Spotify Japan新オフィスがお披露目。ハイエンドシステムのリスニングルームや“日本音楽に敬意示す”和室を常設
Spotify Japan(スポティファイジャパン)は、今春の東京都渋谷の新オフィス移転を記念した、新オフィスお披露目のレセプションパーティ「Spotify Japan Open Office」を昨日4月10日に開催した。本稿ではその模様についてレポートしたい。
Spotify Japan代表取締役トニー氏「Spotifyは元々音楽を救うために作られた会社」
世界で6億7,500万人以上のユーザーが利用するオーディオ ストリーミングサービス・Spotifyを展開するSpotify Japanは、この春に渋谷区にかまえる新オフィスへ移転。本イベントでは同社のこれまでの歩みを振り返るプレゼンテーションや、主要な責任者を交えたパネルトークディスカッション、そして2フロアを巡るオフィスツアーが実施された。
演目は、同オフィスに入ってすぐ左手に位置する豪華なステージ上で行われた。イベント冒頭にSpotify Japan代表取締役を務めるトニー・エリソン氏が登壇し、Spotifyの9年間の歩みを振り返りながら、Spotifyのカルチャーを体現する新オフィスについて紹介した。
トニー氏はSpotifyの創立から現在までを振り返り、「Spotifyは元々音楽を救うために作られた会社。創立時は違法音楽アプリが世の中で普及して音楽業界が崩れそうになった時期で、それを救うためにダニエル・エク(創設者)が創立した。少しでもアーティストやクリエイターのお手伝いをしたい、役に立ちたいというミッションが企業、やがてビジネスとなり、今では多国籍企業にまで至った」と語る。
新オフィスについては、「日本語には『名は体を表す』という言葉があるが、この新社屋というのは名は体を表すというより『体は魂を表す』といったような表現がふさわしい」と力を込める。
音楽が中心にある企業であることを受け、今回のプレゼンテーションを実施している特別ステージやSpotify独自のリスニングルーム、また音楽配信と共にSpotifyの主要コンテンツの1つであるポッドキャストのスタジオが併設されている点をアピールする。
また、このようなビルには珍しいとする窓の多さや、実際に窓を開けることができる仕様を「社内の透明性を高めて風通しを良くするため」と説明。さらに全席ホットデスクの採用や社長室の未設など、できるだけ社内のヒエラルキーを少なくする構造にしている。「社員同士が協力しながら情報交換して仕事をを行うことで新たなイノベーションが生まれてくる」と強調する。さらに、日本独自の仕様として和室が2部屋備えられている。
トニー氏は、「やっぱりこのオフィスに負けないぐらいの仕事、そして音楽業界への貢献をしていかなければいけないという気持ちが、このオフィスには込められている」「音楽ビジネスのみならず社会に貢献し、ここ渋谷から新たなカルチャーを発信していきたい」と力を込めた。
各事業リーダーによるトークセッション。業界変化や今後の展望を熱く語り合う
続いて、Spotify Japan各事業部のリーダーを招いてのパネルトークセッションを実施。ここからはトニー氏に加えて、音楽事業部部門統括の大西 響太氏、音声事業部門(ポッドキャスト)統括の渡海 佑介氏、広告事業部門統括の立石ジョー氏の4名が登壇し、各テーマに沿ったトークが繰り広げられた。
2016年秋のローンチから今年で9年目を迎えるSpotify。最初のテーマである日本市場における業界変化についてトニー氏は、「日本は音楽配信が海外に比べて根付くのが遅いとよく言われる。実際まだフィジカルのCDが強く、Spotifyの創立時は本当にこのまま続けられるのかどうか...というくらい社内でも心配されていた」と当時の心境を吐露した。
「それがようやくこのの2、3年ぐらいで(ストリーミング配信が)どんどんと定着しつつある。今後を語ると本当に楽しみしかないというか、将来はとにかく明るいと見ている」と、今後の業界の明るい未来を見据えた。
また現在の課題として、主に35歳未満のユーザーは先進国水準で音楽配信を利用しているものの、35歳以上の高い年齢層に関しては、使用率がグッと下がっていることを指摘。「このセグメント(35歳以上の方)の音楽配信離れをどのようにV字回復させていくか、これはSpotifyのみならず音楽業界が置かれている1つの大きなチャレンジではないかと思う」と述べた。
