“電脳空間を現実世界へ” 『攻殻機動隊展 Ghost and the Shell』立体音響制作の背景を訊く
(C)士郎正宗・講談社/攻殻機動隊展Ghost and the Shell製作委員会
立体音響と聞くと、ドルビーアトモスや音楽の空間音響をイメージする人が多いと思う。しかし、もう1つ、忘れてはならない立体音響が “サウンド・インスタレーション” の世界だ。これは美術館やフリースペース、さらには、大阪・関西万博のような巨大イベントなどで設置される。ビジュアル面に加えて、サウンドを利用し、それぞれが表現する世界への没入感を高めるために行われるジャンルである。
つまり、一点物の立体音響。フォーマットに縛られない立体音響のインストールをする久保二朗さんの仕事ぶりは、オーディオファンの立体音響構築にも一石を投じるはず。
ここでは、『攻殻機動隊展Ghost and the Shell』のGALLERY Aでの電脳空間をイメージした展示物ついて、久保さんはもちろん、クリエイターの松山周平さん、サウンドプロデュースを担当した剣持学人さんのインタビューを交えて紹介する。
株式会社enigma 代表取締役社長 アーティスティックディレクター
テクノロジーを用いた、アート作品、空間体験設計を手掛け、国内外で発表を行う。著書に『TouchDesigner解説書』、Forbes JAPAN「NEXT 100」2025選出。第20回文化庁メディア芸術祭アート部門審査委員会推薦作品選出、2020アジアデジタルアート大賞展FUKUOKA エンターテインメント部門 大賞/経済産業大臣賞を受賞
展示した作品体験の強度を上げる立体音響
ーー 今回は、虎ノ門ヒルズTOKYO NODEで4月5日まで開催されていた『攻殻機動隊展Ghost and the Shell』のGALLERY Aの展示についてお話をうかがいます。コンセプトなどをクリエイターの松山周平さん、教えて下さい。
松山 GALLERY Aは、立体音響システムをインストールした久保二朗さんと協力して作りました。僕はどちらかというと映像出身で、プロジェクターやLEDで空間を包むイマーシブ系の体験をこのところずっとやってきたんです。
やはり、体験の強度を上げようとすると、映像だけではどうしても足りない局面が増えてきたんですよね。だからここ3 - 4年は、音もきちんとやろうと思って、マルチチャンネル再生に取り組んでいます。
ただ、マルチチャンネルと言っても、こうした作品で使う立体音響ってドルビーアトモスやAuro-3Dみたいに “座って聴く” 立体音響とはまったく別物です。今回みたいに人が歩き回る回遊型の空間体験の中で、環境として成立する立体音場を作る必要がある。そこで久保さんにお願いした、という流れです。
あと、展示空間って音がちょっとでも “スピーカーから聴こえる” って思われると、そこで現実に戻っちゃうんです。逆に言うと、映像がどれだけ強くても、音がステレオでループして鳴っているだけだと、空間としての説得力が上がり切りません。さらにもう一段上げようとすると、音が効いてくる。そこをやらないと観客は現実に引き戻されるというか、没入が切れちゃうんですよね。
ーー 今回のGALLERY Aは、作り始める段階から立体音響を使うと決めていたんでしょうか。
松山 かなり早い段階からそう考えていました。“電脳空間に来た” という体験を強度あるものにするには、映像だけじゃなく音も含めて環境を立ち上げないといけない。しかも、GALLERY Aは大きな窓があって風景が見える。その景色もひっくるめて、作品の一部として取り込む発想でした。
だから音も最初から “電脳空間” という環境に溶け込んでいないと成立しない。森に行ったら、鳥の音も川の音も、あらゆる音が取り巻いていて、全部が森の環境になっているのが当たり前じゃないですか。単一のサウンドがループしている空間ではなく、“電脳空間” という環境を作る以上、立体で環境性を持った音も常にあるべきだよね、というのがベースになっています。
ーー サウンド面を取りまとめた剣持学人さんをミュージックプロデューサーに起用した理由を教えてください。
松山 剣持さんは、会場のTOKYO NODEのクリエイティブディレクターの桑名 功さんのご紹介で入っていただきました。久保さんは僕からお声がけしました。
実は大阪万博でお会いしているんです。いろんな場所でフィールドレコーディングされた音を空間として聴かせる展示があって、その立体音響の設計とエンジニアリングを久保さんがしておられた。回遊性のある展示で、立体音響をやるなら、久保さんに行き着く、みたいな感じはあります(笑)
「電脳空間がもし本当にあったら…」それを現実空間で成立させたい
ーー 久保さんは、具体的にどんなことを松山さんからオーダーされましたか?
