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【連載】佐野正弘のITインサイト 第30回

勢いを失った台湾スマホメーカー、復活のカギを探す長い旅路

公開日 2022/11/04 06:50 佐野 正弘
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最近でこそ、スマートフォン市場では中国メーカーの躍進が著しいが、それ以前に注目されていたのはむしろ台湾のメーカーであったように思う。

実際過去を振り返ると、iPhone登場前後のスマートフォン黎明期から長きにわたって、台湾のHTCがスマートフォン大手として君臨していた。日本市場でも2009年に最初のAndroidスマートフォン「HT-03A」をNTTドコモに供給したり、2012年にはFeliCaのほかワンセグや赤外線通信など、当時日本で利用されていた機能を積極搭載した「HTC J」を、KDDIのauブランドに供給したりするなどして注目を集めてきたのだ。

かつてスマートフォン大手の一角を占めていたHTC。日本でもかつては国内の独自仕様を採用したスマートフォンを積極開発し、大規模な発表会を実施するなど非常に力を注いでいた

また同じく、台湾のエイスーステック・コンピューター(ASUS)も、日本でSIMフリー、現在でいう家電量販店などのオープン市場が立ち上がった2010年代半ば頃から台頭。とりわけ、2014年に発売された「Zenfone 5」(初代)は、海外であまり使われていないことから、SIMフリースマホメーカーの多くが対応に後ろ向きであった、NTTドコモの800MHz帯に積極対応するなど、やはり日本向けローカライズを強化したことで人気を獲得。一時は、オープン市場で大きな存在感を発揮するメーカーとなっていた。

ASUSも日本市場への積極対応で人気を獲得、オープン市場では1、2位を争うシェアを獲得していた時期があった

■近年存在感を失った台湾メーカー



だが現在の市場動向を見ると、これら台湾メーカーが日本、さらに言えば世界的にも存在感を大きく落としている感は否めない。なぜ台湾メーカーが苦境に立たされたのかといえば、市場競争の激化、とりわけ中国メーカーが仕掛けた価格競争が大きく影響したといえる。

中国メーカーは2010年代中盤頃から、お膝元の中国や新興国を中心にコストパフォーマンスの高いスマートフォンを提供し、急速に台頭して以降、ソニーやLGエレクトロニクスなどシェア中位以下のスマートフォンメーカーが、それに対抗できず赤字に苦しむようになった。台湾メーカーもその例にもれず、とりわけスマホ専業だったHTCは長らく赤字が続いて、経営危機すら叫ばれるようになったほどだ。

その結果、HTCは2017年にスマートフォン事業の一部を、米グーグルに売却(現在Pixelシリーズの開発を担っている)するなどして、スマートフォン事業を大幅に縮小。その一方で、2016年に「HTC Vive」でVRデバイスに参入して以降、事業の主軸をVRデバイスへ移しているようだ。

スマートフォン事業が危機に陥ったHTCは、スマートフォン事業を縮小して「HTC VIVE」などのVRデバイスに注力、現在はそちらが主力事業となっている

一方のASUSは、パソコンで大きなシェアを持つことから米インテルとのつながりが強く、以前インテルが力を入れていたスマホ向けプロセッサを調達することで、他社との差異化を図り、価格競争力を維持してきた。だがそのインテルが、スマートフォン向けプロセッサの開発を2016年に中止したことで、他社と同様、米クアルコムなどからプロセッサを調達する必要に迫られ、結果として差異化が難しくなり、価格競争に巻き込まれてしまったといえる。

以前のASUS製スマートフォンはインテル製プロセッサの採用が他社との差異化要素となっていたが、インテルの撤退により他社と同じプロセッサの調達を余儀なくされ、競争力を失っていった

■新製品に見る各社の生き残り策



その結果、台湾メーカー2社はスマートフォン市場で勢いを失ってしまい、現在は生き残りに必死というのが正直なところであろう。

ではその各社が、どのようにして市場での生き残りを図っているのかというと、その方向性はある意味で、国内メーカーに近い。得意分野に注力して付加価値を高め、ターゲットを絞ることで価格競争に巻き込まれにくいニッチ市場に専念するというのが、基本的な戦略となるようだ。