それに関連する新たな試みとして、音楽業界の主要5団体が共同で設立した一般社団法人カルチャーアンドエンタテインメント産業振興会(CEIPA)が主催する新たな音楽賞「MUSIC AWARDS JAPAN(以下MAJ)」に同社は協賛。Spotifyユーザーの投票でベストソングが決定する2つの部門賞、および、主要6部門のひとつである「Top Global Hit From Japan」のノミネート作品選定の投票を実施している。
トニー氏のコメントを受けて大西氏は、改めてストリーミング普及のターニングポイントについて言及。「2018年ぐらいに日本でも結構(ストリーミング配信の)風向きが変わってきて、そのタイミングで結構ビッグなアーティストさんたちがストリーミングに乗っかってきてくれた。さきほど話にも出たフィジカルとの共存が認められてきたのが、あのぐらいの時期かな」と、2018年頃からストリーミングがCDビジネスを壊すものではないという認識に変わってきたと語る。
また、Spotifyがその年に飛躍が期待される次世代アーティスト10組を毎年選出し、同名のプレイリストなどを通じてリスナーに紹介する「Early Noise」についても話が及び、「そんな当時(2018年頃)からでもあいみょんさんだったり、ストリーミングヒットに繋がるようなアーティストが日本でも出てきたりとかして、ストリーミングを通じたマーケティングやプロモーションが『正』とされる風向きに変わった感じがあった」と振り返った。
次にアーティストサイドからみたSpotifyの価値について問われると、「やっぱりアーティストにとっては “ファンと繋がれる” 大きなプラットフォーム」である点を強調。同社では音楽配信に加えてミュージックビデオ(MV)機能の追加やライブ会場に繋がるliveチケットとの連携、Spotifyを通したグッズのグローバル販売といったアーティストサポートの機能を多数備えている。
「最近は日本のアーティストさんも(各機能を)導入してきてくれていたりする。こういった形でアーティストとファンが繋がる機能については、会社としては今後も投資していく」と強調した。
最近の注目機能として挙げたのは、アーティストがライブ配信ルームで配信を行い、ファンがチャットで参加できる「リスニングパーティー」機能。「喋っているアーティストさんが(直に)楽曲を紹介できて、アルバム紹介だったり自分たちの曲を紹介しながらファンと交流できる」と活用例を紹介した。
さらに、音楽配信に加えて同社の主要コンテンツであるポッドキャスト市場の現状と今後の戦略について、ポッドキャスト部門を統括する渡海氏は、「自分の感覚として、5、6年前は日常的に音声コンテンツに触れている方が10人いて1人いるかどうかみたいなところだったのが、今は割と結構な数の方が聞いてくれていることを私自身も肌で感じている」と需要の高まりを訴えた。
「Spotifyも2019年ぐらいから音声コンテンツに対する投資を始めていて、当時はオリジナル作品の制作や独占配信作品がプラットフォームとして注力していたが、近年ではテレビやラジオ局、YouTubeなど、各メディアで活動されている方がポッドキャストを開始している。配信者のラインナップがバラエティに富んできていることも、ひとつの成長の証として捉えている」と強調した。
具体的な数字からは、月間リスナー数が前年比で約20%の増加、聴取時間に至っては実に約30%の増加がみられるとのこと。「実は現在聴取時間の増加がリスナーの増加を上回っている。これ自体は非常に良いシグナルだと捉えており、段々と皆さんの生活に(ポッドキャストをはじめとする音声コンテンツ)が根付いてきている証のひとつなのかなと捉えている」と述べた。
今後もポッドキャスト事業には力を入れていきたいとのことで、「クリエイターとファンとの独特な関わりを作れるメディアだと確信している。クリエイターの皆さんに使っていただきやすいようなツールを積極的に広めていったり、もしくはエコシステムみたいにきっちり回転するような仕組みを作っていくところを引き続き頑張っていきたい」と力を込めた。
