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世界で一番陽気な地獄、リオの現在を描く「シティ・オブ・メン」 − パウロ・モレッリ監督インタビュー

2008/08/15
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ブラジルに日本人が移民して100年の記念すべき本年、ブラジル映画「シティ・オブ・メン」が全国公開中だ。

この映画は2003年に日本公開された「シティ・オブ・ゴッド」(2002年製作)の監督がプロデューサーとなり、朋友パウロ・モレッリが監督。リオ・デ・ジャネイロの最も貧しい人々が住む地域を舞台に、躍動感あふれる映画を作り上げた。

公開に先駆けて来日したモレッリ監督は、ブラジル大使館での記者会見に続き、記者のインタビューに応じてくれた。

記者会見はブラジル大使館でおこなわれ、大使館書記官に続いて静かで知的な印象のモレッリ監督が登場。この記者会見と後日行ったインタビューをまとめ、最新のブラジルの映像製作の一端をお伝えしよう。


パウロ・モレッリ監督(記者会見にて)
ーー前回の「シティ・オブ・ゴッド」では平地のファベーラをとりあげ、今回は斜面のファベーラを取り上げていますね。 

モレッリ監督:「シティ・オブ・ゴッド」はドラッグディーラーを描きファヴェーラのコミュニティはその背景に過ぎなかったのですが、今回の作品は、ファヴェーラに実際に住む人々、家族を描きました。

斜面のファヴェーラを取り上げたのは、ここが中産階級の住む人々の地区と隣り合わせにあるファヴェーラで、しかも世界の中でも唯一ではないかと思うのですが、町の中で最も美しい景色が見られる場所に最も貧しい人々が住んでいるという不思議な場所だからです。それを世界の人にお見せしたかったということがあります。

ファヴェーラを取り上げたTVシリーズもあり、3作とも、私と「シティ・オブ・ゴッド」の監督、フェルナンド・メイレレスが共同で経営する映像製作会社 O2 が製作していますが、3つはそれぞれ独立した作品です。「シティ・オブ・ゴッド」は悲劇的な結末でしたが、今回の作品、「シティ・オブ・メン」では、私はいくつかの希望を見いだせると思っています。

ーーファヴェーラでの撮影のご苦労、印象などは?

モレッリ監督:リオのファベーラはとても特別な場所で、撮影には良い場合と悪い場合がありました。難しい点はこの地域は麻薬密売人が武装し、支配している所なので危険が伴うなうことです。今回は何も問題はなかったのですが、撮影のセッティングをしているとき、近づいてきて私の近くに立っている男がいたんです。その男のポケットに何か入っていたものが手榴弾であったことに後で気がついたということもありました。怖いような笑ってしまうような経験でした。しかし、ファベーラの住民たちはとても良い人々で、ハッピーでフレンドリーで暖かく迎えてもらえ、怖い気持ちとハッピーな気持ちとを両方体験した撮影でした。

ーー全体の予算は?

モレッリ監督:350万ドル。リーズナブルではないかと思います。

ーー主役の二人の少年をどのように演出されましたか?

モレッリ監督:今回、リアリティを追求したいと思い、実際にファベーラに住んでいる、住んでいた人たちをキャストしています。彼らが、自分たちの言語、スラング、行動をこの映画にもたらしてくれています。

最も重要な部分は俳優たちとのリハーサルでした。実際にファヴェーラに住んでいたことのある主役の二人の少年に、私たちは脚本を渡す事は一切しませんでした。リハーサルの段階で起きる事を説明し、彼ら自身の言葉で、その状況で即興的に芝居をしてもらったんです。このリハーサルでシーンの長さやサブテキストを変えたり、いわば、リハーサル中に編集するようなやりかたで作業しました。だからこそ、これほど、リアリスティックなものになったと思っています。

つまり、この映画の台詞は中流階級の人間が、ファヴェーラに住む彼らがこういうことを話すだろうということを想像して書いた台詞ではなく、彼らが本当に自分で自然に発した言葉を使っているんです。演出上のこのアプローチが一番のトリックだったと考えています。

ーー映画の中で、銃が簡単に入手され、少年が友人の家族に銃を向けるシーンもありました。こういうことは実際に起きているんでしょうか?

