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PRフラグシップヘッドホンの技術を継ぐドライバーユニットの実力を聴く

“本当に良い音” を普段使いしよう。デノン新完全ワイヤレス「AH-C840NCW」「AH-C500W」レビュー

公開日 2025/04/02 07:00 岩井 喬
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インナーイヤー型ながらHi-Fiらしい空間性を感じる、余裕のあるサウンド

まずAH-C500Wから試してみよう(コーデックはAAC)。本体重量は4.5gと非常に軽いが、緻密に追い込んだというボディ形状の効果もあり、耳への馴染みが良い。イヤーチップのないインナーイヤー型であるが、さっと装着したポイントで微調整しなくても十分な低域の量感が得られた。軽量であっても、12mmという比較的大口径なドライバーがもたらす開放的で余裕を持ったサウンドは本機最大の魅力といえるだろう。

 

クラシックの管弦楽器は爽やかな旋律を聴かせ、ティンパニのアタックもクリアに決まる。ローエンドの伸びも素直で、音場は透明度が高く、澄み切ったハーモニーが展開。空間の広がり、左右の繋がりの良いナチュラルなステージ表現も見事であり、イヤホンながらHi-Fiコンポーネントの持つ空間性を実感することができた。

ジャズピアノの響きも鮮度が高くクリアで、ウッドベースの弦も艶やかに描写。ボーカルはボディをスマートにまとめつつも、密度を確保し、ナチュラルな際立ちをもたらしている。口元の動きもメリハリ良く感じられ、潤いのある生々しい表現だ。

丁の「呼び声」は個々のパートが分離良く描かれ、バックを支えるストリングスも粒立ち良く浮かぶ。ハープやアコギの弦は煌き良く滑らかに聴かせ、ピアノの涼やかなアタックと共にクリアに聴かせている。ベースやキックドラムはコシのある密度の濃い描写であるが、余韻もだぶらず音場の見通しが良い。ボーカルの自然さとリヴァーブの階調性の高さも実感できた。

△根強い人気があるインナーイヤー型。カナル型の圧迫感が得意でない方はもちろんのこと、外の音が聞こえやすい構造から “ながら聴き” 用のカジュアルデバイスとしてもおすすめだ

 

同価格帯でも随一の音場再現性。ノイキャンの効果も抜群

続いてAH-C840NCWであるが、こちらもAACコーデックで再生。まずは地下鉄車内でANCの効果を確認したが、走行音やトンネルの反響音など、騒音の中低域成分をぐっと抑え込み、音場のS/Nが向上。さほど音量を上げなくともクラシックの楽器の粒立ちを感じることができた。

 

AH-C500Wと比べてより低域方向の濃密さ、音像の力強さが増した印象が、ANCを切ると低域のブースト感が抑えられ、よりナチュラルな傾向のサウンドとなる。AH-C500W同様、誇張を抑えた素直なサウンドであり、音場のスムーズな広がり、空間性豊かな描写が特徴だ。

クラシックの管弦楽器は分離良くハリ鮮やかで、ハーモニーはほんのりと華やかな響きが加わる。左右間の音の繋がりもシームレスであり、音場再現性については、この価格帯随一のクオリティを持つ。ティンパニの打感も密度良くまとめ、低域方向は穏やかな音伸びを持たせている。

ピアノの響きは幾分マイルドな傾向となるが、ハーモニクスは豊かであり、ジャズのホーンセクションも鮮やかかつ滑らかに表現。ウッドベースの弦は太さと艶感のバランスが良い。ボーカルは肉付きを適度に持たせたナチュラル志向の描写であり、口元のハリ感も滑らかに感じられる。

ロック音源においてもエレキギターの密度の濃さ、ピッキングの粒立ちも細やかにまとめており、耳馴染みが良い。特にリズム隊の存在感の高さ、シンバルワークの丁寧さが際立つ。

丁「呼び声」はベースやキックドアラムのリッチな押し出しと、アコギやピアノ、ストリングスのクリアな際立ち感とのコントラストが良好で、ボーカルもヌケ良く自然に定位。特にコーラスワークの分離の良さ、ストリングスとの前後感など、高音圧かつ音数が多い音源でもバランスを崩すことなく、それぞれの楽器の音色、アタック&リリースを丁寧に捉えている。

△イヤーピースは通常のSサイズに加え、軸が少し長い「ロングS」サイズが同梱される。Sサイズよりも耳の奥へとおさまってくれるため、Sでは不安定だがMでは大きすぎる、という方にピッタリ

 


AH-C500W、AH-C840NCWともに、価格帯の水準を超える空間表現力、誇張なく色付けも抑えたボーカル&楽器描写力を持っており、楽曲への没入感をより高めてくれた。デノンならではのサウンドフィロソフィーである『Vivid&Spacious』、特にSpaciousの要素を色濃く感じたが、この優れた空間表現はスピーカー再生で培ったHi-Fiコンポーネントにおける立体感、臨場感溢れるピュアオーディオと地続きで設計されていることが大きな要因であろう。

特に2万円以下のTWS市場では、Hi-Fiコンポーネントを持たないブランドが大半であり、スピーカー再生ならではの音場の前後感、広がりの経験値がないため、空間表現力が希薄な製品が多くなっている印象を持つ。

いくらハイレゾ対応を謳ったとしても、基礎となる音場再現性が疎かになってしまっては元も子もない。AH-C840NCW/AH-C500Wはハイレゾ級コーデックに対応せずとも、Hi-Fiコンポーネントで長年培ってきた経験値を最大限生かした音作りによって、デノンでしか成し得ないサウンド表現を実現している。

110年を超える歴史を下地に持つ、安定感ある表現力を気兼ねなく普段使いできる、上質さと手頃なプライスを両立したTWSといえるだろう。

 

【試聴音源】

  • レヴァイン指揮/シカゴ交響楽団『惑星』〜木星
  • オスカー・ピーターソン・トリオ『プリーズ・リクエスト』〜ユー・ルック・グッド・トゥ・ミー
  • デイヴ・メニケッティ『メニケッティ』〜メッシン・ウィズ・ミスター・ビッグ
  • TOTO『TAMBU』〜Gift Of Faith
  • 『Pure ~AQUAPLUS Legend of Acoustics~』〜POWDER SNOW
  • 丁「呼び声」

(協力:ディーアンドエムホールディングス)

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