久保 伝えられたのは、ほぼコンセプトだけですね。「電脳空間がもし本当にあったら、こんな体験じゃないか」を、現実空間で成立させたい。僕は作曲するわけではないので、サウンドチームへのアドバイスと、最終的なインストールで環境にする、というところが役割でした。
松山 コンセプトという部分でもう少し詳しく言うなら、8つあるコンソールで、例えばある作品のキャラクターのデータを呼び出す。その様子は大きいLEDパネルにも反映されて効果音が鳴る。逆に誰もいじっていないコンソールも、データがフワフワ浮いているところに勝手にカーソルが合って、チリンチリンって音が鳴ったりする。
普通ならいらないような音も、電脳を1つの環境だと例えるなら、秋の田畑で鈴虫が鳴いているのと一緒で、一見必要なさそうなものもまるっと含めて “電脳空間” にしてしまおう、という狙いもありました。
あと、よく「コンソールで検索した本人が、後ろのLEDパネルを見てないと意味がないんじゃないですか?」って聞かれるんですけど「はい、そうです」(笑)。検索した人のためのインタラクションというより、人々のインタラクションで空間全体のネットワークが活性化していく、という感覚を作りたかったのです。
お隣の家で誰がネットしているかは意識しないけれど、SNSのタイムラインが流れているのは意識する、みたいな。パッと返ってくる分かりやすさじゃなくて、人々の営みで見えない環境そのものが動いていく。
いわゆるゲームみたいに、押したら返ってくる気持ちよさを作るのではなく、自分の操作が空間のどこかを “にじませる” くらいの距離感の方が、電脳っぽいと考えました。来場者の方も、気づく人は気づくし、気づかなくても空間のざわつきとして受け取ってくれる。その塩梅を狙いました。
作品ではなくアプリケーションを作った
ーー そのコンセプトに行き着くまでで、難しかった部分はありますか?
松山 作り方が特殊だったところでしょうか。環境を作るというゴールはあるけれど、完成の絵コンテがあってそこに向かって走る、というより、現状の技術でできるネットワーク構造を一から作って、「壁に映すとこんな感じか」って試しながら “育てる” という感覚でした。
だから、“作品を作った” というより “ネットワーク・ビジュアライザーというアプリケーションを作った” が実態に近い。
ーー “作品を作った” というより “アプリを作った” というのは面白いですね。
松山 フェイクでそれっぽい画を作ったんじゃなくて、アプリとして実際に動くものを作りました。映像自体も定常的に動いていて、データの形が並び変わったりして常にランダムに変化しているんです。だから、触り方や見せ方を変えるだけで、このアプリは別の展示物にもなり得る。完成が定まらない怖さもあるし、逆に可能性が無限にあるとも言えます。
久保 『攻殻機動隊』は、1995年が1作目の映画で、まだネットワークが一般化していない時代に、電脳空間を想像で表現していた。でも今は、技術的には近い世界を現実に作れてしまうところまで来ている。だから「作ってみたらどうなるんだろう?」を本当にやったのがGALLERY Aだと思っていて。
アプリを作ったなら、データもどんどん増殖していくはずだし、僕はその気配を音としてどう立ち上げるか、というトライをしています。今回のコンセプトを吸収して、どうしたら引き立てられるかを常に考えながら作りました。
インスタレーションの立体音響って、どれだけコンセプトに沿って音響システムや鳴らし方を設定するかが肝で、そこまで踏み込む人があまり多くないから、僕の仕事が特殊に見えるのかもしれないですね。だから、コンセプトが明確にないと不安になります(笑)。
ーー GALLERY Aを見ていると、時々崩壊するというか、爆発するようなシーンがありますよね。あれはどういう意味合いで?