モレッリ監督:残念ながら、そういうことがあるのが現状です。薬の密売をおこなうギャングはアグレッシヴであり、ハイになることもあり、友人同士、兄弟で殺し合ったりすることもあると聞きます。そういう子供たちは、年齢が12歳から18歳ぐらいぐらでも殺されてしまう。彼らは若いだけに行動の予測ができない。しかし武器が容易に手に入る。これは奇妙な現実としか言いようがありません。

ーー監督ご自身が青少年だったときは、ファヴェーラをどのように感じておられましたか?

モレッリ監督:わたしはサンパウロの中流階級出身です。サンパウロでは、ファヴェーラは中産階級の居住地住からは離れていて、そこに足を踏み入れたのは、後年になってTVシリーズの監督をしたときが初めてでした。10代の頃には、偏見を持っていたと思いますね。そこに足をふみいれたときに、その偏見にはじめて気がついたんです。なぜかというと、ファヴェーラの住人は、良い人たちが多い。誠実、正直で、親切で、撮影隊を暖かく迎えてくれました。それで、だんだん、私たちもファヴェーラ住人に敬意を払うようになっていきました。

ーーファヴェーラの住人の青少年時代と監督の青春時代との共通点はありますか?

モレッリ監督:今回の主人公の18歳と、自分の18歳の頃は共通点はありますが、それよりもちがう部分がより大きい。そのちがいが大切です。私は父母がおり、結婚するまで共に暮らしていました。これが大きな差ではないかと思い、今回の作品のメインテーマともなっている部分です。つまり父親の不在、あるいは、父親の大きさです。ファヴェーラでは、父親を知らない人が本当に多く、それが彼らの人生に大きなインパクトを与えます。父親が不在だということは、家庭が壊れてしまうんです。自分の作品を語るときに3つのテーマがあると言っています。成熟すること、友情、ふたりの友人のあいだの関係。しかし、それより最も大事なことは、父性、父親の存在ということかもしれません。その意味では、これは父親の誕生、息子が父親になるということかもしれません。

(以上、2008年5月青山のブラジル大使館で行われた記者会見より構成)


記者ラウンドインタビューにて
ーー監督は、最初に建築を学ばれていますが、その後、映画に進んだきっかけは?

モレッリ監督:当初から映画監督になりたいと思っていたのです。でも大学入学当時は、まだ確信はなくて、建築科はどういう芸術も可能でいろいろなアーティストが出会う場所でもあるので、良い経験になると思ったんです。1976年に大学に入学した当時のブラジルは独裁政権で、学生のプロテストも盛んでした。大学では永遠に続くかと思う6ヶ月のストが行われ、授業は全然ありませんでした。私は連日映画三昧の日々。それで、やはり映画を志そうと思いました。それから大学の映画倶楽部に入り、フェルナンド(注:「シティ・オブ・ゴッド」の監督で「シティ・オブ・メン」のプロデューサーのフェルナンド・メイレレス)と友人になりました。それで、ビデオと映画製作の道を二人とも追求することになりました。

ーーモレッリ監督とメイレレス監督がO2カンパニーを作られたんですか?

モレッリ監督:ええ。私たちは、大学時代以来、27年間もパートナーで友人です。結婚している期間より長いんですから、すごいですよね(笑)。今も良い関係で、一緒に仕事をしています。1991年にメイレレスや私たち数人で設立したO2フィルムは、現在ブラジルで最も大きなコマーシャル、TV、映画の番組制作会社で、12から14人のディレクターがおり約85人のスタッフが年に60本ぐらいの作品の撮影を通年おこなっています。今年7月から私たちは、ブラジル最大のTV局、TVグローブで新作TVシリーズを考えています。

ーー「シティ・オブ・メン」では、実際の斜面のファヴェーラの町の中で、臨場感ある迫力あるシーンが撮影されています。アクションシーンのスタッフは何人くらいでしたか?

モレッリ監督:現場は40人から50人のスタッフが入って、ほぼ全編、手持ちカメラで撮影されています。特にアクション、バトルシーンに関しては、武器の扱いも必要ですしエキストラも多くて、スタッフの数も増えました。

ーー最近のハリウッド映画については?

モレッリ監督:ハリウッドの映画は、スーパーヒーローフィルムと、インディペンデントものがありますが、ヒーローものは大嫌いです。子供っぽくて飽き飽きしており、悪い映画だと思います。インディペンデントの映画はとても良いもので、「マグノリア」とか、おもしろいですね。「バベル」も良かったです。ソダバーグもいいですし、ジョージクルーニーも顔がいいだけでなく、パワフルなマインドを持った、つまり賢い監督だと思います。

「グッドナイト&グッドラック」は、素晴らしい作品でした。アメリカのインディペンデントの作品は、私はフランスの映画よりも好きで、現代映画の最良の部分だと思います。

ーー映画を作るうえで、最も大切なことは何ですか?

