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デジタルハリウッド学校長 杉山知之氏が語る、2002年のデジタル化の進展

2002/01/03
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デジタルハリウッド学校長 杉山知之氏
●■■■デジタル化の波が家庭の中に入り込み、ライフスタイルそのものを大きく変化させようとしている。デジタルコミュニケーションは今後、われわれの生活にどのような影響を及ぼしていくのか。各業界からの厚い信頼を得、次世代クリエイターの育成に力を注ぐデジタルハリウッド学校長の杉山知之氏に2002年のデジタル化の進展を聞いた。(記事構成/SENKA21編集部)

●光ケーブルがオーディオもビジュアルも生き生きさせる
 ―― 2001年のNEBAトップゼミで、杉山先生が講演されましたが、大反響だったそうですね。我が業界のビジネスを展望する上でも、デジタルコミュニケーションの動向には常に目を光らせ、先を見通しておかなくてはならないですからね。
 
杉山 デジタルというのはこの10年ほど、米国を中心にしてビジネスシーンにおけるデジタル化が進められてきました。そうした中、マイクロソフトやオラクルが世界的な巨大企業へと成長しました。日本にもその波が届いたものですから、これまではほとんど、会社におけるビジネスのデジタル化というのがひとつの流れになります。数年前に流行ったビットバレーのような動きにしても、コンピューターのネットワークの中へ、ビジネスモデルを乗せて儲けましょう、という話だったと思います。

 ところがそこへ、日本では携帯電話の中でiモードなどのサービスが登場してきました。これから取り組むべき“生活におけるデジタル化”において、大きなアドバンテージを獲得したわけなんですが、このアドバンテージを強く意識しなければいけないと思います。
 どうも最近の世の中を見ると、負けたとか終わったとか、日本の未来が暗いところにばかり目が行っている。商品は何でも値段を下げないと売れないとか、ものづくりにおいても元気なく見えます。ところが生活のデジタル化において、日本にはものすごいポテンシャルがある。ここもきちんと認識していてもらいたいと思います。
 
―― 行動にしても発想にしても、いつのまにか後向きになってしまっていますね。
 
杉山 日本には、未来に対して3つのいいネタがあると思います。
 1つは、国の施策の中で、基幹となる「光ケーブル」が有り余るほど入っていることです。各省庁が敷いたケーブルを公開すれば、これは本当にものすごい量になります。ところがそこに現在、データはちょろちょろとしか流れていません。タテ割り行政をやめて各々をつなげていったら、信じられないくらいのバックボーンをすでに持っていることになります。
 米国ではよく「ラストワンマイル」という言葉を使いますが、日本の場合は国土が狭いものですから、都市部ではラスト数十メートルで、光ケーブルが家庭に入ってしまう状況にあります。長年、光ケーブルに投資してきたわけですから、あとは企業努力の中で、あるいは民間の中でつなげていけばよいと思います。もちろん、中期的にはDSLという通常のアナログ回線を使うものもありますが、日本では光ケーブルが本命だと思いますね。

 光ケーブルさえ通してしまえば、日本が得意とするハイビジョンをそのまま光ケーブルに出し、受けることが可能なわけです。いろいろな意味から、オーディオもビジュアルもすべてが生きてきます。家電コンピューターが、いよいよ光ケーブルにより、オーディオ・ビジュアルのかつてない様々な情報を受けられるようになる。ハイスペックな映像や音の再生を楽しむことができるようになります。
 2つめは、日本は「センサー」という強い分野を持っていることです。僕は26年前からコンピューターをほとんど毎日使っていますが、コンピューターというのは命令をしないと動いてくれない。なぜなら、耳で聞くことも、目で見ることもできないからです。そこで、センサーの存在が非常に大事になります。センサーを介して我々のことを理解し、よきにはからってくれることになります。

 今の日本では、人口の年齢層が逆転してきています。すなわちこれからは、中年以上になって、誰かに家の中のことをやってほしいと思っても、若い人がいない。そこで、センサーおよびコンピューターがその代わりになり、お手伝いさんのような役目を果たしてくれるようになると思いますね。
 3つめとして、その中でさらに物理的なことをやろうとすると、「ロボット」のようなものの手を借りることになります。家庭用ロボットに真剣に取り組んでいるのは日本が一番だと思いますし、ソニーやホンダなど日本を代表する企業が頑張っています。これは非常に面白いことだと思いますね。

