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【特別企画】「色づけしない透明無垢なサウンド」は維持できているか

RME「ADI-2 DAC FS」のDACチップが変わったらしいけど、音も変わった? 実際に聴き比べてみた

2021/11/02 編集部:杉山康介
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独RMEのAD/DAコンバーター「ADI-2 DAC FS」に搭載されるDACチップが、AKM製「AK4493」からESS製「ES9028Q2M」に変更となったらしい。今年10月22日、RME製品の日本展開を手がけるシンタックスジャパンのYouTubeチャンネルに、それをアナウンスする動画がアップされている。



動画によれば、DACチップ変更の原因は昨年発生した旭化成エレクトロニクス(AKM)工場の火災に伴う、AKM製チップの供給難にあるという。もっとも、AKM火災の影響を受けているのはRMEに限った話ではない。国内外のさまざまなオーディオ系メーカーがDAC周りの仕様変更を余儀なくされていることは、オーディオファンの方々であれば周知の通りだろう。

RMEの目的はアップデートではなく、あくまで“同じクオリティの製品を供給し続けること”にあるため、AK4493と機能やパフォーマンスの近しいES9028Q2Mを採用。クロックやフィルターなど、DAC以降の処理に同社のテクノロジーが盛り込まれているため、チップが違えど「リスニングで違いを判別することはかなり難しいはず」だとしている。

確かに、RMEは「色づけしない透明無垢なサウンド」を哲学に持つ音楽制作機材メーカーであるため、チップによる音のクセなどは排除したいところだろう。しかしながら、オーディオ的にDACは、音にまつわる大きなファクターのひとつ。本当に“全く同じ音”になっているのか、記者自身もRMEユーザーということもあり、気になるところだ。

今回、シンタックスジャパンよりADI-2 DAC FSのAKM版とESS版をお借りしたので、実際に聴き比べてみた。

ADI-2 DAC FSはDACチップ違いで音が変わるか、聴き比べてみた

AKM版とESS版、音は変わる?

どうせ確かめるなら、ちゃんと計測もしてみたい。ということで、ADI-2 DAC FSのライン出力を「Babyface Pro FS」に接続した状態でホワイトノイズ・ピンクノイズを流し、RME謹製のオーディオ計測ソフト「DIGICheck」で測ってみた。




上記がバンドパスフィルター「Spectral Analyser」での計測結果だ。音声信号の動き自体が一定ではないので、切り取るタイミングによって微々たる差があることはご容赦いただきたいが、帯域ごとでの出音の差はなさそうだ。

続いて、ジェネレックのアクティブモニター「8320A」と接続し、音響補正ソフト「GLM」をオンにした状態で試聴を行なった。

変わる/変わらないで言えば、DACチップの違いで音は「変わる」。ESS版の方は残響成分の立ち上がりが早く、スッと消えていく印象。それもあってか、実音がより明瞭で、エッジの効いたサウンドになっている。

とはいえ違うところはそのくらいで、情報量や空間表現、帯域バランスなどなど、ほとんどの要素において差は感じられなかった。超絶シビアな制作現場ならまだしも、アマチュアレベルのDTMやオーディオリスニングであれば、そこまで気にならない範囲ではないだろうか。

それを踏まえたうえでだが、ストイックで引き締まったモニターサウンドが好みならESS版、リヴァーヴ感のある柔らかくメロウなサウンドが好みならAKM版が向いているように、個人的には思う。

ちなみに、AKM版とESS版のユーザーレベルでの大きな変更点として、搭載フィルターの違いがある。ADI-2 DAC FSにはSD Sharp/SD Slowなど5種類のフィルターが搭載されているが、チップの仕様上、AKM版ではSD LDを搭載していたところ、ESS版ではBrickwallに変更となっている。せっかくなので、こちらもSD Sharpで鳴らした場合と聴き比べてみた。

AKM版ではSD LDフィルターを搭載するところ、ESS版ではBrickwallを搭載している

まずはAKM版だが、SD LDフィルターでは高域の音場が広がり、煌びやかなサウンドになる。重心もやや高めになるほか、リヴァーヴ感も増して、より開放的な雰囲気になっている。

一方、ESS版をBrickwallフィルターで鳴らしてみると、よりブライトな印象になった。ヴォーカルはやや後ろに下がりつつ、アコースティックギターやスネアドラム、シンバルなどの弾けるような音が鮮やかで、気持ちの良いサウンドになる。どちらも高域側へと寄ることは共通しているものの、SD LDが全体の雰囲気を華やかにしてくれるのに対し、Brickwallは音の切れ味を鋭くするようなタイプだと感じられた。



シンタックスジャパンの担当者によれば、現時点でDACチップが変更されているのはADI-2 DAC FSのみで、また他製品も変更されるかどうかは、現時点では発表されていないとのこと。

また、AKM版/ESS版の見分け方としては、製品背面のシリアル番号シールに「C」の文字があればESS版、なければAKM版とのこと。あるいはパッケージ記載のJANコードがESS版は「4589473711454」、AKM版は「4589473709567」となっているため、もしもADI-2 DAC FSの購入を考えていて、いくつかの個体から好きなものを選べるシチュエーションにある時は参考にしていただきたい。

ESS版(写真上)はシリアル番号シールに「C」の文字が入っている

(協力:シンタックスジャパン)

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