松山 あれは単純に「攻殻機動隊みたいにハックされてほしいな」「バグった瞬間もあってほしいな」という発想で作ったものです。もちろんファンとしては、オープニング映像やティザー映像を見たい、という事に応える機能が中心にあるんですけど、ただ流すだけじゃなくて “空間全体が異常状態に遷移する出来事 ”にしたかった。
じつは空間がバグる前に、コンソールが先にバグるんです。検索している人は突然画面がガシャガシャってなって「ん?」となる。そこで10秒くらい持たせて、「あれ、なんかやっちゃったかな?」って思ったところで、GALLERY A全体がおかしくなる。最初の頃は「壊れました?」って聞かれるんですけど(笑)。
久保 バグった画面を見せるという演出は、結構ギリギリで決まりましたよね。結果として、あの “崩れる瞬間” があることで、空間がただ綺麗なだけじゃなくて、生き物っぽくなった感じはあります。
株式会社アコースティックフィールド
立体音響を中心とする音響システムデザイン・技術開発・サウンドデザイン・コンサルティング等に従事する音響エンジニア。2007年に株式会社アコースティックフィールドを設立し、企業・大学の研究開発を目的とした立体音響システムの委託開発やコンサルティングを行う一方で、豊富な経験を軸に展示空間の音響デザインやサウンドアーティストの立体音響による音楽制作、ライブ、配信、インスタレーションなどを技術面からサポートしている。
2014年、ヘッドホンおよびイヤホンでの音楽リスニングに特化した高音質バイノーラルプロセッシング技術「HPL」を発表。音楽を「作る」「聴く」ための新しい環境作りの一つとして立体音響の普及を志す
8chキューブは空間と馴染みやすい
ーー 久保さんに話を移します。まず、会場のスピーカーはどこに、どういう考えで配置したんですか?
久保 実はたくさん付いているんですけど、ほとんど鳴っていません(笑)。CODA AUDIO「HOPS8」をメインに使って、いつもやっている8chキューブのスタイルです。それをベースに、正面の大型LEDパネル周りをカバーする小さいCODA AUDIO「D5-Cube」を2台ずつ上下に足して、サブウーファーのJBL「JRX218S」を部屋の両端に入れています。
全体で言うと12.2ch相当です。あとコンソールには、小さいスピーカーYAMAHA「VXS1ML」が付いていて、効果音は主に鳴ります。
8chキューブにこだわるのは、それでミックスしておくといろんな会場でインストールした時に空間と馴染みやすく悪いことにならない。今回みたいに部屋が台形でもバランスよく鳴ってくれるので、基本の考え方は変えず、足りないところにだけスピーカーを補強し、なるべく空間が音で繋がるように配置しています。
ーー それらをコントロールするソフトウェアは何ですか?
