大阪万博を体験。河森正治「超時空シアター」や400年杉板スピーカーなどオーディオビジュアルファン必見技術が満載
いよいよ2025年4月13日に、「EXPO2025 大阪・関西万博」がスタートする。日本での大規模な万博としては2005年の「愛・地球博」以来、大阪での開催は1970年の「Expo’70 日本万国博覧会」から55年ぶりという。

先週、そのひとつである「シグネチャーパビリオン」のプレス向け内覧会が開催された。ここは“いのち”をテーマにした様々な展示が行われるエリアで、8名のプロデューサーによる個性豊かなパビリオンが並んでいる。

今回は、河森正治氏がプロデュースした「いのちめぐる冒険」パビリオンにソニーPCLの技術が採用されているとのことで、現地を拝見してきた。河森氏は人気アニメーション「マクロス」シリーズの監督・メカデザイナーを勤めたことでも知られ、今回のパビリオンでは「超時空シアター『499秒 わたしの合体』」と題した体験型展示を演出している。

全方向に広がる映像と圧巻のサラウンドで没入感溢れる異空間体験を演出
「超時空シアター」に足を踏み入れると、円形の壁に沿う形で30台の超時空デバイス(カメラ付きVRゴーグル)が置かれていた。来場者は超時空デバイスを装着して、“VRとMRを行き来しながら宇宙スケールの食物連鎖を同時に体験する”という内容だ。

スタッフの説明に従って超時空デバイスを装着すると、眼前に青い水の玉が出現する。最初は小さめのサイズだが、ここに向かって参加者が水を送る(両手を合わせるとバーチャルの水球が手の中に出現するので、それを投げる)と、徐々に水球が大きくなって物語がスタートした。
今回使われているVRゴーグルは上記の通りカメラ搭載型で、シーンによって現実世界にCG映像を合成して表示されるようになっている(この部分がMRとしての演出となる)。上記の水球に水を送るシークエンスでは、MRで別の参加者の様子も見ることができ、みんなで力を合わせているという気持ちを高めてくれる。

そこから、VRでのバーチャル映像によって、いのちのつながりの様子が描き出されていく。今回上映されるコンテンツには、「いのちは合体・変形だ!」というコンセプトも込められているとのことで、ある生き物が別の生き物を捕食することは、“いのちが合体し、成長という変形を遂げていく”ことなんだ、と感じ取れる内容になっていた。
なおバーチャル映像は水平方向だけでなく、上下や奥行き情報も持っているので、見上げれば頭上を泳いでいる魚がいるし、下を見れば自分が中空に浮いているような錯覚に陥る。近年のバーチャル映像として目新しい演出というわけではないが、解像度も高めで画素構造があまり気にならないので、没入感は高い。

そしてこのバーチャル映像には、ソニーPCLとSoVeCによる立体音響が組み合わせられている。楽曲は菅野よう子氏によるもので、映像に合わせて心地よく音に浸っていられる、そんなまとまりになっていた。
今回の立体音響では、VRゴーグルのスピーカーを使って耳元で再生される音と、会場に設置されたスピーカーからのサウンドをミックスしているとのことだったが、音が鳴り分かれているような印象はなく、自然なイマーシブサラウンドとして体験できていた。
なお河森氏によると、タイトルの「499秒」とは太陽の光が地球に届くまでに要する時間を表しているそうだ。われわれは499秒前に太陽で発生した光を浴びて、それと合体することで様々な代謝活動を行っている、こうした自然とのつながりも実感して欲しいとのことだった。
“音のXR体験”と“床型ハプティクス”が体感可能な「ANIMA!シアター」
「超時空シアター」に隣接した「ANIMA!シアター」では、菅野氏が創り出す音に合わせて、インタラクティブな振動や立体音響と映像を体感できる。

内部には、あちこちに大きさや長さの異なる薄い膜が吊り下げられ、さらに一部の壁には鏡も設置されている。その中で、水の流れや光をモチーフにしたプロジェクションマッピング映像が上映されるのだが、全方向に映像が投写されるので、ぜひ色々な角度から映像をチェックしていただきたい。
天井から吊り下げられた膜は、透過率50%ほどの(プロジェクターの光が半分くらい透過する)素材が選ばれているようで、手前の膜と後ろの壁にサイズの異なる映像が浮き上がり、不思議な奥行き感も再現されていた。

そして「ANIMA!シアター」のもうひとつの体験ポイントが、SoVeCが提供する立体音響による新しいソリューション「音のXR体験」と、ソニーPCLが提供する「床型ハプティクス」だ。床型ハプティクスとは、床のあちこちに振動する場所を設け、人の歩行にあわせて様々な振動をフィードバックするもので、“全身で感じる新しい体験型エンタテインメント”を提供できるデバイスとのこと。
実際、上映コンテンツの冒頭に参加者みんなでジャンプをしましょうというアナウンスがあり、着地の瞬間に床が振動することで、さらに勢いが増して感じられた。他にも映像でキャラクターが上から落ちてくるシーンや大音量の音楽などに合わせて様々な種類の振動が足元から伝わってくる。室内を歩き回って、どの位置が映像と音、振動のバランスがいいかを探してみるのも楽しそうだ。
「超時空シアター」や「ANIMA!シアター」で使われている技術は、今回の万博が初登場というわけではない。しかし、映像と音、さらに体感としてのコンテンツの完成度が高いので、充実したイマーシブ体験として楽しむことができる。会場に出かける予定がある方は、最新技術で語られる“いのちの継承”という提案に触れてみていただきたい。

透過有機ELから「400年杉板スピーカー」までオーディオ・ビジュアルファン必見技術が満載
なお「シグネチャーパビリオン」では、その他にも河瀬直美氏による「Dialogue Theater - いのちのあかし -」や小山薫堂氏による「EARTH MART」、石黒浩による「いのちの未来」といった展示も行われている。
「Dialogue Theater - いのちのあかし -」は解体予定だった学校の校舎を移築して、内部に150席のシアターを設置。当日の来場者から選ばれた1名とワークセッションで選ばれた1名が、リモートで10分間のディスカッションを行い、その様子をアーカイブするという。また校舎内には、「400年杉板スピーカー」(アクチュエーターで杉の板を鳴らす)も並んでおり、“400年の間杉の木が聞いてきた音”を奏でている。


小山氏プロデュースの「EARTH MART」は、氏が以前からこだわっている食をテーマにした展示で、入口と出口ではプロジェクションマッピングによるイメージ映像を展示。ここでのメッセージも意味深いものなので、ぜひ自身の目で確認してみてはいかがだろう。日本人が一生で食べるたまごの量を示したオブジェなども面白い。

「いのちの未来」は2075年を想定し、人とアンドロイドが共存している世界を、人形と映像で紹介している。透明有機ELパネルやプロジェクター、LEDディスプレイによる映像演出が多用されているので、オーディオ・ビジュアルファンはそのあたりもチェックしてみるといいだろう。
