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女優・モデルの新川優愛さんも登場

定額制VODだけが“次”じゃない。激動の映像配信市場をソフトメーカー各社が語る

公開日 2015/12/10 07:30 編集部:杉浦 みな子
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DEGジャパンは8日、映像デジタル配信の市場活性化に向けて、映画・ドラマ・アニメなどコンテンツプロバイダーの展望・取り組みを発信する「映像コンテンツ デジタル配信セミナー2015」を開催した。「デジタル配信市場の現状と今後について」をテーマとした各種プレゼンやパネルディスカッションと、女優・モデルの新川優愛さんがデジタル映像ライフの楽しさを語るトークショーが行われた。

女優・モデルの新川優愛さんも登場

冒頭、DEG ジャパン コンテンツ部会 部会長/ワーナー・ブラザース・ホームエンターテイメント&ジャパン・コンテンツ事業グループ マネージング・ディレクター 日本代表 福田太一氏が登場し、「国内においても様々な映像配信サービスが開始され、ユーザーにとっての利便性が向上してきている。だが、こういったサービスの存在が消費者に充分理解されているとはいえない状況だ。映像配信サービスを一般消費者により良く楽しんでもらうため、コンテンツホルダーやメディアの皆さまと共に積極的な情報発信に取り組み、エンターテイメント産業全体をさらに活性化させていきたい」と挨拶した。

福田太一氏

なお、現在のデジタル映像配信サービスの形態は、【1】YouTubeやGyao!など広告ベースで運営される無料の「AVOD(Advertising Video On Demand)」、【2】iTunesやGoogle Playなど、都度課金でユーザーがコンテンツを買い切りするEST(Electric Sell-through)」、【3】同じく都度課金で一定の視聴期間が設けられるレンタル型の「TVOD(Transactional Video On Demand)」、【4】NetflixやHuluなど月額定額制で見放題の「SVOD(Subscription Video On Demand)」の大きく4種類に分けられる。今回のセミナーでは、特にEST、TVOD、SVODの各種について、東映・20世紀フォックス・バンダイビジュアルのプロバイダー別による取り組みが語られた。

デジタル配信ビジネスモデル

■国内VOD市場はスマホが牽引して成長。2021年には約2,100億円規模へ

プレゼンテーションの1つめは「国内デジタル配信市場の現状と今後について」がテーマ。(株)野村総合研究所 コンサルティング事業本部 ICT・メディア産業コンサルティング部 メディアコンテンツグループマネージャー 上級コンサルタント 三宅洋一郎氏が登壇した。

三宅洋一郎氏

三宅氏は国内の市場動向として、Blu-ray/DVDのパッケージ市場がセル・レンタルともに縮小傾向である中、映像配信サービス市場は確実に増加していると説明。その要因として、インフラ側の環境が整ってきたことや、事業者側によるサービスの品質向上などといった点を挙げた。なお、同社調べによる2014年度の映像配信サービス市場は1,346億円だった。

Blu-ray/DVDのパッケージ市場が縮小する中、VOD市場は増加

有料映像配信サービスの利用率は、徐々にではあるが増加傾向とのこと。インターネット利用者全体における有料映像配信サービスの利用率は、2011年度には5.6%程度だったが、2014年には11.1%に拡大した。内訳としては月額定額制のSVODが最も多く、そこにTVODとESTの順で続くが、いずれも利用率が増えているという。

有料VODサービスの利用率は徐々にではあるが増加傾向

この市場成長について、三宅氏は「映像配信市場を成長させたのはスマートフォン」と説明。「直近の調査ではスマホでの映像配信サービス利用がPCでの利用を上回っているなど、市場におけるスマホのポジションが高まっている」と語った。なお、スマホによるVOD視聴を行うユーザー層としては若年層、特に20〜30代女性の利用が多いという。

