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【Senka21】新春特別対談“オーディオビジュアルの2008年を語る” − 貝山知弘×山之内正(第2回)

公開日 2008/01/01 12:33
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新春特別対談 貝山知弘×山之内正 オーディオビジュアルの2008年を語る
「ハイビジョンは、映画館を超える感動をもたらした」

薄型テレビがさらなる拡大を続ける中、BD、HD DVDでのハイビジョン認知度の高まり、HDオーディオ再生を実現させたAVアンプの登場など、2007年のオーディオビジュアル界には大きなトピックスが相次いだ。北京五輪という大イベントを控えてさらなる飛躍の期待される2008年を迎えるにあたり、オーディオ・ビジュアルの楽しみや、ハードウェアのあるべき姿についてなど、ビジュアルグランプリ審査委員をつとめる2人の評論家に語っていただいた。


デジタルがもたらしたもの インターフェースの大きな課題

―― 2007年でハイビジョンの扉がやっと開かれた。今テレビCMでもハイビジョンという言葉が強調されて、ずいぶん一般に浸透してきたように思います。そこで開かれた扉から人々が入って来ようというのが2008年です。お話しにあったようなパッケージソフトや、北京五輪などの魅力的なコンテンツが充実して、気運も高まります。


貝山知弘氏
貝山 昔、ヒトラーの時代にリーフェンシュタールという女性の映画監督がいて、ベルリンのオリンピックを撮りました。彼女はそこで躍動する肉体の美を描いたんです。ああいう感覚の映像が、北京五輪でもたらされるといいですね。

僕はスケートが好きでフィギュアを結構見ていますが、荒川静香が勝ったトリノ五輪を見たとき、スポーツはこれだけ美しい映像なんだと感じましたね。あの瞬間から意識が変わった気がします。やっぱりハイビジョンって凄いんだとわかった。そうすると、そこから元に戻れないですね。

山之内 映画の世界でも、人間の身体ということに対して、とても深い表現をしている。撮れなかった角度から撮れるとかいうことだけじゃないものを、オリンピックには求めたいですよね。

貝山 僕はハイビジョンのよさって、ロングショットの鮮明さだと思っているんですよ。豆粒のような人間と雄大な景色が両方とも存在感をもっている。70ミリ映画が出たときにそれを感じたんです。「アラビアのロレンス」で、広い砂漠の向こうからオマーシャリフが延々と何分もかけて出てくる。それが克明に見えた、それも美しく見えたというのはすごいことだと思うんですね。最近テレビで見るロングショットというのは、あの感動に近いんです。今テレビドラマも変わりつつありますからね。

―― 少し技術や製品の話を伺いたいと思いますが、新しいものがどういう技術で進むか、どうあるのが理想かということは、まずユーザーにとってどうなのかという視点が大事ですよね。

山之内 デジタルであるがゆえの難しさ、いやらしさといってもいいものがあります。本来機械は人間にとって、インターフェースを意識しなくてすむような存在でなければならないのですが、今はまったく逆になっていて、機械がどういうフォーマットで、どういうバージョンであるか、いろいろな知識をもっていなくては使えなくなってきました。デジタルであることによって、アナログ時代よりもっと状況は悪くなっています。これは本来あるべき姿じゃないし、一時的なものであってほしいところです。

今デジタルであるがゆえの未解決な問題がたくさんありますが、できるだけ早く解決して、その先の本当にコンテンツを純粋に楽しめる世界に早くいかなくてはなりません。そのためにはひとつずつ解決するしかないですが、放送のダビング、コピーワンスの問題は解決方法が提示されています。これが100%いいとは私も思っていませんが、今までよりはいいだろうという程度です。これについては議論の場が足りないですね。もっといろいろな意見を、私たちの立場を含め、雑誌でももっと展開し、具体的な答えを提案していくべきだと思います。

貝山 昔は人間工学と言う言葉がよく使われましたが、デジタルに対する人間工学も当然あるべきであり、声を大にして言った方がいいかもしれない。

山之内 今は人間工学を語る前の段階で頓挫しているというか。

貝山 要するにコンピューターなのか映像機器なのかの混乱だと思います。

―― PCが最初に出てきたとき、使い勝手が家電とは明らかに違って我々は戸惑いました。PCはあらゆることができる道具ですが、何もかも使い手が自ら歩み寄って自分で解決しなければならない。しかしその煩雑さに慣れてしまうと、今デジタル家電がPCに近い状態になっていますが、それに対してユーザーも何も言わなくなってしまい、メーカーもよしとしているところがあるように思います。今ようやくデジタル家電で使い勝手を重視したさまざまなものが出てきましたが、それはまず一番最初にやるべきことだったのではないでしょうか。

山之内 使い勝手のいい商品が出てくること自体は評価したいですね。それはもちろんもっとやるべきことです。シンプルな、ごく普通の人間の感覚で想像できる範囲で作ってほしいです。現状ではそうなっていないと言っていいですね。

―― ユーザーがある程度わかっているという想定を当然とした上でマニュアルも書かれています。作り手側であるエンジニアにとっては、わかっていない状態がどうであるのか、想像できないということなのかもしれません。


開発の方向をしっかり見据えた大きな飛躍をのぞむ

貝山 次はジャンル別にみていきましょうか。ムービーはどうですか。他の製品に比べて、画質面でも使い勝手でもムービーのグレードはまだまだ上がるべきだと思いますが、いかがですか。


