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そのレコードとカートリッジは最適な音で鳴っている?

iFIオーディオ「iPhono」を田中伊佐資氏が体験!レコード再生をより楽しくする話題の小型フォノイコ

2015/04/28 季刊アナログ編集部 試聴:田中伊佐資
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レコード再生は奥が深い。針圧やオーバーハングの調整、プレーヤーの水平などで音はさまざまな表情を見せるが、なかなか設定することが難しいのがロードインピーダンス、そしてイコライザーカーブである。しかし、これらの設定に対応したフォノイコライザーが、実は驚異的なプライスタグで登場しているのはご存知だろうか。それが本項の主役、iFI-Audio「iPhono」(64,800円/税抜)だ。今回は、いちアナログファンである田中伊佐資氏に、このiPhonoを使用した率直な感想を伺った。


iPhonoをセットする田中氏。最初は「こんなに小さいの!?」と戸惑った様子だったが、試聴を進めるうちにiPhonoの高い性能に驚かされることとなる
■定番モデルから最先端機まで、その魅力を存分に発揮できる

「え!? こんなに小さいの!?」というのが、初めてiPhonoを見た人の大多数の反応だ。今回、「ロードインピーダンスやイコライザーカーブを設定できる面白いフォノイコライザーがあるので、聴いてみませんか?」という編集部の依頼をふたつ返事で了解してくれた田中伊佐資氏も、ご多聞にもれずこの反応だった。アナログ関連機器、さらには多機能となるとフルサイズの機器を想像するようだが、iPhonoはおよそ手のひらサイズ。「USB DACとかで人気の高いブランドだって聞いているけど、フォノイコライザーなんて出して大丈夫なの?」と、疑心暗鬼で試聴はスタートした。

早速、田中氏が愛用するクリアオーディオのリニアトラッキングアームTT3+テクニクスSP10Mk3にiPhonoを接続してレコードを再生。すると、田中氏の顔色はみるみる変化した。

田中氏が現在メインで使用しているのは、ターンテーブルがテクニクスのSP10MK3、アームがクリアオーディオのリニアトラッキング型TT3、カートリッジが同Stradivariという組み合わせ。今回はまず、これらとiPhonoを組み合わせた

「よく“値段にしてはいいね”というものはあるけど、これは普通に高性能な音ですね。ストレートにプレーヤーやカートリッジの持ち味が出ている。なんだか、えらいものを聴いちゃったなぁ」

iPhonoの第一印象をこう語る田中氏。この際に用いたカートリッジはクリアオーディオのStradivari。ここで、ロードインピーダンス値を変えるとどうなるのかと、底面のディップスイッチで100/250/330Ωの3段階に切り換えて聴き比べてみた。

iPhonoは底面のディップスイッチでゲインやロードインピーダンスを設定が可能。設定の際に便利なマイナスドライバーも付属する

「これは面白いですね。ロードインピーダンスが高くなるにつれて音が明るくなっていく。個人的には、最初に設定していた330Ωは元気がありすぎだったので、250Ωが一番好きな音ですね。でもこの330Ωで聴いた時の音も好きな人は多いと思います。というか、こういう楽しみ方ができるフォノイコライザーってなかなかないですよね」

意外と勘違いされるのが、このロードインピーダンスの適正値。実はカートリッジによっては、内部インピーダンスのみがマニュアルに記載されていることもあり、ある意味では正解がないとも言える(もちろん、メーカーによっては、推奨もしくは適正値を記載している)。だからこそ最終的には自分の耳で聴いて、音楽が最もよく聴こえる値を選ぶ必要がある。こうした設定ができるフォノイコライザーは意外にも数が少ない。

では定番のカートリッジではどうなるのか、ということでデノンのDL-103を組み合わせてみた(同時にアームをViVラボラトリーのRigid Floatに変更)。ゲイン66dB、ロードインピーダンスは最低推奨値の100Ωから聴き比べていく。

「100Ωだといわゆるデノンの音というか、重心の落ち着いた音ですね。これも値を上げていくと音に元気が出てくる。個人的には250Ωが一番しっくりきましたね。逆に下げちゃうと確かに音楽がつまらなくなってくる。フォノフォノイコライザーの設定って大事なんですね」


デノンのMC型DL-103(写真左上)、シュアのMM型M97xE(写真下)、オルトフォンの高出力MC型MC-3 Turbo(写真右)。それぞれ異なるタイプのカートリッジだ
この他にも、MM型の定番シュアM97xEやオルトフォンの高出力MC型のMC-3 Turboなども組み合わせてみたが、そのいずれもがロードインピーダンスによってさまざまな音色へと変化。そこで田中氏からはこんなコメントが飛び出した。