久保 Cycling‘74の「MAX」です。再生もインタラクションもまとめてやっています。世界観のベースになる音楽は8.2chで再生され、コンソールを触ったときは、映像側からMAXにコマンドが送られ、それに合わせて効果音が鳴るようになっています。
映像との同期やインタラクションがあると、いわゆるDAWだけだとやりづらいんですよね。できなくはないけど、自由度が足りない。
なので、僕は昔からMAXみたいな環境でプログラムを組んで、コマンドに対して音を鳴らす、というやり方をよく使います。
松山 全体感として、映像も音もリアルタイム生成やインタラクティブな制御が入っているんですけど、それをすごいでしょとは言わない(笑)。スタッフに説明すると「言わなくていいんですか?」って言われるんですけど、逆で。
僕らの技術を見せるコンテンツじゃないので、仕組みを知らない人が、そこに座ってずっと見ていられる、居心地がいい、っていう状態がベストだと思っています。作り物の森じゃなくて、本物の森を作ろうとしたら “背景に気づかない方が正解” みたいな。
音に包まれている感じは下から音が出ていないと成立しない
ーー スピーカーを、床に置いているのが印象的でした。
久保 GALLERY Aは結構な音量で鳴っているんですけど、あまり気にならないのは、満遍なく音で満たしているからだと思うんです。それには、足元から空間を音で埋めないと包まれ感が出ません。
下から出ている音って感じにくいので、下は要らないと判断されがちなんですけれど、実は包まれ感は下からの音がないと成立しません。極端に言うと、スピーカーが4つしかないなら上じゃなくて下に置きたい、というぐらい重視しています。
ーー 作曲や効果音、ミックス、会場インストールは、どんな体制で進めたんでしょう?
久保 サウンド面のプロデュースは剣持さんで、作曲を担当した音楽家のマイカ・ルブテさんが、まず2chで仮ミックスを作ります。その後、ミックス・エンジニアの葛西敏彦さんが8chキューブで立体的にミックスしていく。
葛西さんは、これまで何度も8chキューブの仕事をしているので、立体でどう鳴るかのイメージを作るのが速いんですね。そして、そのミックスを僕が会場にインストールして最終的に “場” にしていく。スタジオ段階から「最終的にこう聴こえるんですよ」という話を作曲家のマイカさんに伝えながら進めて、現場で整えていく、という流れでした。
現場の音響調整では、全部のスピーカーが鳴った状態でどう聴こえるかを優先し、EQや音量と調整します。測定値が正しいことより、空間として違和感がないことの方が大事なので。あと展覧会は日によって客数が違うので、それを想定しながら最後に音量を決める、というのは毎回やっています。
松山 今回は曲を聴かせるというより、“電脳空間” を作ることなので、BGM化しないところは、ずっと意識していました。この場はどういう場所かを定義した上で、空間全体に揺らぎや偏りのある音の体験が作られる。
それには、劇場フォーマットを持ち込む必要はないけれど、劇場とは別の発想で “環境” を設計する需要は、今回のような特別展示だけじゃなく商業空間にも広がっていくんじゃないかなと思っています。
ーー どうもありがとうございました。
剣持学人さんに聞く立体音響と音楽と効果音
株式会社リストメニアCEO
ミュージック・プロデューサー
1991年7月19日生まれ神奈川県相模原市出身。明治大学情報コミュニケーション学部卒業。広告音楽をはじめ、映画音楽など映像作品・インタラクティブ作品の音楽コンテンツプロデュース、アーティストプロデュースを行う。2020年には映画「音楽」ではアヌシー国際アニメーション映画祭にて最優秀音楽賞を受賞。2025年に音楽プロデューサーとして参加した「TOKYOタクシー」にて日本アカデミー賞優秀音楽賞を受賞
ーー 今日は「立体音響の中で、音楽と効果音をどう扱ったのか」を軸に聞かせてください。剣持さんは立体音響を使った代表的な経験だと、どんなものがありますか。
剣持 普段は映像音楽にプロデュースを手掛けることがメインで、多くはないのですが、大阪・関西万博のシグネイチャー・パビリオンである宮田館「Better Co-Being」で立体音響に関わりました。