山之内正氏
山之内 実は私も今買い控えている状態です。小さい、軽いというだけではむしろムービーとして使いにくいところがあります。そういう製品はもちろんあっていいんだけれど、あまりに偏ると画質が犠牲になります。画質面を重視したものもカバーしておかないと、メーカーとして十分ではないと思いたいですね。

貝山 小型のハイビジョンムービーの画質は、他のカテゴリーでのハイビジョン機器の画質に比べるとちょっと…。山之内さんが買い控えしているのもわかります。

山之内 実際使いにくいですよね、小さすぎて。直観で操作できないです。撮影というのは時間との勝負ですから、チャンスのときに操作に戸惑うようでは、思い通りの意図で撮れない。最大の不満はそこにあります。

―― ムービーで撮るものは、世界に2つとない大事なものです。それをどう残しておくかということも非常に気になります。例えばどんな再生機でも再生できるようなメディアに残す、ということが理想かと考えますが。ムービー自体がないと再生できない、またPCを介さないとメディアに落とせないというのではなく、メディアをムービーに入れて記録する、記録されたメディアを再生機に入れて再生するという形で、しかも画質もきれいで機器は小型で簡単に操作できる、ということを求めるにはまだ時間が必要なのでしょうか。

山之内 時間が必要というより、やるべきことをまだやっていないんだと思いますよ。開発の方向を、低価格化、小型化・軽量化ということだけにもっていくのではなくて、おっしゃるようなところにもっとリソースを割くべきなんですよ。たとえばデジタル一眼レフカメラの例にあるように、売れるとなればいくらでも画質の方に行くんです。ムービーという市場が今横バイなのは、向かっている方向がちょっと違うからだと僕は思っています。

―― デジタル家電の中で、今大きなテーマとしてはテレビです。これからのテーマをどうご覧になりますか。

山之内 やはり目指すべきは画質でしょうね。大型だけじゃなくて中型クラスも、もっと根本的に一歩先の画質を実現して欲しいと思います。2007年は有機ELも登場した非常に重要な年ですから、この技術を将来につなげていかないといけません。

2008年にはサイズをもう少し大きくするとか、さらに画質を追い込んで、これまでなかった映像を見せてくれるディスプレイをつくる、ということを目的にして欲しいですね。また安いモデルはそうでなくてもいいんだ、という考え方はやめて欲しい。

貝山 安いモデルはできるだけ細工せず、自然に見せて欲しいですね。画質の課題として、黒はかなりいいところまで出せるようになってきましたから、次は白方向を練り上げて欲しいと思います。

山之内 まだブラウン管に追いついていないですね。ブラウン管で見直すと、白の部分の情報が見えるんです。

貝山 白の色ムラや輝度ムラが出るようじゃ、まだ努力の余地がいくらでもあります。


「2011年」を迎える前に今やっておくべきこと

―― 最後に、2008年に向けて期待するポイントを挙げていただきたいと思います。

貝山 これは要望ですが、例えばプレーヤーからHDMIの出力を2系統出して、片側をプロジェクションにつなぎ、もう片側をアンプに送り出すということ。これはマニアがやりたい方法ですが、今のままではたとえ出力が2系統あってもできないことです。この先、スーパーハイビジョンの世界になったときの音声のあり方を考えると、もっと高性能の伝送方式があっていい。これを今年、僕は声を大にして言いたいですね。

山之内 2007年に実感した最大のことは、もっと売れていい、もっと拡がっていい市場が潜在的にあるにもかかわらず、思うとおりに機能していないということが、オーディオビジュアルとピュアオーディオのあちこちで見受けられたということです。その原因は、方向が間違っているということがほとんどですね。それに対しては、クオリティを大事にすること、それを見せる場を提供すること、そしてユーザーインターフェースをもっと洗練させること。これはいろいろなことで経験してきたはずなのに、なぜか業界の中で活かされていないように思えてなりません。

他社の真似でもいい、使いやすいものはどんどん採り入れ、あるべき方向になってしかるべきです。それを細かい差別化に終始して、商品本来の機能が競争のために存在するという方向になっている。それでは将来がなくなってしまいます。そういった基本的なことを、デジタル化の中できちんと修正しておかないと、地上アナログ放送がなくなる2011年には間に合わないです。そこに来て大きな混乱が起きるのは今からでも目に見えているけれども、そこに先手をうっておくぐらいの知恵を使わないとダメですよね。そこまで見据えたものづくりであり、ものを売るというシステムを構築しないと楽観はできない。結構な危機感をもっています。

PCは悪いお手本としての好例です。今これだけPCの人気が落ちているのは、そこを何も考えてこなかったからですよね。そこと同じ道を辿って価格命みたいになってしまったら、もう市場として成立しないわけですから。そうならないように、ぜひ、というところを言っておきたいです。

―― 有り難うございました。

【プロフィール】

貝山知弘 Tomohiro Kaiyama
評論家・ビジュアルグランプリ審査委員長早稲田大学卒業後、東宝に入社。13本の劇映画をプロデュース。独立後、フジテレビ/学研製作の『南極物語』(1983)のチーフプロデューサーを務める。映画製作の経験を活かしたビデオの論評は、家庭における映画鑑賞の独自の視点を確立した。

山之内 正 Tadashi Yamanouchi
評論家・ビジュアルグランプリ審査委員東京都立大学理学部卒。出版社勤務を経て、デジタルAVやホームシアター分野の専門誌を中心に執筆。クラシック音楽の知識も深く、その視点はオーディオ機器評論にも反映されている。


(Senka21編集部)

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