モレッリ監督:真実を伝えることです。現実を変えずにストーリーを伝えることだと思っています。自分にとって、シネマ、映画というのは、プラトンの洞窟の寓話の現代版だと思います。つまり、夢あるいは人間性というものを描くことができるものであり、それを真実な形で描けた場合、観客にとって人間の魂を向上させることができる。人の精神をもより良くすることができるものだと思っているんです。わたしはいつの日かそういう作品を作りたいと思っています。

(以上、2008年5月 3人の記者によるインタビューより構成)

(取材・構成:山之内優子)

【「シティ・オブ・メン」とは】
紺碧の海を見下ろすリオ・デ・ジャネイロのファヴェーラ(スラム地域)は、あふれる陽光と麻薬密売ギャング団の支配する闇が共存する、世界で一番陽気な地獄だ。

(C)2007 O2 Cinema Ltda. All rights reserved.

(C)2007 O2 Cinema Ltda. All rights reserved.

ここに生まれ育った幼なじみのアセロラとラランジーニャは、まっとうに生きようと願いながら地域を支配するギャング団の抗争に否応なく巻き込まれて行く。

監督はファベーラ出身者を俳優として起用。彼らの実際の言葉を活かし、ほぼ全編手持ちカメラによる野外撮影と即興的演出で、子供までもが銃を手にするリオのギャング団の抗争と、そこで生きる青年の心情をドキュメンタリータッチで描いている。躍動感とリアリティあふれる本作は、ブラジルでも大ヒット作品となった。

監督 パウロ・モレッリ/製作 フェルナンド・メイレレス/2007年ブラジル/製作O2フィルムズ/カラー/106分/配給 アスミック・エース 

2008年第58回ベルリン国際映画祭正式出品 2007年第51回ロンドン国際映画祭


【劇場情報】
東京渋谷シネ・アミューズ他全国ロードショー公開中
※渋谷シネ・アミューズでは22日まで、モーニング・ショーにて「シティ・オブ・ゴッド」を併映

【パウロ・モレッリ監督 プロフィール】
1956年ブラジル、サンパウロ生まれ。サンパウロ大学で建築を学んだ後、80年代から映像の仕事を開始。その後、学友だったフェルナンド・メイレレスらとO2フィルムズを設立。同社は現在、ブラジル最大の映像制作会社となっている。97年に監督した短編映画“Tombstone”でハヴァナ国際映画祭、ロサンジェルス、リオデジャネイロ、サンパウロなどの映画祭で各賞を受賞。99年に、長編映画“Preco da Paz, O”(99)製作。03年のグラマード映画祭にて審査員賞。01年コメディ“Speaker Phone”を製作、監督で03年のニューヨーク国際インディペンセント映画祭で最優秀外国映画賞を受賞。『シティ・オブ・ゴッド TVシリーズ』の第3シーズンでは総監督を務めた。

【ブラジルを満喫!プレゼント情報】
映画「シティ・オブ・メン」×「トゥッカーノ」(ブラジル料理店)でブラジルを満喫しようキャンペーン
●プレゼント(1)
映画「シティ・オブ・メン」「シティ・オブ・ゴッド」を渋谷シネアミューズ(4F)で鑑賞した方を対象に、抽選で「トゥッカーノ」(B1F)お食事券や割引券などが全員に当たるプレゼントキャンペーンを開催。

A賞 ディナー食事券(120分コース) 1組2名様
B賞 ディナー食事券(90分コース) 2組4名様
C賞 ランチ食事券(シュラスコ5種付きビュッフェ)5組10名様
D賞 お食事500円割引券(有効期限:鑑賞当日から1ヶ月)
キャンペーン期間:8月16日(土)〜上映終了まで
(各賞とも8月18日(月)は「トゥッカーノ」休業のため使用不可)

●プレゼント(2)
映画館でシュラスコが食べられる?週末限定シュラスコ祭り開催
8月23日(土)24日(日)の両日、14:10の会上映終了後から16:35の会上映開始までの間のシュラスコ無料試食祭りを開催。「シティ・オヴ・メン」当日券もしくは半券の提示でシュラスコをプレゼント。

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