Spotify、anoら人気ミュージシャンがZ世代に寄り添う新企画「BLUE? It’s Okay」。「ヒューマンキュレーション」の現在地も説明
Spotifyは9月30日、若年層の“BLUEな気持ち”に寄り添うオリジナルコンテンツ「BLUE? It’s Okay」のメディア向け発表会を、東京・渋谷のSpotifyオフィスで開催した。企画の背景やZ世代の聴取傾向に加え、人間のエディターによる「ヒューマンキュレーション」の考え方も紹介した。

「BLUE? It’s Okay」は、音楽、トーク、プレイリストを横断しながら、気持ちが晴れない“BLUE”な状態を受け止め、音楽やアーティストの言葉とともに過ごす時間を届けるSpotify Japan発の企画だ。今年の7月から開始していたが、10月1日より本格的にローンチする。
発表会には、Spotify JapanのHead of Editorialを務める佐々木伸浩氏と、Podcast Partner Managerの関根麻美氏が登壇。企画の立ち上げから関わった両氏が、対談形式でコンテンツを紹介した。
「毎日がカラフルじゃなくていい」。夜に寄り添う「BLUE? It’s Okay」
企画が掲げるのは、「毎日がカラフルじゃなくていい。」「眠れない夜、みんなのBlueと寄り添うプログラム」というメッセージ。落ち込みや気持ちの晴れなさを無理に変えようとせず、“ブルーなままでもいい”と肯定し、音楽や言葉で寄り添うことを核としている。
背景として、日本のZ世代の57%が「日常に生きづらさを感じている」と回答し、45%が感情を公に表現することに不安や怖さを感じているという調査結果が紹介された。
音声コンテンツとの関係では、Z世代の66%がポッドキャストをメンタルヘルスにおける大切な心の拠り所と捉え、71%がSNSから距離を置くためにオーディオを利用しているという。また、月1回以上ポッドキャストを聴くZ世代の68%がホストに強い親近感を感じており、全世代平均の59%を上回るとのデータも示された。
Spotifyの国内聴取データでも、Z世代は他世代より感傷的、あるいはエモーショナルな楽曲を好み、音楽再生の25%が20時から翌3時に行われているという。「Sleep」系プレイリストの消費シェアも全世代で最も高いとしている。
さらに、アコースティック系プレイリストから楽曲をライブラリへ保存する割合は、全リスナー平均のおよそ6倍。こうした傾向を背景に、企画ではアコースティック演奏を軸に据えたという。
同社は、若い世代ではジャンルに加え、「眠い」「リラックスしたい」といった気分や状況から音楽を探す傾向が強まっているとも分析。そのため参加アーティストもジャンルで絞らず、企画のムードやメッセージとの親和性を重視した。
コンテンツの中心は、Spotifyスタジオで収録するアコースティックセッションと、アーティストが自身の感情や人生について語るトーク。音楽とポッドキャストをほぼ同じ比重で扱い、プレイリストでも言葉を聴いてから楽曲へ入る「トーク→音楽」の流れを意識したという。
配信は専用プレイリストを中心に展開。セッションの音源とトークのビデオポッドキャストは全ユーザーが楽しめる一方、セッションの映像版はSpotify Premium会員限定となる。先行配信から30日後を目安に、各アーティストの公式YouTubeチャンネルでも映像を順次公開する予定だ。
これまでにミュージシャンのレトロリロン、Daichi Yamamoto、にしなが参加し、10月1日からはanoが登場。「ハッピーラッキーチャッピー - Spotify BLUE? It’s Okay Ver.」と「ミッドナイト全部大丈夫 - Spotify BLUE? It’s Okay Ver.」の2曲を披露する。
発表会では、既発曲「ミッドナイト全部大丈夫」をアコースティックアレンジした映像などを先行上映。トークでは、パジャマ姿のanoが「自分らしくいること」や「ネガティブな感情との付き合い方」を語った。「SNSのストーリーを投稿したが、反応が少なく消してしまった」といったトークテーマから、SNSとの向き合い方を話す場面もあった。
専用セットは、「夜、自分の部屋にアーティストが来てくれた」ような親密さと、「半分夢、半分現実」のような空間を目指して制作。青を基調に音響機器を思わせる意匠やオリジナル家具を取り入れた。クリエイティブ/空間デザインは「CEKAI」が担当し、コンセプト段階からSpotifyと共同制作した。