VOD市場を成長させたドライバーはスマホ

現時点での利用者の傾向としては、普段から映画館を利用したりBlu-ray/DVDをレンタルするなど、映像コンテンツに対して頻繁にお金を払っている層ほど利用が多い。「反対に言えば、地上波放送をよく見る人ほど映像配信サービスを利用していない。消費に対して安さや利便性の面を重要視する層からは、映像配信サービスの利用率は低い傾向があり、このあたりは課題だと思う。レンタルしなくても楽しめるという映像配信サービスの利便性が訴求しきれてないのではないか」と、三宅氏は述べた。

現在VODを利用している層は、既に映像コンテンツにお金を払っている層

VODの利便性訴求が課題と語る

視聴デバイスについては、上述の通りインフラが整備されスマートフォンの普及が加速していることが大きい一方で、テレビもインターネット接続対応機の普及が2021年までに3,200万世帯まで拡大すると予測。しかし「実際にテレビをネットに接続して楽しんでいる人が少ないという現状だ。テレビのネット接続率は、2013年からの2年で2%程度しか伸びていない。このあたりをどうにかしていくのも業界の課題だと考えている」と語った。

今後の国内市場の方向性としては、独自の大型コンテンツの増加や発売タイミングの早期化、さらなる高画質化といった「コンテンツの変化」と、様々なネットサービスとの連携・バンドル強化や地上波との連携、低価格化といった「プラットフォームの変化」を予測。「映像配信サービスの魅力が一般消費者に伝わり、利用率が徐々に高まっていくだろう。2021年には、国内市場が約2,100億円規模へ成長することを見込んでいる」と語った。

2021年には、国内VOD市場が約2,100億円規模へ成長することを見込む

■パッケージソフト市場は縮小するが、ESTやVODが伸長して世界市場全体で微増していく

続いては、ワーナー エンターテイメント ジャパン(株)メディア/リサーチ&カテゴリーマネージメント ディレクター 土屋隆司氏が登壇し、「米国におけるデジタル配信市場の現状と今後について」をテーマに2つめのプレゼンを行った。

土屋隆司氏

土屋氏は、パッケージソフトとデジタル配信を併せたホームエンターテイメントの世界市場について紹介。2015年上半期の市場規模は118億ドル(1.4兆円)で、前年比6.3%減だったという。しかし、内訳としてはパッケージソフトが10.8%減となった一方で、デジタル配信は16.7%増加した。一番大きい市場は米国だが、それに続いて大きいのが日本だという。

2015年上半期の世界市場規模

なお、2014年度における大手リテーラーの売上規模を見ると、NETFLIXがトップ、次いでAmazonという結果に。土屋氏は「デジタル配信が急伸している一方で、パッケージソフトも引き続き主要な売上を占めている。注目したいのはAmazonで、デジタル配信もパッケージ販売も行っているが、それぞれの顧客を上手くつないでセールスしている」と解説した。

2014年度の大手リテーラー売上規模と構成比

デジタル配信の伸長はSVODおよびESTによる視聴増が大きいとのことで、「米国ではEST、英国やドイツではSVODが伸びているなど地域別の傾向は見られるものの、それらトップ市場におけるホームエンターテイメントのデジタル構成比は20%を超えている。しかし日本では10.1%程度と、まだ少ない。日本はこれからもっとデジタル配信が伸びて行くべき市場だと思う」と語った。なお米国では、2015年上半期にEST市場が初めてVODを超えたという。

日本におけるホームエンターテイメント市場のデジタル構成比は10.1%

デジタル伸長のドライバーはEST/SVOD

2018年までのホームエンターテイメント世界市場予測としては、「パッケージソフトの売上は落ちているが、代わりにデジタル配信が伸長して構成比が変わることで、市場全体はフラットまたは微増すると考えている」とした。

