シスコ・システムズのビジネスデザイン戦略(後編)

2002年12月31日
●Senka21に執筆中の工藤恒夫氏の新年号からの新連載「BtoB企業のビジネスデザイン戦略」の第1回を、昨日の<前編>に続いてお届けする。


シスコ・システムズの創立は1984年。同社はスタンフォード大学で教鞭をとっていたレオナルド・ボサックとサンドラ・ラーナー夫妻によって設立された。本社はカリフォルニア州サンノゼ。従業員数・3万8000名(2000年3月現在)。この若い企業はルーター(本来は互換性のないコンピューター同士を接続し、データ共有を可能にする電子機器)を製造する数少ない企業の一つであった。米国におけるコンピューターの急速な成長に伴って、大学、政府関係機関、企業などの大組織がコンピュータ同士を接続する方法を強く求めるようになっていった。シスコはまさに時代の産んだ企業であった。

創業者夫妻が考案したルーターを同僚たちにも設置したいと思ったが、スタンフォード大学が学内での私的な活動を許可しなかったことがきっかけとなって、二人が大学を辞めて自宅でルータの開発に取り組んだのがシスコ創業のルーツとなる。1986年、自宅の居間で製作した最初の製品・AGSルータを初出荷する。そして、87年にシリコンバレーを代表するベンチャー投資会社であるセコイア・キャピタルから資金を引き出す。セコイア・キャピタルのドン・バレンタインは創業者2人に2500万ドルを提供、その見返りとして同社株の三分の一を取得しただけでなく、シスコの会長兼CEOに就任する。さらに、バレンタインは誕生したばかりのシスコに保険をかける目的で、この2人から会社にふさわしい経営者チームを採用できる権利をも取得する。

1988年にバレンタインは自分に代わる2代目の会長兼CEOとして、54歳のジョン・モーグリッジを採用する。彼はハネウェル・アンド・ストレイタスの出身である。シスコ・システムズは1990年2月16日に株式上場を果たす。シスコの株価は初値は18ドルをつけ、終値は22.5ドルで引けた。上場半年後、ドン・バレンタインと反目し合っていた創業者夫婦は、保有株式をシスコに1億7400万ドルで売却して会社を去った。それから僅か10年後にシスコが株式時価総額で世界のトップ企業に踊り出ることなど誰一人予想できなかったであろう。創業者でさえ全株式を売却したぐらいだから。

1995年にモーグリッジは、91年に執行副社長としてシスコに入社したジョン・チェンバースを社長兼CEOに昇格させ、自分は会長に、バレンタインが副会長になる人事を行う。シスコの90年代後半の驚異的な成長はチェンバースを抜きには語ることができない。同氏はウェストバージニア大学で法律学の学位を取った後、インディアナ大学のMBA(経営学修士)を卒業し、「IBM」でサラリーマンのスタートを切った。同社のセールス部門に6年間勤務の後、オフィス向け専用のワークステーションで当時圧倒的に強かった「ワング・ラボラトリーズ」に転職し、営業担当の副社長へ昇進していた。

モーグリッジはシスコを年間売上高・10億ドル(1200億円)の企業にすることが自分のゴールとかねてから設定しており、それを達成した時点で後継者探しを始め、その眼鏡にかなったのが、副社長として採用された45歳のジョン・チェンバースであった。モーグリッジはシスコを10億ドル企業にする情熱では誰にも負けないが、100億ドル企業にまで成長させる情熱ではチェンバースにかなわないとして、シスコの経営を副社長のチェンバースに委ねたのである。チェンバースは期待通り、シスコを僅か5年で2兆円を超える企業に成長させたのである。

ところで、シスコは1984年の設立以来、93年にスイッチの事業に進出するまではルーターの専門メーカーであった。その後インターネットの普及に伴い、取扱商品はハブ(集線装置)、ATM(非同期転送モード)などデータ・ネットワーキング関連商品とそれに付随するサービスへ拡がり現在に至っている。シスコはインターネットに欠くことができないルーターでは世界の80%のシェアを握り、文字通り世界のネットワーク機器の王座に君臨している。

また、シスコは97年にEコマースをスタートさせたが、現在では総売上高の約80%がインターネット経由となっている。その金額はEコマースで最も有名な「デル・コンピュータ」の3倍に達しており、電子商取引世界トップ企業でもある。世界のIT産業に対するシスコの影響力がいかに大きいかは、「今年(2002年)2〜4月期の売上げが米国のIT不況後はじめて前年同期を2.1%上回ったというシスコの発表で、同社の株価は20%も急騰、ナスダック総合指数も大幅高を記録した」(週刊東洋経済・2002年5月25日号)ことからも容易に首肯できるであろう。シスコ・システムズは今やネットワーク機器の世界最大手であると同時に世界のIT産業の先行指標的企業となっているのだ。

(Senka21編集部)