それを受けて大西氏は、「実際にアーティストがライナーボイスっていうコンテンツを通じて自分の言葉でアルバムの制作秘話などを語っているコンテンツもあり、音楽と音声の繋がりはあります」と語ると、渡海氏は「それがやっぱりSpotifyならではの見せ方のひとつ。(音楽事業部門とも)一緒になってやっていきたい」と意気込みを示した。
そのほか、Spotifyは2022年に広告事業拡大における投資強化を発表しており、そこから約2年間、広告事業においても力を入れている。Spotify広告の進化というテーマについて広告事業統括の立石ジョー氏は、「そもそもSpotifyって広告があったのか!と思われる方も多いのではないかと思う」と語る。
「音声広告は耳から入ってくるものなので非常に頭に残りやすい。先ほどポッドキャストや音楽ストリーミングが日本でもどんどん受け入れられている話があったが、広告においてもマーケターの方から非常に注目が上がっていて、実は昨年Spotify世界全体の中で最も成長したマーケットのひとつが日本」と明かした。
立石氏が入社した2年半前ごろは広告参入の企業は外資系がほとんどだったが、現在は国内企業も増加傾向にあり、日本の名だたるブランドが活用している状況とのこと。その理由について、「Spotifyのユーザーは(平均して)1日あたり2時間聞いてくださっている。1日に非常に短い時間で広告を届けられることから、例えばアーティストとのタイアップであったり、Spotifyならではの広告プランも用意している」と説明した。
それを受けて大西氏は、「最近はアーティストが広告に実際に出演することで、ひとつのプロモーションに繋がるような取り組みもあり、それこそEarly Noiseのアーティストさんが出たり、そういった機会創出にも繋がる形は作れているかなと思う」と、Spotifyならではのアーティストに寄り添った施策をアピールした。
広告事業の今後について立石氏は、「広告商品も色々開発が進んでいて、先週アメリカで発表があったAIで広告素材を生成するツールは海外ではアプローチを開始している。これまでSpotifyでは音声がメインではあったが、今はアプリを見る機会も増えているので、動画広告の利用も増えている」との展望を示した。
最後に何か言い残したことはないかと出演者に問われると、トニー氏は「ポッドキャスト広告と音楽アーティスト、マーケットとパーソナリティが混在するのがSpotifyプラットフォーム。このオフィスもそういった文化発信の交流の地にしていきたいという思いを込めて作った」とトークセッションを締めくくった。
ハイエンドオーディオシステム常設のリスニングルーム。日本音楽に敬意を示した和室「Yosaku(与作)」も披露
イベント終盤には、新オフィスのエントランスやオープンスペース、ポッドキャストスタジオ、リスニングルームなどを巡るオフィスツアーが2フロアにわたって行われた。
その中でも特筆すべきが、全世界のSpotifyオフィスで常設されているというミュージックリスニングルーム。ハイエンドなオーディオシステムが11Fメインフロアの一室に組み込まれ、ここではアーティストや社員が、配信予定の楽曲やデモ曲のクオリティチェックを行っているという。
リスニングルームのすぐ隣には、日本音楽の歴史に敬意を示したネーミングが名付けられた和室「Yosaku(与作)」を構える。部屋内にはディスプレイやタブレットも備えられ、主に客間やミーティング用に使用されるという。
社員のみが入れる別階の10Fフロアには、社員が自由に休憩できる和室のウェルネスルーム「Heart&Soul」が用意されている。
部屋一面が畳の中、横になって休める休憩スペースや、社員同士がカジュアルに意見を出し合ったりリラックスしながら仕事をするスペースが設けられている。また、部屋内にはレコードや漫画なども多数常設されていた。
そのほかにも、コーヒーやドリンクが自由に飲めるスペースや、ちょっとしたお昼寝休憩やお子さんを連れてきた社員が授乳室としても使用できる「Parent nap Room」が紹介された。
本イベントのラストには、昨年の「RADAR: Early Noise 2025」に選出された次世代アーティスト「7co」のライブパフォーマンスを開催。ヒップホップやR&Bをベースとしたトラックにポップスを融合させた、キャッチーかつグルーヴィーなサウンドに多くの出席者が体を揺らして楽しんでいた。



