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サラウンド研究者が大阪に集結。世界初の大規模サラウンド収録実験

公開日 2006/09/27 17:40
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オーケストラ演奏を複数のサラウンド方式で同時収録する、かつてない実験


サラウンド実験収録の大阪「ザ・シンフォニーホール

ステージ後方のバルコニー席にも演奏者の席を用意
25日〜27日、AES日本支部・サラウンド収録研究グループ主催による大規模なサラウンド収録実験が大阪「ザ・シンフォニーホール」で行われた。全国の音声エンジニア、オーディオメーカー、大学研究者が一同に介して取り組む世界初の大規模収録実験プロジェクトで、実際のオーケストラ演奏を同一環境、同一演奏にて同時に録音し、複数のサラウンド収録法の比較検討を行うという、かつてない試みに注目が集まっている。

正式プロジェクト名は「地上波デジタルテレビ放送におけるサラウンド収録法の研究 オーケストラ・ホール収録編」。デジタル放送向けのサラウンド音声の収録法や音場再現性を検討・評価することを目的にしている。(財)放送文化基金ほか、関係団体・メーカーの助成・協賛によって実現することとなった。実験では見学会を併設し、放送局エンジニアを中心に実際にサラウンド収録の現場を体験できる機会を提供した。


マイクアレンジ図
注目は、多種多様なサラウンド・メインマイクの技法について同条件の音源を作成するということで、別掲のマイクアレンジ図を参照いただければ、世界的にも珍しい試みであることがわかる。それぞれのマイクアレンジメントを最適な位置に置くという試みはおそらく今回が初めてであり(条件を同じにすると言う理由のため音源からの距離を一定にするなど、各種マイクアレンジメントの特性を無視した例はあるが、今回は深田ツリーの考案者自らマイキングするなど、できるだけ実際の使用に則ったマイキングを実現している)、今回得られる音源により、これまでなかなか出来なかった比較試聴が行えるようになる(これまでの研究音源は収録場所や演奏者などの収録環境が異なるため厳密な比較はできなかった)。

得られた貴重なデータと音源は、DVDオーディオ/DVDビデオ(AC3、dts)のハイブリッド版として、全国の放送局エンジニアやオーディオメーカー研究者、サラウンド収録に興味を持つ演出家などが活用できるように実費頒布する予定という。

100本近いマイクを使い、複数方式の96kHz/24bitサラウンド同時収録


ステージ上には、これでもかという数のマイク、マイク、マイク

収録本番直前の様子
今回のプロジェクトで行われるサラウンド収録のマイクアレイについて紹介する。サラウンド用のメインマイクは大きく2つの方式が用意された。ひとつは5chサラウンド用に考えられた「ワンポイントアレイ」方式。もうひとつはステージの楽器音を収録する「フロントアレイ」とホールの響きを収音する「アンビエンスアレイ」を組み合わせる方式。さらにそれぞれに使用する主なアレイは以下の通りとなる。

■ワンポイントアレイ(マイク)
1.「Fukada Tree」:NHKの深田氏が考案した收音方法。前方にL、C、Rの3本と後方にサラウンドL、Rの2本、そしてL、Rの外側に全指向性マイクを配置する。
2.「Holophone」:ホロホン社が開発したワンポイントサラウンドマイクロホン。ラグビーボールのような形状のボディに8個の小型マイクロホンをマウントして最大7.1サラウンドまで対応できる。
3.「Double MS」:前後方向に向けた2本の単一指向性マイクと横方向に向けた双指向性マイクを組み合わせる方法。
4.「INA5」:ヘルマンとヘンケル両氏が考案した単一指向性マイク3本で収録するINA方式にリアの2本のマイクを加えた方式。米国SPL社が専用のマイクとヘッドアンプのセットとして製品化している。

