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デジタルハリウッド学校長 杉山知之氏が語る、2002年のデジタル化の進展 その3

公開日 2002/01/05 11:48
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デジタルハリウッド学校長 杉山知之氏
●インターネットがよりインターネットらしくなる
 ―― 一番はじめにあげられた3つのアドバンテージの中の光ケーブルとも関連してきますが、とりあえずは、DSLによるブロードバンド化ということで、音楽や映像の配信がさらに本格化してくると見られています。この点についてはいかかでしょうか。
 
杉山 新たな可能性の時代だと思います。というのは、これまでのインターネットというのは、質を落としてでも何でも通してしまおうという傾向が見受けられました。しかし、ブロードバンドになってくると、技術的にも徐々に、質を落とさなくてよい状態に近付いていきます。今までは、ネットで配信すると質が落ちるからと、パッケージとは一線が引かれていました。つくる側もそう考えてつくっていましたが、ここまでくると、ネットという部分をかなり意識して、真剣に取り組む必要があります。
 放っておいても、いろいろな人がいろいろなことをやり始めるでしょう。そういう意味では、時間延ばしでやるよりは、すぱっと配信システムをつくった方がいろいろな面でうまくいくと思います。配信システムを整備して、面倒な暗号を入れるなどして、皆でやった方がよいと思います。
 
―― 2003年から2005年には、インターネットはよりインターネットらしくなるということですね。
 
杉山 世界的に見てもそうですね。とにかくスピードが早くなりますから、たいていの人が、ダウンロードしたり、ホームページを読むのに時間がかかるとは思わなくなるでしょう。本で詳しく見るというよりは、より詳しい情報がサイトに書いてあって、細かい情報はネットから読む、というスタイルが一層一般的になっていくと思います。本はジャーナリスティックに、コンシューマーにその世界を見る目をつくってあげる方向性を示す役割になるのかなと思います。方向性がわかってから細かい事柄に当たれば、理解力が全然違いますからね。
 本はホームシアターの世界観を示し、個々の製品や使いこなし方、ユーザーの声などはサイトに任せる。そうなれば、本来インターネットの持っている「もっと知りたい」と追いかけていける特徴がものすごく生きてくるのではないかと思いますね。
 
―― ますます世界が身近なものになりますね。
 
杉山 自分と似たようなことに興味がある人との距離がゼロになります。今までなかなか会えない人同士が、新しいシステムを共有することによって、ユーザーの友の会のようなものがあっという間にできてしまう。そういう流れが出てきますね。もちろん、ソースに関しても、国を越え、人種を越えて、一瞬にして集まり、そこで深い『知』が共有できるわけです。そういうことが、本来の楽しみになってくるんでしょうね。
 でも、自分の知りたいことを知るとか、知った上で見方をつくるのは、人間の本質的なことだと思います。興味があるからこそ、その興味の方向に向かって行動して行きます。インターネットはそれを増幅させる役割を果たすことになるのだと思いますね。

●本当に面白いことはこれから始まる
 ―― 2002年の先生のお仕事ではどのようなことをお考えですか。
 
杉山 最近、いろいろな企業から社員のデジタルスキルを高めてほしいという要求がありますので、特別のカリキュラムをつくり、企業向けの研修を行っています。これまでは個人を相手にしたビジネスでしたが、会社を相手にしたビジネスの割合が徐々に増えていますね。
 社会全体としてデジタルの持っている技術が必要になってきていることの現われでしょうね。学校で研修をすることもありますが、企業に出かけていって研修を行うことの方が多いですね。最初はデジタルに関連の深い会社から始まっていますが、こうした傾向も、これからは徐々に多くの企業へと広がり、小売業や製造業なども出てくると思います。
 
―― ITはこれからが本番ということですか。
 
杉山 デジタル化は、全体で見ると、これまでは実験をやり続けているようなもので、本当の意味で本番になっていないと思います。結局、インフラが整っていかないことにはよさが出ないんですね。皆がインフラを使い始め、コンピューターも回線が十分に早くなった。こうして環境が整い始めた頃に、本当に面白いことが出始めるのだと思います。2002年は、ある意味では出発点になる時かもしれませんね。
 今でもまだ、もちろん様々な問題点はあります。でも、方向はよいと思っているから、半完成品だと知っていてもコンシューマーは商品を購入するわけで、メーカーやサービス会社にも、この商品はかなりすごいレベルの完成品だと思って売っているつもりはないと思います。「欠点はたくさんあるけれども面白いから使ってよ」という感じではないのでしょうか。それが洗練され、ハイレベルになってくるのは2005年くらいかもしれませんね。
 
―― コンテンツがさらに重要になってきますね。
 
杉山 ホームシアターの環境にしても、それが整い、定着してきたときには、コンテンツの勝負になります。そうなると、これまで蓄積されてきた映画を振り返るだけでは限りがあります。それだけ底辺が広がれば、好みも千差万別ですから、いろいろなコンテンツをつくっていかなければいけないでしょうね。
その点は国も考えていて、コンテンツ産業を2010年ぐらいまでに約70兆円にしたいとの希望があるらしいんです。そこにお金が回る仕組みをつくりたいという考えなんでしょうね。皆が楽しく暮らすという意味では、ありとあらゆるコンテンツが流通して、お互いにお金を回していかないと1億人以上の日本人が飯を食うことはできない。無形のものにお金を払うようになっていかなければいけません。
 
―― デジタルネットワーク時代にはプラス志向で行くことが重要ですね。
 
杉山 その通りなんです。9月11日の同時多発テロ事件以降、米国人がやさしくなり、身近にいる人の大切さを再認識するようになったと言われています。日本人同士も、お互いに飯を食っていかなければいけないんだということを考えて、もうちょっとうまく、お互いにお金を使い合うようにならないといけない気がしますね。

すぎやま ともゆき
1954年1月27日生まれ。77年日本大学理工学部卒業、79年日本大学理工学部助手となり、3次元コンピューターシミュレーションによる建築音響設計を多数手掛ける。87年MITメディア・ラボ客員研究員となり音楽と認識グループに所属。94年デジタルハリウッドを設立、現在は同社代表取締役会長兼学校長。工学博士であり、デジタルコンテンツ協会委員、画像情報教育振興協会委員などをつとめる

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