HOME > レビュー > ミュンヘン「HIGH END」で見つけた “価格以上” の新スピーカー群

山之内 正がショウを総括(前編)

ミュンヘン「HIGH END」で見つけた “価格以上” の新スピーカー群

公開日 2017/05/27 12:56 山之内正
  • Twitter
  • FaceBook
  • LINE
ミュンヘンの「Munich HIGH END 2017」は22日に4日間の会期を終えた。公式発表によると来場数は昨年よりも10%増の21,412人、出展社数も538社と約4%増えている。例年よりも混雑していると感じたのは錯覚ではなかったようだ。その活況を支えていたのはどんな製品なのか、振り返ってみよう。

「Munich HIGH END 2017」の会場となったMOC。こちらはAtriumゾーン

来場者の話題を独占するような派手な展示はなかったが、今年のショウは現実的な価格レンジに多くの注目モデルが登場し、欧州オーディオ市場の安定した成長と進化を印象付けた。

まずスピーカーに目を向けると、筆者の期待を大きく上回る音を聴かせた製品として、エラックの「Adanteシリーズ」を紹介しておきたい。新シリーズの登場自体はCESのニュースなどで事前に知っていたのだが、実際に聴いてみてアンドリュー・ジョーンズならではの設計の巧みさに感心させられたのである。

ELAC「AF-61」のデモの様子

アクティブウーファーをキャビネット内部に取り付け、バッフル面のパッシブラジエーターを駆動する仕組みの新しさに興味を引かれる半面、特にウーファーとパッシブラジエーターを計3組内蔵するフロア型の「AF-61」の場合、低域の質感をどこまで確保できるのか、少し心配があった。

しかし、実際に聴いてみると低音は広い音域にわたって反応が俊敏でもたつきがなく、3ウーファー構成の一般的なフロア型スピーカーをしのぐほどのキレの良さを実感できる。すべての低音ユニットの振動板をアルミコーンで統一したことと、個別のチャンバーを確保して干渉を抑えたことが成功の秘訣だと思うが、量感と質感を両立させるために試行錯誤を重ねたことがうかがえる。

新開発の同軸型ユニットもバランスが良く、ヴォーカルの抜けの良さと精度の高いフォーカスも注目に値する。これだけの音を聴かせる本格派の3ウェイ・スピーカーがペア3,000ユーロ程度で販売されるとなると、他メーカーは強力なライバルの登場に身構えざるを得なくなりそうだ。

小型スピーカーではディナウディオの40周年記念モデル「The Special Forty」に注目したい。こちらもペアで約3,000ユーロだが、今回初採用となるレッド・バーチとグレイ・バーチの仕上げにプレミアム感があるためか、割高感を感じさせることはない。17cmウーファーとトゥイーターは磁気回路を一新した新開発ユニットで、マグネットの薄型化によるエアフローの工夫やネットワーク回路の改善など、技術的にかなり踏み込んだ内容が目を引く。

Dynaudio「The Special Forty」のデモ

特に磁束密度が高いネオジウムマグネットを採用した成果なのか、小型ブックシェルフとは思えない押出しの強さと下支えの厚さは予想以上だ。これまで同社の記念モデルで期待を裏切られた記憶はなく、レギュラーモデル以上に開発パワーを投じた成果を実感できる製品が多かったが、今回はさらにその先を行く印象を受ける。個性的なカラーと仕上げが気に入ればの話だが、推薦に値するスピーカーであることは間違いない。ちなみに筆者自身は深みのあるグレイ・バーチの仕上げに好感を持った。

こちらはレッド・バーチ仕上げ

グレイ・バーチ仕上げ

ソナス・ファベールは4月に日本でも発表されたオマージュ・トラディションシリーズを出展した。同社の展示は同じ販売代理店が扱うメリディアンやダン・ダゴスティーノなど複数ブランドの共同ブース内で紹介され、筆者が訪れたプレスイベントの際はオーディオ・リサーチのアンプでアマティ・トラディションを鳴らしていた。

最近のソナス・ファベールはラインナップを多様化して音調も製品ごとの個性が強まったように感じていたが、今回のトラディションシリーズはその名が示す通りかつての名機群の音や意匠へのオマージュが感じられ、一貫性がある。

Sonus faber「Guarneri Tradition」

LPレコードで確認した弦楽器の艷やかな音色、潤いのある音で歌い込む表情の豊かさなど、一度でもこのブランドの製品の音に魅せられた経験を持つリスナーなら、アマティやガルネリのオリジナルのオマージュシリーズの音を思い出すはずだ。旋律の雄弁な歌い方など、さらに遡って実質的なデビュー作のエレクタ・アマトールを連想させる部分も感じられるが、低音のトランジェントの良さなど、現代にふさわしい進化も遂げている。

ここまで欧州のブランドにターゲットを絞って紹介したが、会場には北米や日本のブランドの製品も数多く展示されていた。そのなかで筆者の興味を引いた一台として、マジコの「S3 Mk II」を最後に紹介しておこう。

SシリーズはすでにS1にMk IIモデルが登場しているが、本機のダイヤモンドコーティング・ベリリウムトゥイーター(MBD7)は最新世代の1インチユニットで、ハウジングなど基本構造も一新したという。アルミのシングルフレームキャビネットは今回も堅固かつ定在波を徹底して排除した設計を貫いており、有害な共振を抑え込んでいる。

MAGICO「S3 Mk2」

すべての音域、すべての楽器で立ち上がりの初速と位相がきれいに揃うと、同じ出力の信号から思いがけず大きな音圧が生まれることがあるが、S3 Mk IIを聴く醍醐味はまさにそこにある。音量をむやみに上げなくても、瞬発力が高く力強い再生音が十分な音圧感を伝え、ダイナミックレンジの制約を感じさせない。コヒーレンスは良好だが過度にソリッドでもシャープでもないし、音色を描き分ける精度もきわめて高い。本機の価格帯では突出した存在であることは疑いようがない。

アナログ関連やアンプなど、スピーカー以外の分野については後編で紹介する。

この記事をシェアする

  • Twitter
  • FaceBook
  • LINE