ーー 今回、作曲がマイカ・ルブテさん、効果音が久保 暖さん。お2人がGALLERY Aに合うと思った理由を教えてください。
剣持 暖くんとは、仕事で何度かご一緒していて、マイカさんは初めてです。松山さんとの打合せで “攻殻機動隊展は全作品を包括する” という前提がありました。最初は過去作の既存曲を流す案もあったんですが、作品の色が付いてしまうのではないか、と言う理由からオリジナル曲を作る、という判断になりました。
ただ、私が人選していた頃は、まだコンセプトが固まっていない段階だったので、全作品を通して攻殻機動隊とは何かを一度整理してみました。いろいろな作品はあるけれど、共通項として音楽に落とし込みやすいと思ったのは “身体と精神” “自己と他者” “境界線が溶けていく感じ” でした。
ゴーストという概念も含めて、情報が混ざり合うマーブルな感覚というか。それを体現するなら、世界に溶け込むようなアンビエント・ミュージックが合う。しかも攻殻機動隊はデジタルな世界の話なので、デジタル的なアプローチができる人がいい。そう考えた時に、マイカさんだなと思った。一方で、暖くんは、エッジの立ったサウンドが得意なので、効果音で攻めてもらう。そういう理由で人選しました。
ーー 松山さんは、どうなるかわからない “電脳空間” を作りたい、回遊しながらコンソール操作で音も絵も変わって、無限に広がっていく、みたいなイメージがあったそうです。
剣持 “電脳” というワードは打ち合わせでも頻出でしたね。何を作りたいか、という意思確認のところで、感覚はわりと共有できていたと思います。
ーー 立体音響の導入が決まってから、久保二朗さんとはどんな形で連携したんでしょうか。
剣持 久保さんとは初対面でした。ただ共通の友人が多くて、事前リサーチした時点で「誠実な方」という評判は聞いていました。実際に話しても、音に対してすごく誠実だなと感じて、最初から一緒にうまくやれそうな空気はありましたね。
進め方としては、最初に久保さんから「一度、僕のスタジオに来て、立体音響がどう聴こえるか体験してください」と言われて、マイカさんと一緒に体験しました。ステレオだと “スイートスポット” の感覚で作りがちだけど、立体音響は球体として音を捉える必要がある。ステレオの延長で作ると最終的に音像がまばらになりやすい、という話を最初にインプットしてもらった上で作曲に入ってもらいました。
その後、完成した曲を現場にインストールする前に、葛西さんのスタジオで小さな8chキューブを組んで検証しつつ立体音響にミックスしてもらいました。久保さんにも同席してもらって、「この環境ではこう聞こえるけど、GALLERY Aのサイズと位置関係だとこういう結果になるから、下からの音像をもっと出した方がいい」みたいに具体的に教えてもらいました。僕自身もすごく勉強になりました。
音楽家。今作では音楽担当
幼少期から十代までを日本・パリ・香港で過ごし、クラシックピアノを学ぶ。現在は東京を拠点に活動している。音大在学中にヴィンテージ・アナログシンセサイザーと出会い、電子音楽の世界に魅了される。現在もエレクトロニック・ミュージックを基軸に、ジャンルを超えた音楽制作に取り組んでいる。
2020年発売のシングル「Show Me How」がMAZDA MX-30のTVCMに起用され、本人も出演。2021年にアルバム『Lucid Dreaming』をリリースし、翌2022年にはSpotifyのEQUALプログラムに選出、ニューヨーク・タイムズスクエアのビルボードに登場した。その他、SUMMER SONICや朝霧JAMなどの国内の大型フェスへも出演。世界中のアーティストとのコラボレーションや海外でのライブツアーも行う。
映画音楽やCM音楽、楽曲提供、サウンドプロデュース、リミックス、DJ、日・仏・英語での歌唱提供、ナレーションなど多角的に活動中。2026年4月1日には最新アルバム『House of Holy Banana』をリリース予定
音楽家。今作では効果音を担当