「ところで、いま人気が高い低インピーダンスモデルもiPhonoは対応できるんですかね?」

ということで、現代最先端の仕様を誇るフェーズメーションPP-1000を組み合わせてみた。ゲインは66dB、ロードインピーダンスは330Ωと1kΩで聴いてみる。


今回の試聴では、低インピーダンスモデルとして最先端の仕様を誇るフェーズメーションPP-1000も試聴した
「正直、ちょっと無理したような音が出るかな、と思っていたのですが、全然違和感のない音が出てきましたね。これも設定を変更すると音の表情が変化して面白い。個人的には330Ωが好きですね。しかし、こうやってハイエンドカートリッジと組み合わせてもなんの遜色もないのは驚きですね」

■適正なイコライザーカーブは演奏の表現力を引き出す

ロードインピーダンスが細かく設定できることはiPhonoの魅力のひとつにすぎない。もうひとつの目玉となるのは、DECCA(ffrr)/RIAA/Columbiaの3段階に切り換えられるイコライザーカーブだ。古い年代(iFIオーディオの主張では1980年代以前)のレコードには、現在一般的なRIAA以外にもさまざまなイコライザーカーブが存在するが、今回は、『ブラック・コーヒー/ペギー・リー』(DECCA)の12インチのオリジナル盤で聴き比べてみた。

イコライザーカーブはDECCA(ffrr)、RIAA,Colombiaの3段階。フロントパネルのスイッチで簡単に切り換えが可能だ

イコライザーカーブの試聴では『ブラック・コーヒー/ペギー・リー』(DECCA)の12インチのオリジナル盤で聴き比べた

「最初はRIAAのままでもいいのかな、と思ったんですけど、DECCAカーブにしてみると声が前に出てきて、誰が主役かはっきりして良い感じですね。いやぁ、こうやって色々やっていくと、アナログ再生って本当に奥が深いと痛感しちゃいますね」


■真のオーディオ・ハイエンダーこそ使うべき高性能フォノイコライザー

こうしてひと通りの試聴は終了。田中氏はこの試聴を通して、iPhonoにどのような感想を抱いたのだろうか?

「今回の試聴は、レコード再生について色々な発見がありましたね。ハイエンドなオーディオファンは高いモデルを使うのが一般なんでしょうけど、そんなハイエンドの愛好家でも十分に使って楽しめるフォノイコライザーだと思います。むしろ使いこなしも含めた“真のオーディオ・ハイエンダー”にこそ使って欲しいフォノイコライザー。自分が使っているカートリッジや愛聴盤の潜在能力も引き出せるし、そんなフォノイコライザーがこの値段で買えるのだから、ちょっと信じ難いですね」

ちなみにこの日以降、iPhonoは田中氏の自宅試聴室で活躍している。

●マニア垂涎のモノラル使いも、最小スペースで実現可能

本文のとおり、さまざまなロードインピーダンス値やイコライザーカーブを切り換えて、より深いアナログの楽しみを満喫できるiPhono。手のひらサイズかつ7万円以下という価格帯ながらも豊富な機能と高性能な再生音を実現しているのも人気の理由だ。またこのこともあって、アナログマニアであれば誰もが憧れる“フォノイコライザーのモノラル使い”をこれまででは考えられないほど手軽に実現することができる。そこで、後日iPhonoを片chずつで接続して試聴していただいた。


iPhonoをひと目見た時から「モノラル使いで聴いてみたい」と話していた田中氏の要望を受け、後日試聴を実施。こうした趣味性の高い楽しみができるのも、iPhonoならではの魅力だ
「セパレーションや解像度も上がってより音楽に深みが出てきましたね。これでも一般的なフォノイコライザーよりはるかに省スペース。これでモノラル使いができるのは魅力的ですね。ぜひ、コアなアナログファンに実践して欲しいです」と田中氏。

現実的な価格帯の製品でありながらハイエンドユーザーに匹敵する楽しみ方ができるのも、iPhonoの大きな特徴といえるだろう。


■体験者プロフィール
田中伊佐資
音楽出版社を経てフリーライターに。「オーディオアクセサリー」「analog」「ジャズライフ」「ジャズ批評」「月刊ステレオ」などにて、ソフトとハードの両面を取り混ぜた視点で連載を執筆中。著作に「オーディオ風土記」(DU BOOKS)「ぼくのオーディオ ジコマン開陳 ドスンと来るサウンドを求めて全国探訪」(SPACE SHOWER BOOKS)がある。

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