HOME > レビュー > 【海上忍のAV注目キーワード辞典】放送とテレビと業界団体 − JEITAやARIBって何をしている?

AV機器関連の業界団体の目的は?

【海上忍のAV注目キーワード辞典】放送とテレビと業界団体 − JEITAやARIBって何をしている?

公開日 2013/07/12 13:45 海上 忍
  • Twitter
  • FaceBook
  • LINE

【第22回:放送とテレビと業界団体】

■業界団体の存在

なにかを製品化するとき、製造者の思いつきで仕様を決めると後日の混乱を招く。たとえば、冷蔵庫の消費電力を測定する方法がメーカーごとにまちまちだったりすると、メーカーを横断した機種比較は相当困難なものとなる。アンテナとテレビをつなぐ同軸ケーブルも、減衰量にバラつきがあると誰でも選べるというわけにはいかない。自由競争社会においても、一定の基準/ルールを設けたほうが消費者にとってプラスに作用することがあるのだ。そのような目的で設けられたものが「JIS」などの統一規格であり、対象となる製品分野の秩序を保とうとする「標準化」の取り組みだといえる。

一方、消費者の利益に直結しない"ルール"が、企業など団体の間で結ばれることもある。その基盤であるいわゆる業界団体は、△△工業会や全国○○組合連合会、××振興会といった名称で事業分野ごとに存在し、参加企業に対し一定の拘束力をもつ内規を設けているケースも多い。

こと日本に関していうかぎり、そのような業界団体は私企業の集まりであり、法律や公共の福祉に反しないかぎり活動は制限されない。小規模な業界団体は法律上任意団体であることも多く、内規を公にする義務もない。目的もさまざまで、積極的に情報交換を行い技術向上を目指す団体もあれば、もっぱら親睦を深めることがメインの団体もある。

参加企業が増えてくると、法人格を取得する業界団体も現れる。その形態のひとつである「一般社団法人」は公益性の有無にかかわらず設立でき、営利目的の法人(ex. 株式会社)とは異なり法人も社員になれる。業界団体を構成する企業が社員となりルールづくりに参加すれば、それに拘束されることは自然な成り行きだ。

■政策的な側面も

広義には「家電」に含まれるオーディオ・ビジュアル機器にも、いくつかの業界団体が存在する。家電製品の安全性向上やリサイクルの調査研究を進める「一般財団法人 家電製品協会」、IT・電子部品産業の振興と技術開発の促進を目指す「一般社団法人 電子情報技術産業協会(JEITA)」などが好例だろう。


JEITA公式サイトのキャプチャー
製品によっては、他業種と横断する業界団体も存在する。そのひとつ「一般社団法人 電波産業会(ARIB)」は、通信・放送分野における電波利用システムの実用化と普及を目指し、会員名簿には放送会社やテレビ機器関連メーカー、通信会社など正会員214・賛助会員3団体(平成25年7月1日現在)が名を連ねる。


ARIB公式サイトのキャプチャー
先ほど「公益性の有無にかかわらず設立でき…」と書いたが、JEITAやARIBの設立経緯には政策的・公益的な側面がある。JEITAの前身である日本電子工業振興協会(JEIDA、1958年設立)と日本電子機会工業会(EIAJ、1948年設立)の活動は、当時の通商産業省が推進した工業振興策と大いに関係がある。ARIBの前身である放送技術開発協議会と電波システム開発センターも、通信・放送を管轄した当時の郵政省と関係が深い。そこで決められたルールや指針には、かなりの"重み"があるはずだ。

■テレビを巡る業界団体の役割

7月に入り、いくつかの業界団体の名をメディアで目にする機会が増えた。公式な情報が発表されていないため真相は定かではないが、ある液晶テレビのテレビCMを見かけないのは、業界団体で取りまとめられたテレビ放送に関するガイドラインに製品の仕様が抵触するため放映を拒否されたから……という報道に関連してのことだ。

ARIBは2002年、テレビ(地デジ放送)の運用規定を「地上デジタルテレビジョン放送運用規定」という技術資料にまとめた(リンク)。その後、規定を策定する作業は社団法人デジタル放送推進協会(Dpa)に引き継がれ、改訂を重ねたうえで「放送番組及びコンテンツ一意性の確保に関するガイドライン」という文書にまとめられている(最新版は2007年8月付 ※リンク先PDF)。

この文書からは、当該製品が「番組の一意性が損なわれるような実装」であると懸念された可能性をうかがうことができる。もっとも、業界団体の役割やテレビ局とメーカーの位置関係からすれば、"拒否"と表現されるような激しいトーンは想像しにくい。

本稿冒頭では、一定の基準/ルールを設けたほうが消費者にとってプラスに作用する例を挙げた。テレビについても然り、放送という公共的役割を持つサービスとリンクした製品であるだけに、ある種の基準は必要だろう。たとえば、インターネットに接続可能なテレビ受像機が一般化した現在、テレビ番組の横にバナー広告や独自コンテンツが常に表示される代わりに受像機は格安で提供、といったビジネスモデルも理屈のうえでは成り立つ。しかし、それが認められてしまうと、放送とそれ以外のコンテンツの識別が難しくなり、誰が番組を提供しているかが曖昧になってしまう。テレビ放送そのものの存在意義すら揺らぎかねない話だ。

一方、ARIBは「ハイブリッドキャスト」の技術仕様を取りまとめ標準規格化するなど、テレビ関連産業を先導する役割を果たしている(関連記事)。「基準」や「標準」は製品開発に一定の窮屈さをもたらすことは確かだろうが、それがなければハイブリッドキャストのような新技術をスピーディーに普及させることは難しい。今回の一連の報道では、その窮屈さばかり注目されてしまったが、産業育成における重要な役割についても周知されるべきではないだろうか。

この記事をシェアする

  • Twitter
  • FaceBook
  • LINE

関連リンク