■フロントアレイ
5.「Decca Tree」:英国のレコードレーベルであるデッカ社で使われていたステレオ収録方式で、L、C、Rの3本を3角形に配置し、さらにL、Rの外側に全指向性マイクを配置する。
6.「Phillips + C」:オランダのレコードレーベルのフィリップス社のオノ・スコルツ氏が考案したステレオ收音方式。全指向性マイクを4本用いる。今回は実験用にセンターマイクを加える。
7.「Omni+8」:L、Rに全指向性マイクを2m間隔に配置し、センターに双指向性マイクを用いる。
8.「BBC Array」:単一指向性マイク5本を2m間隔で前方に配置する方法。英国BBCで用いられている。

■アンビエンスアレイ
9.「Hamasaki Square」:NHKの濱崎氏が考案した方法。双指向性マイクを外側に向けて2m間隔で正方形に配置する。
10.「Omni Square」:全指向性マイクを正方形に配置する
11.「IRT_Cross」:ドイツの放送研究所(IRT)で考案された方法。単一指向性マイクを25cm間隔、開き角90°で配置する。


楽屋内に設けられた録音マスタールーム
そのほかに、補助マイク、客席中で演奏する(バンダと呼ぶ)奏者向けマイクなど合わせて100本近いのマイクが使用された。収録は2式のプロツールスを用い、各々96kHzサンプリング、24bit、48chで録音され、最終的に96トラックのファイルに合成される。収録スタイルはセッション録音なので、部分ごとに収録した楽曲を96トラックまるごと編集して1曲にまとめる。その後、トラックダウンを行い、各マイクアレンジメントをメインマイクとした複数のミックスを完成させることとなる。

(月刊AVレビュー編集部 永井)


【出演アーティスト】
1. オーケストラ:大阪フィルハーモニー/指揮・現田茂夫/テノール・加藤ヒロユキ
2. 歌唱:テノール・吉田浩之/ピアノ・卜部俊子
3. オルガン:片桐聖子

【収録曲目】
1. レスピーギ/ローマの松(大編成検証用)
2. ベートーヴェン/ウエリントンの勝利(中編成検証用)
3. モーツァルト/フィガロの結婚序曲(小編成検証用)
4. ヴェルディ/「椿姫」~プロヴァンスの陸と海(ヴォーカル付)
5. シューベルト/野ばら、オーソレミオ(独唱/ピアノ伴奏)
6. バッハ/トッカータとフーガ ニ短調(オルガンソロ)
7. TV-Themes(POPS形式)

【参加メンバーと支援団体】
○放送文化基金届出研究者
入交英雄 (株)毎日放送/沢口真生 (株)パイオニア/亀川徹 東京芸術大学/井上哲 テレビ朝日映像(株)/西田英昭 朝日放送(株)/小野浩一 関西テレビ放送(株)/三村将之 讀賣テレビ放送(株)
○共同研究者
上野修嗣 (株)毎日放送/大川宏明 (株)毎日放送/永谷俊之 NHK大阪放送局/松山 尚路 テレビ大阪(株)/岩本雅秀 (株)サンテレビジョン/三谷卓也 (株)京都放送/坂口実 (株)エフエム大阪/岩田賢一 FM802
○研究協力
深田晃 NHK放送技術局/濱崎公男 NHK放送技術研究所/尾本章 九州大学
○助成
財団法人 放送文化基金/パナソニックAVCネットワークス社高画質高音質開発センター/DVDオーディオ プロモーション協議会/パイオニア株式会社/ドルビーラボラトリーズINC./TCエレクトロニック日本支社/DVDフォーラム(予定)
○協賛・協力
ザ・シンフォニーホール/九州大学 芸術工学部 音響設計学科/ヘビームーン/三木楽器/デジデザイン/dtsジャパン/株式会社ミキサーズ・ラボ

【実験主催団体AESの概要】
AES(Audio Engineering Society)日本支部
AESは、米国ニューヨークに本部を置き世界各地に支部を有するオーディオ工学、関連分野の科学発展に寄与することを目的とする国際組織。事業はコンベションと国際コンファレンスの開催、オーディオ規格の標準化作業、AESジャーナル(最新オーディオ工学の研究開発に関する論文の掲載)の刊行。日本支部の活動は、リージョナル・コンベンションとセクション・コンファレンスの隔年交互開催と、年10回程度の講演と懇談を兼ねた例会の開催。

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