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連載:ネットオーディオ主要ブランド解説 第1回

デジタル・ストリーミングの先駆者『LINN』。その進化と思想を徹底解説

公開日 2020/04/20 12:00 山之内 正
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ネットオーディオの世界を革新するブランドの背景を掘り下げる企画、第一回目はまさに「ネットオーディオ」というジャンルを生み出したと言っても過言ではない、スコットランドのLINN(リン)をフィーチャーする。LP12という伝説的アナログプレーヤーからスタートしたリンは、デジタル再生においても時代を牽引してきた。音の入口から出口まで、一貫した思想の元に開発を続けるリンは、まさにデジタル・ストリーミングの「先駆者」であり、現在に到るまでトップランナーであり続けている。そんなリンの進化とサウンド思想を、評論家・山之内氏に解説していただこう。


■アナログで培ったノウハウを基盤にデジタルの新境地を切り開く
名門がひしめくイギリスのオーディオメーカーのなかでもリンは特に重要な位置を占める。いまはネットワークオーディオを牽引するブランドとしてオーディオファンの注目を集める存在だが、実は同社の原点はターンテーブル「LP12」に遡る。レコード時代からアナログオーディオで培ったハイファイ再生のノウハウを基盤にデジタルオーディオの新境地を切り拓いたことが、リンの強みであり、ブランドの力の源泉なのだ。


LP12は創業者アイバー・ティーフェンブルンの優れた着想から生まれ、革新性と普遍性が両立した名作だ。しかも、驚くべきことにLP12は発売から半世紀近く経ったいまも継続して販売されている現役モデル。技術の進化と変容が著しいオーディオの世界でここまでのロングセラーは非常に珍しい。さらに、リンの場合、同じ製品を単に長期間発売し続けているのではなく、世代を経て着実な進化を遂げていることも見逃せない。基幹パーツを自在に交換できるモジュール設計を早い時期に採用し、柔軟なアップグレード対応を実現していることもリンならではの長所と言えるだろう。

LINNの原点とも言えるLP12

LP12の成功に続いてアンプやスピーカーを積極的に開発し、1990年代にはCDトランスポートやDAコンバーターなどデジタルコンポーネントの分野でも評価を確立した。この時代、ソース機器からスピーカーまで自社の製品でシステムが完結したことで、リンが目指すホームオーディオの形が鮮明に浮かび上がってきた。生活空間を侵食しないコンパクトなサイズに一貫してこだわり続け、1998年に登場したSONDEK CD12など、洗練をきわめたデザインが生む強いアイデンティティは今日まで受け継がれている。


いち早くスタジオマスター(192kHzなどハイレゾクオリティも含む)の配信をスタートしたLINN Records
1982年、リンは独自レーベルを創設して音源の製作にも着手した。創業者のアイバーが、オーディオ機器の開発には音源の理解も不可欠と考え、録音から再生まで一貫して手がけることを決断したのだ。その判断が正しかったことは、ハイファイ再生のメディアがレコードからCD、そしてハイレゾへと進化の途をたどるプロセスで明らかになる。2007年、LINN RECORDSが「スタジオマスター」の配信をDRMフリーで開始。ハイレゾ配信を先取りし、他社に先駆けて発売したネットワークプレーヤーの存在価値を自ら証明したのだ。

■「ストリーミング」を突き詰める一貫した基本コンセプト
リンが蓄積したデジタルオーディオの知見に最先端のネットワーク技術を統合して生まれた重要な製品群が、現在のリンの中核をなすDS/DSMシリーズとEXAKTシステムだ。デジタル・ストリーミング再生のメリットを突き詰めることで、ディスク再生では実現できない忠実度の高い音楽再生を目指す。その基本コンセプトは2007年に登場したKLIMAX DSから最新のSELEKT DSM、Series3まで、一切ぶれることなく引き継がれている。リンのネットワークオーディオ製品すべてにあてはまる一貫したアプローチだ。