1e1(iel=イェル)という名義で東京を中心に活動中。HipHop、R&Bを中心としたブラックミュージックに、現代音楽の一分野とされる電子音響音楽における独自の作曲手法を用いた音を織り交ぜた音楽を生み出す。
2018年10月31日に1st EP『Quartier Latin』をリリース。各リリースは数多くのアーティストから支持を受け、2020年10月にリリースした1st album『Cryptobiosis』は、Webメディア『Mastered』にてSeihoが選ぶ当該年レコード大賞にノミネート。
その活動は楽曲制作にとどまらず、グラフィックやインスタレーションを主としたアート分野での制作も行なっており、Licaxxx、Kazuki、Muraokaらとの共同制作も行なっている。
2024年8月14日、2nd EP『Asymptote』をリリース
ーー マイカさんと暖さんとは、どのように作業を進めていったのでしょうか。
剣持 発注時に先ほど言った “身体や精神の融合” などの私の考えは、あえて2人には伝えませんでした。私の言葉をそのまま渡すと “私の考える『攻殻機動隊』の再現” になってしまう。2人それぞれの解釈が混ざる方が面白いと思ったんです。だから『攻殻機動隊展Ghost and the Shell』のGALLERY Aで使う、という前提と、方向性の指示はしましたが、理由までは言わない。結果はとても良かったと思います。
実作業にあたり、暖くんには8台あるコンソールのUIに対して “正確に音を当てる” ことに集中してほしいと伝えました。GALLERY Aは、誰かがコンソールを触るときはもちろん、操作していなくても効果音が出る仕組みです。
効果音はアトランダムに出てくる。加えて、音階を入れると、いつか不協和音が生まれるので、なるべく音階感のない、ビープ系のサウンドの方が、世界観にも合うし安全という事を伝えました。
ーー 立体音響制作はマイカさんも暖さんもご経験はありましたか。
剣持マイカさんは、今回が初めてです。暖くんは以前TOKYO NODEのギャラリーAで立体音響作品を作っています。ただ、暖くんは、立体音響の効果音を作ったというより、全体の座組の中で、役割を果たした感じだと思います。
空間が音で満たされている
ーー 完成した立体音響空間を体験して手応えはありましたか。
剣持 まず感じたのは、今回の立体音響システムの音が上品だったことです。インスタレーションって空間が広いぶん、余白が大きくて地味になりやすい。そこを音で補おうとすると、どうしても音量が大きくなりがちなんです。でも、今回の来場者は音楽を聴きに来ているわけではなく、映像体験も含めてGALLERY Aに滞在する。その中で「音が大きいな」と感じられるのは避けたかった。
でも、久保さんのおかげで、空間がきちんと音で満たされていると感じられました。これは誰にでもできる技術じゃないし、近くで見られたことは幸運でした。久保さんが何度もチェックに来て最後まで調整してくれたこと、そして前段階で葛西さんが立体音響へのトラックダウンを丁寧に作ってくれたこと、その両方が大きいと思います。
ーー 仕事をしていく中で、印象深かった体験はありましたか。
剣持 久保さんのスタジオで聴いた “雨の音” です。下の方で鳴っていると現実の空間にいるみたいに感じるのに、上げていくと屋根に当たる雨みたいに聞こえる。いわゆるY座標の操作で情景が変わる。
とても演出的で、高さや左右の位置を足すことで、音だけでも情景を変えられるかもしれないという新しい可能性を感じました。また、私がかつてドルビーアトモス作品に関わった事を伝えると、久保さんに “考え方が全然違います” と念を押されたのも印象的でした。映像に密着させる発想とは別の、もっと拡張された立体音響の捉え方を学べた気がします。
ーー ありがとうございました。
Information
『攻殻機動隊展 Ghost and the Shell』の関西巡回展が、
2026年7月17日から兵庫県立美術館にて開催!
関西巡回展では、東京展の魅力を引継ぎつつ、2026年7月7日(火)公開の新作アニメ「攻殻機動隊THE GHOST IN THE SHELL」の最新アーカイブが追加展示される。 詳細はオフィシャルサイトで!