その傾向は、日本で各社が投入している最近のスマートフォンからも見て取ることができる。HTCに関して言えば2022年10月に、日本市場で約4年ぶりとなるスマートフォン「HTC Desire 22 pro」を発売しているのだが、その内容を見ると同社の現在の主力事業となるVR、ひいてはメタバース関連サービスとの連携に力が入れられていることが分かる。

実際にHTC Desire 22 proは、同社のメタバースプラットフォーム「VIVERSE World」などがすぐ利用できるアプリなどをプリインストール。さらに同社のVRデバイス「VIVE Flow」と接続して電力供給もできるなど、VRデバイスを通じてVR関連のサービスを楽しみやすいことに注力している様子がうかがえる。

HTCが約4年ぶりに日本市場へ投入したスマートフォン「HTC Desire 22 pro」(右)は、VRデバイスの「VIVE Flow」(左)と接続してVRサービスを利用しやすい仕組みが整っているのが大きな特徴だ

ASUSも最近、国内で2つのスマートフォン新機種を投入しているが、いずれもターゲットを絞るべく、非常に特徴が際立っている。1つはやはり、今年10月より販売されている「ROG Phone 6」シリーズだが、これはゲームを快適にプレイすることに特化したゲーミングスマートフォンだ。

実際ROG Phone 6は、プロセッサにクアルコム製のハイエンド向けとなる最新の「Snapdragon 8+ Gen 1」を搭載、上位モデルの「ROG Phone 6 Pro」には18GBのRAMを搭載するなど、AAAクラスのゲームを楽しむ上で求められる基本性能を高めることに力が注がれている。それに加えて、横にした状態で上部に超音波タッチセンサーを備え、ゲームに関する操作を拡張できる「AirTrigger 6」を用意するなど、ゲームプレイに特化した設計がなされていることが分かるだろう。

ASUSのゲーミングスマートフォン新機種「ROG Phone 6」。基本性能の大幅な強化に加え、ゲームコントローラーや冷却ファンを装着して機能を拡張できるなど、ゲームプレイに特化した特徴的な内容となっている

そしてもう1機種が、昨日11月2日に日本への投入が発表された「Zenfone 9」だ。Zenfone 9は、大画面化が進むスマートフォン市場において、ディスプレイサイズが5.9インチという片手で持ちやすいコンパクトさを重視。それでいて、ROG Phone 6シリーズ同様、Snapdragon 8+ Gen 1を搭載する高い性能を持つコンパクト・ハイエンドモデルとなっている。

それに加えて、メインの広角カメラに「6軸ハイブリッドジンバルスタビライザー」、要は撮影時の手ブレを抑えるジンバルをカメラに直接搭載することにより、別途ジンバルを取り付ける必要なく撮影時のブレを大幅に抑えられる仕組みを実現。コンパクトなサイズ感とカメラで特徴を打ち出すことによって、大画面スマートフォンでは得られない撮影体験を求めるユーザーを狙ったと思われる。

ASUSのもう1つのスマートフォン新機種「Zenfone 9」。画面サイズが5.9インチと片手で持ちやすいコンパクトさと、ジンバルを内蔵しブレに非常に強いカメラが特徴だ

スマートフォン市場が、成熟・飽和してシェアの固定化が進み、世界的にも利用者の拡大が見込めなくなっている現状を考慮すると、これらの台湾メーカーが、かつての勢いを取り戻すのはなかなか難しい。

それだけに、今後台湾メーカー2社がスマートフォン事業を維持し、成長させるためには、ゲーミングなどのようにニッチでも確実にユーザーが存在する市場を着実に開拓しながら、中国メーカーによる価格競争に巻き込まれない明確なブランドやポジションを確立することが求められる。

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