●生活をどのように楽しくしていくかにはアイデアが必要
 
―― 「光ケーブル」「センサー」「ロボット」が、今後の新しいライスフタイルを創造していく上での基点となるわけですね。
 
杉山 この3つが応用される形としては、次の4つの場面があると思います。
まずはオフィスですが、ここは、さきほど申し上げたビジネスのデジタル化という部分で、すでに世界レベルでのデファクトスタンダードがありますから、日本人がもう1回やる必要はないと思います。

 次に家庭ですが、ここでは主役になるのがリビングだと思います。今やリビング革命とも言える時代で、ここには大きな画面が入ろうとしています。皆、映画を見たいから大きな画面と思っているかもしれませんが、僕の感覚は違います。もちろん、映画を見るときは例えば100インチの大きな画面をフルに使いますが、普段はそれを、8面や16面のマルチ画面として使っていいのではないかと思います。16面ぐらいあると、プライベート映像チャンネルまで常時流すことができます。ひとりの人が1回に1つのコンテンツしか消化していないと考えると、それは大きな間違いだと思います。
 リビングの大きなディスプレイが、家族にとって、世界に対する大きな窓になってくるわけです。さらにネットを使えば、顔を見ながらおしゃべりができるようなシステムにもなってくると思います。すでにデジタルテレビの技術の蓄積があり、かつBSデジタルがインターネットにつながっていくサービスが現実に始まっている日本は、随分先行していると思いますね。

 3つめがカーオーディオの世界です。日本ほどカーナビが発展している国はありません。都市部では3DCGで地図が出てくるカーナビが珍しくないほどですからね。世界でそんなことをしている国は他にはありません。まさに、ハリウッド映画のようなことが、日本では日常で起きているんです。これが今、いろいろな意味でネットにつながろうとしています。いよいよオートモービルの世界も、コンテンツを楽しむ場になってくる、ということですね。

 もう一つは携帯の世界です。すでに、ちょっとした動画コンテンツが音声付きでどこへでも送れる形になっています。ですから、普段歩いているときにでも、自家用車の中でも、また、リビングルームでも、一大デジタルコミュニケーションを実現する生活基盤が整えられつつあります。
 外国では、会社を出てまで仕事が追いかけてくるようなものは要らないという考え方の国もあり、携帯電話をいやがるところもあります。携帯のメールが届いたら「仕事が終わらない」と思う人も世界にはたくさんいるようですが、日本ではそういうことが浸透しています。モバイルであろうと、BSデジタルであろうと、カーナビであろうと、いずれもコンテンツが必要です。それを利用して、ありとあらゆるサービスが流通します。

 そのように考えてくると、日本にはネタ、つまりインフラが揃っています。それをどう楽しく使うか、どう役に立てていくか。ひとつふたつのアイデアがあれば、それこそ工夫次第で会社がつくれる状態にあります。そこから、大きなコンテンツサービス会社に伸びていく会社が出ないはずはありません。その一方で、ネット化が進んでいく中で、家電も、白物もIPアドレスのようなものを持ってどんどんつながっていきますね。
 デジタルライフスタイルの中で、オーディオメーカーや家電メーカーが連帯をつくりながら、何でもつながるマスをつくってもらいたいですね。それを開放して、皆で面白おかしく使うことを盛り上げていけば、世界の人が真似したいサービス技術がどんどん出てくる国になると思います。

―― 高齢化社会へ突入していく中、お年寄りにとっても生活がしやすくなりますね。

 杉山 今、女性で65歳以上は5人に1人です。さらに50歳以上に区切ると、実に2人に1人になります。団塊の世代はもう50歳以上になりますが、こういう方は、これからの生活をもっと楽しくしたいと思っているはずです。もっとわかりやすいデジタルやわかりやすい使い方を、メーカーなどはもっと工夫して考えてほしいですね。生活のデジタル化により、簡単にできる、楽しい、得られるものが大きいということがわかってくれば、その年齢層のお金が市場に出てくると思います。
 かつて、オーディオマニアと呼ばれた人たちも、今では50歳、60歳になっています。年を取ったから、皆が皆、マシンに対して疎いというわけではなく、結構、ハードウェアを理解する力を持っています。心をそそるような製品をつくり、サービスの体制をきちんと整えれば、日本そのものが、もっと元気づくと思っています。

 メーカーでは今、製品を主に中国などでつくらせていますが、現在では中国でも10分の1ぐらいの人は、日本人並みの豊かさで暮らしています。すなわち、我々が楽しむことのできるシステムは、同じクオリティのまま、中国においても楽しんでいただける状況に来ているわけです。そうした点ももう少し理解して、中国を、商品を買ってもらう市場として考え、広げていくことができれば、日本のメーカーの生きる道があると思いますね。
(1月4日掲載<第2回>に続く)

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