上からKLIMAX DSM、AKURATE DSM、MAJIK DSM。KLIMAX 、AKURATEはプリアンプの機能、MAJIKはプリメインアンプの機能まで搭載する
DSはデジタル・ストリームの略で、当初は再生システムの入口を担うソース機器の位置付けで、KLIMAX DS、AKURATE DS、MAJIK DSという3つのシリーズを展開。その後アンプを内蔵するDSMが各シリーズに追加投入され、DSとDSMが併存する時代が続くが、現在は最上位のKLIMAXも含め、すべてDSMに移行している(その後DSも再発)。レコードプレーヤーなど、他のソース機器も含めてプリアンプ機能を持つDSMに入力し、その後の信号処理はシステムの構成に応じて複数の選択肢を用意するという手法に切り替えたのだ。その時点で、DSMが既存のディスクプレーヤーを置き換える以上の役割を担う新ジャンルのコンポーネントであることが明らかになったとも言える。

DS/DSMの進化が仮にその段階でとどまっていたとしても、ネットワークオーディオの基準機として高い評価を担い続けただろう。だが、リンの開発陣はさらにその先を見据えていた。既存コンポーネントの枠組みを超えた新しい概念として2013年に発表したEXAKTシステムでその全貌が明らかになる。

EXAKTはプレーヤーからスピーカーまでの信号の流れをデジタル化し、複数の音質劣化要因を本質的に解消した革新的なシステムだ。一般的なオーディオ再生系には複数のA/D変換とD/A変換の回路が組み込まれ、信号伝送系にはアナログ伝送とデジタル伝送が混在する。変換回路やアナログ伝送はノイズや歪みなど音質劣化が起きやすい。さらに、スピーカーのクロスオーバー回路など、音色や時間情報が変化しやすい回路もそのまま生き残っている。

スピーカーまでロスレスで伝送するEXAKTの概念図。スピーカー内部のデジタル領域で帯域分割を行う

DS/DSMはアナログ出力をアンプに受け渡すプレーヤーとして登場したが、EXAKTシステムでは同じDS/DSMから192kHz/24bitのデジタル信号を出力し、デジタルクロスオーバーとパワーアンプを内蔵するEXAKTスピーカーにそのまま送り出す。EXAKT LINKと呼ばれる独自の通信規格を用いてロスレス伝送を行うことに加え、スピーカー内部では帯域分割など基本的な信号処理をデジタル領域で実現。個々のリスニングルームに最適化する音場補正機能を組み込んでいることも新しい。

■手軽に楽しめるコンポーネントとして提案されたSELEKT、そしてSeries 3へ
EXAKTシステムのコンセプトを受け継ぎながら、リビングやプライベートルームでも手軽に楽しめるコンポーネントとして提案されたのがSELEKT DSMだ。モジュール設計を徹底し、パワーアンプの有無やチャンネル数、DACのグレードなど複数の選択肢が用意されているので、用途や再生スタイルに合わせて好みの構成を選ぶことができる。リンのEXAKTスピーカーと組み合わせる以外に、アンプ内蔵モデルを選んで手持ちのスピーカーを鳴らすのもありだ。機能の拡張やアップグレードのしやすさが際立っているので、リンのラインナップのなかでSELEKT DSMが担う役割は今後さらに大きくなっていくと思われる。

パーツをモジュール化し、自由な設計が魅力のSELEKTシリーズ

リンの設計思想から生まれた新カテゴリーの製品がもうひとつある。最新モデルとして発売されたSERIES 3だ。見かけはコンパクトなワイヤレススピーカーだが、中身はデジタルクロスオーバー内蔵のアクティブスピーカーにDSM仕様のネットワークプレーヤーを組み込んだ贅沢なオールインワンシステム。複数のストリーミングサービスに対応し、BluetoothやWi-Fiでさまざまな音源をサポートする。「音源をスピーカーの中に」というEXAKTのコンセプトをミニマムな形で集約したSERIES 3もSELEKTと同様にさまざまなバリエーションを生む可能性があり、今後の展開が楽しみだ。


DSM機能を搭載する新しいネットオーディオのジャンルを開拓する「SERIES 3」
リンの製品はほぼ例外なくアップグレードに対応しているため、何年も前に購入したモデルがファームウェアの更新や基板の交換で最先端の仕様に生まれ変わることも珍しくない。あと数年でLP12は誕生から50年を迎えるが、DSMやEXAKTなどネットワークオーディオのコンポーネント群もライフの長い製品が多く、主要モデルは10年を超えてなお最新モデルと互角に渡り合える性能と機能を保持している。アナログとデジタルそれぞれの領域でそこまでの持続性を有するブランドは稀有な存在だ。

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