「およそ全てが最高レベル」

【速報レビュー】SHUREのコンデンサー型イヤホン「KSE1500」、その圧倒的なサウンドに迫る

高橋敦
2015年10月22日
別途掲載された発表会の速報記事で、SHUREのコンデンサー型イヤホンシステム「KSE1500」がどういった製品であるかを知り、驚いた方も多いかと思う。

SHURE「KSE1500」

本機はハイエンドイヤホン単体ではなく、アンプまで含めたイヤホンシステムとなっている。その理由はコンデンサー型ドライバーの採用だ。

その経緯や狙いは発表会でも触れられているし、近日にSHURE開発担当者にインタビューする予定なので、そちらでもしっかり確認するつもりだ。

いずれにせよ、BAマルチの多ドライバー化が極限的にまで推し進められ、一時下火になっていたハイブリッドが再び盛り上がっているこのタイミングで、どちらでもないコンデンサー型がシュアから登場してきた。そのインパクトは大きい。

確認になるが、コンデンサー型ドライバーは普通のヘッドホンアンプ回路では駆動できないので、このように専用のアンプまで含めたトータルシステムとなる。この点は以前であればポータブルオーディオとして致命的な弱点だった。

イヤホン部

コンデンサー型ドライバーの内部構造

しかし近年はポータブルアンプを持ち歩いて利用しているユーザーも珍しくない。シュアは何年か前の開発開始時点で「数年後には専用アンプ必須でも十分に受け入れられる」と判断したのだろう。

メニュー操作とボリューム兼用ノブで様々な操作が可能

まずは使い勝手やスペックの印象から伝えていこう。

アンプユニットは普通にポタアンのサイズ感。ポタアンユーザーならカバンの中とかでの取り回しも慣れたものだろう。

USB端子はmicroBのみを搭載。そのmicroBとLightningを直結してシステムを動作できる変換ケーブルも付属する。アンプ側としては充電も接続もmicroBのみでまかなえる方が無駄がないわけだが、従来はiOS用にA端子も併設することが主流だった。このシステムはそこを克服している。

操作性も良好。ボリュームと電源といった本当に基本的なものは独立したノブやボタンだが、細かな設定は小型画面を通してメニュー操作で行う。シンプルさと設定の細やかさを両立している。

そのメニュー操作は、ボリュームがクリッカブル、ボタン兼用のダイヤルになっているのでそれを使って行う。ボリュームをダブルクリックでメニューモードに入るので、ダイヤルでカーソルを上下させてクリックで選択だ。このときはサイドの電源ボタンが「戻る」ボタンとして機能する。なかなか使いやすく、操作の感触もよい。

機能面ではパラメトリックイコライザー搭載が特徴。「何kHzを何dB増減させる」という設定は、慣れない方には使いにくいだろう。しかし使い方が分かれば、ピンポイントの調整も可能で、使い方の幅は広い。曲を再生しながら設定を動かすとリアルタイムで音が変わるので、グリグリ試していれば慣れてくるだろう。

4バンドのパラメトリックイコライザーを搭載している


スペックの面での確認事項としては、再生フォーマットは96kHz/24bitまでにとどまっている。

もちろん、スマートフォンやPCのハイレゾ再生アプリの側に用意されている、出力先DAC (この場合は本機)のスペックに合わせてダウンコンバート出力機能が働けば、96kHzを超える音源も再生は可能だ。

例えば今回の試聴システムでは、iOSアプリ「HF Player」からこのアンプへ送り出した。そこで192kHz/24bitのFLAC音源の1曲を再生してみたところ、アプリ画面は「再生ファイルは192kHz」「出力先DACは96kHz」で動作していることを示すと思われる表示となり、音声は問題なく再生されていた。

96kHz/24bitを超える音源でもダウンコンバートでは再生でき、販売されているハイレゾ音源の大半は96kHz/24bit以下なので、現実的な不便はあまりないと思う。とはいえ気になる方もいるだろうから、あらかじめ留意してほしい。

なおアンプについてはコンデンサー型用ではなく一般的なドライバー向け、SEシリーズなどとの組み合わせを想定したモデル「SHA900」(関連ニュース)も別途に展開される。コンデンサー型用か否かということ以外の、外観や機能は、このアンプとほぼ同等だ。

イヤホンユニットはデザインもサイズ感も「SE」シリーズとさほど変わらない。SEのルックスや装着感が気に入っていた方ならこちらも気に入るだろう。

ただしケーブルは着脱式ではない。コンデンサー型ドライバーの動作には桁違いの電圧が必要で、ケーブルを通してアンプからイヤホンにそれが供給されている。安全性を考えると着脱式は難しかったようだ。たとえば、その電圧等に対応するためにこのシステムのケーブルはかなり太い。着脱式だとこのケーブルからかかってくる力に端子が負けて破損しやすいのかもしれない。

しかしこのケーブル、太いがしなやかなので、これ自体の取り回しは意外と悪くはない。

そのサウンドは極限まで素直でフラット。細部も全体も凄い

さて、ここからは音の印象を述べていく。

単純化して一言で表現するならば「BAシングルの素直さのまま、帯域をフラットに広大に拡大したような音」というのがその印象。この表現を目にして「…それが欲しかったんだよ!」と膝を打った方には、ぜひどうにかしてこの音を一度聴いてみてほしい。

ダイナミック型やハイブリッド型のぐいっと来る強さや厚みが好みの方にはピンとこないかもしれない。しかしBA型の軽やかさ等が好みなのに、既存のBAマルチには満足できていなかったというような方は「…これだ!」となる可能性が高いと思う。

そしてその「極限的に素直でフラット」さのおかげかと思うが、音楽に余計な力みや重心を与えないことが、このシステムの大きな強みだ。例えばどこかの帯域にピーク(癖)があったりすると声や楽器のフレーズの音程が上下しても音の重心がその帯域に引きずられてしまい、一音ごとに音色や音量が乱れたりする。このシステムで音楽を聴くと、それがほとんど感じられない。

実に地味なポイントだが、そんな地味な部分で「すごい!」と感じさせてくるのがすごい。たとえば、超一流のアスリートは派手な技はもちろん、ただ走るだけでもその姿が美しい。そういう凄さをこのシステムからも感じる。

もちろん、ボーカルの「シャープなほぐれ」といった矛盾を兼ね備える表現も軽々とこなすなど、細部をピンポイントで聴いても、およそ全てが最高レベルだ。しかし印象が強いのは、細部よりも全体。そのことがこのシステムの「総合力」の素晴らしさを示しているのかもしれない。

コンデンサー型ドライバーであり、アンプユニットとのシステム運用が必須であり、価格も手軽とは全く言えない。そういう意味では尖った、ユーザーを選ぶイヤホンシステムだ。

しかしその音の癖のなさはかつてない域に達しており、好き嫌いはあるにしても、その圧倒的な高度さはほとんど誰もが認めることだろう。



妥協なしに音だけを追求したシステム。この使い古されたフレーズを、改めてあえて使わざるを得ない。それに値するプロジェクトであり、成果だと言える。

(高橋敦)

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