パッケージソフトの売上は落ちているが、代わりにデジタル配信が伸長して構成比が変わることで、市場全体はフラットまたは微増すると予測

■コンテンツプロバイダー各社が映像配信事業への取り組みを語る

続いては、「本格化する映像デジタル配信時代に向けた、コンテンツプロバイダーの市場展望と戦略」と題したパネルディスカッションが行われた。

モデレーターはジャーナリスト 西田宗千佳氏で、パネリストは東映(株)コンテンツ事業部長代理 企画開発室長 吉村文雄氏、20世紀フォックス ホームエンターテイメント Head of Digital Sales,Japan 吉川広太郎氏、バンダイビジュアル(株)執行役員 事業本部 営業部 部長 小西貴明氏の3名。邦画・洋画・アニメの各ジャンルにおけるデジタル配信の今後について、コンテンツプロバイダー側からの展望が語られた。 

吉村文雄氏

吉川広太郎氏

小西貴明氏


モデレーターの西田宗千佳氏
EST、TVOD、SVODの各サービス形態について、どのビジネスモデルをどういったウィンドウ戦略で展開していくかは3社それぞれで大きく異なっている。

東映では、劇場公開から6ヶ月後にBlu-ray/DVDをセル・レンタルで提供し、さらにTVODとESTも同時配信する。レンタルから3ヶ月以降にBS/CSなどで有料放送し、さらに3ヶ月後に地上波放送を行う。そして配信開始1年を目安にSVODへの提供をスタートする。ただ、ヒット作であればウィンドウは遅めに、反対にヒットしなければ早めにデジタル配信を開始することもあるという。

東映のウィンドウ戦略

20世紀フォックスは、劇場公開から4ヶ月後に作品をBlu-ray/DVD化するが、それより1ヶ月先行してTVODとESTでの提供を開始する戦略をとっている。先行してパッケージと同価格でデジタル配信を提供することがポイント。一方で、SVODへの提供は5〜6年後と遅い。

20世紀フォックスのウィンドウ戦略

バンダイビジュアルは、提供コンテンツとしてガンダムシリーズなどアニメ作品が多く、基本的には作品ごとにケースバイケース。一例としてアニメOVAの場合、劇場でのイベント上映、Blu-ray/DVD先行販売、TVOD先行配信を全て同時にスタートする。パッケージとTVODに関しては、先行提供される高付加価値品として通常版より高価格で提供する。それから30週間後に通常版のBlu-ray/DVDとESTを提供開始。その頃には次の劇場イベント上映に向けたプロモーションも兼ねた形になる。

バンダイビジュアルのウィンドウ戦略。OVAの場合

また、テレビアニメとの連携展開も特徴的で、各話の放送終了後にTVODを配信開始する流れが多い。SVODに関しては、大体6ヶ月後くらいを目安に次回作が決定してからスタートするのがスタンダードだったが、最近では見逃し配信によって、テレビ本放送への誘導効果が大きいこともあり、テレビ放送・SVOD・TVODを同時でスタートするパターンも多くなっているという。

バンダイビジュアルのウィンドウ戦略。テレビアニメ(1クール)の場合

伸長しているSVODについては、三者とも「デジタル映像配信サービスの入門編」と位置づけていることが共通で、「SVODを入り口として、様々なデジタル映像配信に触れていってもらいたい」としていた。

また「どういった作品がSVODに向いているか?」というテーマについては、三者とも「尺が二時間ある単体映画より、ドラマやアニメといった連続性のあるコンテンツが向いている」という意見だった。実際に20世紀フォックスでは「24」や「プリズンブレイク」、バンダイビジュアルでは「攻殻機動隊」などのシリーズものが人気だという。吉村氏は「東映作品でいうと仮面ライダーです。また、バトルロワイヤルシリーズが突出して視聴数が多いなど、特定のジャンルで強い作品が出てくるのも特徴です。他に、アクション系は人気があります」と語っていた。