10月10日の「世界メンタルヘルスデー」に向け、10月1日からデジタル広告、5日から山手線、東京メトロ、東急線などで交通広告も展開予定。通勤時や帰宅時など、BLUEな感情になりやすい瞬間にメッセージを届ける狙いで、つり革を活用した広告も用意する。掲載するSpotifyコードから専用プレイリストへアクセスできる。
アルゴリズムと組み合わせるヒューマンキュレーションについても紹介
後半では佐々木氏が、企画の背景にもつながるヒューマンキュレーションを説明した。Spotifyの「エディトリアル」組織では、各地の音楽文化やシーンに精通する100名超のミュージックエディターが活動しているという。
求められる資質は「Taste」「Cultural Expertise」「Trend Forecasting」。楽曲の質や可能性を判断し、歴史や地域、コミュニティを含めて音楽を理解し、再生データに表れる前の兆候を察知する力だ。役割は「キュレーション」「カルチャーの発信」「ストーリーテリング」「Music Intelligence」の4つ。中核となるプレイリストは、音楽発見と文化理解の入口を担う。
日本では、世界的な金曜リリースと国内の水曜発売の文化を反映し、「New Music Friday Japan」「New Music Wednesday」を毎週編成。ジャンル別のほか、リラックスやドライブ、季節に合わせた選曲も行う。
プレイリストを通じた楽曲の成長も重視する。再生実績が少ない新曲はエディターの判断で紹介し、その後は聴取データやSNSの動向を見て紹介先を拡大。ヒットすれば「Tokyo Super Hits」などへつなぎ、楽曲の“旅”を作る。
各国のエディターも情報を交換。日本からの紹介が海外版「New Music Friday」への掲載につながるほか、海外で伸び始めた日本の曲をデータから発見し、現地と連携する。過去の曲がSNSを機に他国で広がる動きも共有している。
エディター自身が顔を出して語る「ストーリーテリング」も重要だ。「SUMMER SONIC 2026」では、新人や国内アーティスト、レジェンドといった切り口で注目アーティストを紹介。選曲に加え、作品を聴く理由や背後の文化も伝える。楽曲に付与した情報はデータベースへ蓄積し、再生データと組み合わせて「Music Intelligence」を形成。レコメンドにも活用する。
Spotifyが掲げる「Human Curation at Scale」は、音楽やライブ、アーティストとの接点から得た知見を、プレイリストやストーリーテリング、アルゴリズムで広く届ける考え方だ。「BLUE? It’s Okay」もその延長線上にある。データから若者の気持ちを読み取り、アーティストの表現や言葉との相性を考えて制作する過程に、ヒューマンキュレーションの一端が感じられた。
企画統括の佐々木氏にインタビュー。日本発コンテンツの今後について
発表会後、PHILE WEBでは佐々木氏に個別取材を実施。企画の経緯や想定するリスニング環境について聞いた。
「Spotify Singles」など、グローバルで生まれた企画に各国が参加する例はあるが、「BLUE? It’s Okay」は日本側で立ち上げたプロジェクトだ。ただし、当初からZ世代向けの映像シリーズを作ろうと考えていたわけではないという。
出発点は、日本のユーザーの聴取データ。夜間の利用やアコースティックな音への嗜好を捉え、「この世代にさらに寄り添うためには何ができるか」と考えた結果、コンテンツ制作に行き着いた。ユーザーの行動から伝えたいメッセージを考え、その表現方法として企画が生まれたという順番だ。
出演者についても、今後さらに知名度の高いアーティストを予定する一方、コアなファンに支持されるアーティストも積極的に起用したいという。重視するのは、世界観やアコースティック表現との相性、本人の言葉、若者へ届けられるメッセージ。「メッセージがきちんと届くこと」が重要だと佐々木氏は強調する。
想定するオーディオ環境についても訊ねてみた。佐々木氏によれば、思い描くのは、夜、自室でひとりになり、眠れずにベッドサイドで音楽を聴くような時間。特定の再生方法を指定するわけではないが、イヤホンやヘッドホン、小型スピーカーといった身近な環境がイメージに近いという。
日本発の企画ならではの可能性もある。佐々木氏は個人的な展望として、将来は海外にも広がり、海外アーティストが参加する形になれば嬉しいと語った。日本で生まれたフォーマットを世界へ届けることへの期待だ。
海外展開が正式決定しているわけではないが、“BLUEな気持ち”は国境を越えて共有されうる。日本のZ世代のデータから始まった企画が、今後どのように広がるのかも注目したい。

