブラリ」「検索」の4つのタブが並ぶ。本家Apple MusicにあるApple Music 1の「ラジオ」を省いたインターフェースだ。

「今すぐ聴く」のタブには、人気のアルバムやプレイリストを集めたコレクションが多数用意されている。Apple Musicのエキスパートであるエディターによりキュレーションされたコレクションは毎週更新される。多彩なバックグラウンドを持つ、世界中のアーティストが厳選した楽曲を集めたプレイリストも配信する。

新作や人気の作品をトップに表示する「今すぐ聴く」

「検索」はキーワードの組み合わせをタイピングして探せる。もちろん各国の言語によるタイピング入力に対応する。

音声によるキーワードの入力にも対応するが、作品名などを音声で一息に入力することが難しい場合もあるためか、音楽の検索と再生の方法をSiriによる音声操作に限ったApple Music Voiceプランの契約では、Apple Music Classicalを利用できない。

検索結果の画面にはエディターによるガイドも表示される。見つかった楽曲の右側に表示される数字は、各作品についてApple Music Classicalで利用可能なタイトルの数。タップすると関連する楽曲をさらに深掘りできる。

検索結果からさらに関連する作品を深掘りしながら見つけられる

Apple Music Classicalの「ライブラリ」に、ユーザーのお気に入りの楽曲を集めたプレイリストを作成すると、同じプレイリストがApple Musicのライブラリにも同時に作られる。反対に、Apple Musicでユーザーのライブラリに追加された作品についても楽曲、アルバム、プレイリストなどの単位でApple Music Classicalからもアクセスができる。

Apple Music Classicalでは、提供開始当初は楽曲をダウンロードしてオフラインで聴くことができない。そのためオフライン再生を利用する場合、いったんApple Music Classicalのライブラリに保存した楽曲やアルバム、プレイリストなどをApple Musicで開き、Apple Musicアプリの側で保存する使い方になる。

再生中画面は作品名のほか、オーケストラ、指揮者、客演アーティスト、録音年などのメタデータが一望できるインターフェースとした。

再生中の画面。空間オーディオ作品も充実する

■専任のエディターによる音楽情報も充実



Apple Music Classicalのエディターはクラシック音楽のビギナーに向けて、アプリ内で楽しめる700以上のプレイリストを作成する。またエディターによる解説解説や、主要な作曲家、時代、楽器にクラシック用語などを音声解説により紹介する「The Story of Classical」をコンテンツとして提供し、読者の興味を喚起した楽曲との出会いを引き出す。プレイリストのなかには、あまり知られていない作品を「Hidden Gems」として毎週紹介するものや、「Composer Undiscovered」として新たな視点を提供する。

「見つける」タブを開くとApple Music Classicalが提供するクラシックの楽曲を制作年代別、ソリスト、オーケストラ、アンサンブルなどの切り口からも探せる。

「見つける」タブは多彩な楽曲のテーマ別検索に対応する

Apple Music Classicalに揃う独自のプレイリストのカバーアートや著名な作曲家のポートレートは、アップルが独自にアーティストに作成を依頼したり、歴史的な研究と関連する古典時代の色調、美術資料などを参照しながら描かれているという。

Apple Music Classicalアプリでは独自に制作したポートレートが使用される

Apple Musicとして、世界の著名なオーケストラやクラシック音楽の団体とのコラボレーションを強化する。今後はベルリンフィルやウィーンフィル、ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団、メトロポリタン歌劇場など、様々な団体とのコラボレーションにより、Apple Musicでしか聴くことができない新作や未発表音源の独占配信を予定する。

またアップルの直営ストアで実施されているイベント、Today at Appleではクラシックの演奏家を招いたコンサートも実施を予定する。

■ヒラリー・ハーンやジョニー・グリーンウッドも新サービスを祝福



サービスを開始したApple Music Classicalに、著名なアーティストも祝福のメッセージを寄せている。

ヴァイオリン奏者のヒラリー・ハーン氏は「これまでクラシック音楽はその長い歴史の中で世界の人々に愛され、信じられないほどに沢山の演奏が生まれました。録音作品のアーカイブも膨大であることから、私たちが聴きたいと思う作品を見つけることが困難でした。Apple Music Classicalの誕生により、演奏家として、また一人の音楽を愛するリスナーとしてクラシック音楽の魅力がより多くの人々に届くことをとても嬉しく思います」とコメントしている。

Apple Musicではヒラリー・ハーン氏が演奏した数多くの作品を配信している

ヒラリー・ハーン氏は、音楽ストリーミングサービスが持つ可能性についても次のように話している。

「どんな音楽も、自分がジャンルなどを意識していなくても好きな場合もあれば、その人のアイデンティティを支えていることもあります。Apple Music Classicalがあれば、無意識のうちによく聴いていたクラシックの楽曲について、その内容が明確になることでより深く愛せるようになると思います。私は幼少の頃からヴァイオリンの演奏を始めました。学生の頃には好きな音楽をラジオ放送から録音したカセットや、CD/MDなど録音媒体を通じで何度も繰り返し聴きました。いま主流となった音楽ストリーミングサービスを、私は演奏家として、音楽を愛するリスナーとして歓迎しています。ツアーで世界中を回る時にも、いつでも好きな音楽を手元で聴くことができるからです」

「Apple Musicがあれば、出かける時に持ち運ぶ荷物も最小限で済みます。飛行機に乗って旅をする前に、私はお気に入りの楽曲を見つけてプレイリストを作り、オフラインで再生できるようにダウンロードしています。また、美術館や博物館など、いろいろな場所を歩きながら音楽を聴いて “頭の体操” もよく楽しんでいます。演奏家である私にとって、音楽がポータブルであることは非常に重要な意味を持っています。ストリーミングサービスがあることによって、私たちは仕事や勉強に集中している時、リラックスしたいとき、感情を支えてほしい時などあらゆる瞬間に音楽を側に携えることができます。だから私は音楽ストリーミングの存在に本当に感謝しています」

レディオヘッドのメンバーであり、様々な楽器の演奏に精通するミュージシャンのジョニー・グリーンウッド氏も、Apple Music Classicalが音楽ファンに与えるインスピレーションについて、その可能性を次のように評価している。

「Apple Musicのように、著名な作曲家たちの人生、その作品について詳しく知ることができるサービスが誕生したことで、私たち音楽ファンは偉人たちの『人間味』にまた一歩近づけるのではないかと期待しています。音楽との接点も確実に広がるはずです。私が10代の頃、友だちの誰かが『ヴィヴァルディの髪は赤いんだよ、知ってる?』と教えてくれたことがあります。その小さな事実が私を魅了して、創造力を掻き立ててくれたことをよく覚えています。そして、もっと本を読んで、もっともっと勉強して、作曲家とのつながりを深めたいと思うようになりました。雲の上の人ではなく、歴史上の偉大な人物と人間的なつながりを感じられるようになったことが私にとって大きな喜びでした」

世界で活躍する一流のアーティストたちも賞賛するApple Music Classicalによる音楽体験がどれぐらい使いやすく、魅力的なものなのかとても楽しみだ。日本でのサービスインを心待ちにしたい。

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