なお小西氏は「今月配信がスタートする『機動戦士ガンダム サンダーボルト』のアニメは、ESTとTVODのみで先行提供するという新しい試みを採用しています。デジタル配信はスピードの面では有利で、新作が作られればそのマスターをすぐに視聴者に届けられるので、スピード感重視でこうした取り組みを行いました。また、アニメファンはコレクション欲が高いですが、ESTでも“端末にダウンロードする”ことによって、その所有欲を満たせるのではないかと思います」と語る。『機動戦士ガンダム サンダーボルト』に関しては、TVODには映像特典をつけず、ESTには特典をつけるといった形で、コンテンツ買い切り型のESTとレンタル型のTVODを差別化する。

吉川氏は、映像配信サービス自体の啓蒙の必要性について語った。「意外に、デジタルだと延滞料金が掛からないといった基本的なことに気づいていない方も多いんです。そういった、パッケージにはない強みをより良くアピールしなくてはいけない。新作映画であれば、ESTなら2,000円台で購入できるという価格も大きな優位性ですし、ディスクと違ってデバイスにダウンロードできるというポータビリティ性もメリットの1つです」。

吉村氏は、「特に若いユーザーは、スマホで映像を視聴することに慣れていて、YouTubeやニコニコ動画を普通に利用しています。そんなAVODの視聴者層を、有料課金型のサービスにシフトさせていくことは課題ですね」とコメント。20世紀フォックスでは、3年前からYouTubeやニコニコ動画の公式チャンネルで、コンテンツの一部を無料公開して続きを有料視聴に誘導する方法をとっている。また「これまでにパッケージ化していないような旧作や、既に廃盤となった作品を、デジタルであれば簡単に届けられるといった優位性もありますね」とした。

最後に、各社の映像配信サービスに関する今後の展望についても語られた。

吉村氏は「既存作品の提供は当然ですが、20世紀フォックスは制作機能を持つプロダクションでもあるので、オリジナル作品にもチャレンジしたいと思います」とコメント。吉川氏は「デジタル映像配信サービスの啓蒙活動を継続していきます。消費者にメリットになるものを提供していきたいです」とした。小西氏は「バンダイビジュアルの取り組みとしてはパッケージソフトが中心でしたが、視聴者の楽しみ方や選択肢を増やすという面もありますので、デジタルにももっと力を入れていきます」と語った。

西田氏は「インターネットで配信される映像配信サービスは、様々なデバイス、様々な場所で利用できるということがポイント。通信回線さえあればどこでも楽しめるようになりました。現在は定額制がわかりやすいのでSVODが注目されていますが、スピードの点で有利なTVODやESTなども含めて、自分の好きなスタイルで選べます。視聴デバイスとしてはスマホが広まったので、他の家電も含めて様々な映像コンテンツを様々に楽しめる環境がより加速していってほしいですね」と締めくくった。

■女優・モデルの新川優愛さんがデジタル映像ライフを語る

続いて開催された第二部では、普段から“デジタル映像ライフ”を楽しんでいるという女優・モデルの新川優愛さんをゲストに迎えたトークショーが開催された。

新川優愛さん。「移動中の車の中や、ドラマ撮影中の待ち時間にVODを楽しんでいます」という

新川さんは、女優・モデル・テレビのMCなどとして幅広く活躍中。忙しいスケジュールの中、移動時間や1日の終わりのひとときに、VODを楽しんでいるという。「私は機械がすごく苦手なんです。でも、VODはスマホから簡単に見たい映画を見れるので便利に使っています。むしろ、操作が簡単すぎるので見すぎてしまうことに注意しなきゃってくらいですね」とコメント。「移動中の車の中や、ドラマ撮影中の待ち時間にVODを楽しんでいます。あいた時間を有効活用できるのが良いし、自宅のテレビで見ていたものを、その続きから外出先で見れるというのが魅力的。自分のタイミングですぐにドラマや映画を楽しめる、自分専用シアターみたいです」と、その楽しさを語った。

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