HOME > インタビュー > JBLのサウンドバーは次なるステージへ。トム・メッツガー社長に訊く今後の展開と戦略

VGP2021 SUMMER受賞インタビュー

JBLのサウンドバーは次なるステージへ。トム・メッツガー社長に訊く今後の展開と戦略

2021/08/10 PHILE WEB ビジネス編集部・竹内純
  • Twitter
  • FaceBook
  • LINE

新規参入も相次ぐ人気が急上昇のサウンドバー市場で、改めてその存在感をアピールするのは、VGP2021 SUMMERで「Bar 5.0 MultiBeam」がテレビシアター大賞を獲得、高い評価を集めるJBL。ブランド創立75周年のアニバーサリーイヤーを迎えた今年、記念モデルも発売するなど話題を提供、ブランド戦略もさらに強化していく構え。市場を鼓舞する活躍が期待されるハーマンインターナショナルのトム・メッツガー社長に話を聞く。
VGP2021 SUMMER受賞一覧はこちら


ハーマンインターナショナル株式会社
代表取締役社長
トム・メッツガー


Tom Metzger
プロフィール/1960年2月9日生まれ。デトロイト出身。1985年 ハーマンベッカー・オートモーティブシステムズ(現ハーマンインターナショナル)入社、オートモーティブ部門にてアジア地域を担当。2009年にハーマンインターナショナルを離れ、車載通信機器ソフトウェア企業のゼネラルマネージャーに就任。2013年 ハーマンインターナショナルに復帰。2014年9月 グローバルセールス&ビジネスデベロップメント部門 バイスプレジデント。2017年6月 ハーマンインターナショナル株式会社 代表取締役社長就任。

■さらなる成長、進化が必至なサウンドバー

―― ステイホームや映像配信の普及を背景にテレビ市場が活気づくなか、サウンドバー人気も急上昇しています。新規参入も相次ぐなか、VGP2021 SUMMERではJBL「Bar 5.0 MultiBeam」が高い評価を集め、テレビシアター大賞を獲得しました。おめでとうございます。

メッツガー ありがとうございます。サウンドバーは、JBLの長い歴史と深いかかわりを持ったビジネスと言えます。JBLはシネマ音響を含めたプロフェッショナルな領域に根差したブランドであり、1928年に世界で初めての音声付き映画で搭載されたスピーカーはJBLでした。それ以降、JBLはシネマサウンドのリーダーとして、全世界の視聴者を魅了する製品を開発、展開してきました。日本でもTOHOシネマズやイオンシネマなど映画館の音響設備として採用されています。


VGP2021 SUMMERでテレビシアター大賞を受賞したJBL「Bar 5.0 MultiBeam」。
それが今、コンパクトで細長いサウンドバーに行き着いたことは、本当に凄いことであり、また、感慨深くもあります。JBLのスピーカーは映画館のみならず、映画スタジオや映画の製作現場、さらに、世界的にも有名なイベント会場や米国NBAのアリーナ、MLBのスタジアム、日本でも楽天ゴールデンイーグルスの本拠地球場である楽天生命パーク宮城などで採用されており、本当に数多くのシーンで活躍しています。プロフェッショナルの領域に根差したイノベーションが、コンシューマーの領域へと落とし込まれ、JBLのサウンドバーは、まさにそうした知見が凝縮された商品である自負しています。

―― ホームシアターの本家・米国では、サウンドバーのマーケットは日本の約20倍ものスケールがあると言われていますが、日本のサウンドバー市場についてはどのように見ていらっしゃいますか。

メッツガー コロナ禍で同じ悩みを持つ環境下に現在はありますが、日本と米国では住宅をはじめ消費者の置かれている条件が異なります。そのため、現時点においては、米国のように急速に需要が拡大しているわけではありませんが、それでも2020年には対前年比で約20%もの伸長を見せており、今後、向こう5年くらいにわたって確実に成長が見込まれる、非常に重要なカテゴリーと捉えています。

コロナ禍のステイホームに伴う“おうち需要”の後押しはもちろんありますが、決してそれだけが成長の要因ではなく、技術的なブレイクスルーが寄与していることも見逃せません。4、5年前のサウンドバーに対するニーズは、薄型テレビの音質やセリフの音を改善することが目的でした。ところが昨今、大型化や高解像度化が進むテレビのさらなる進化を背景に、Netflixをはじめとするビデオストリーミングも一気に普及が進み、ご家庭でもより高解像度かつ高音質での体験を求める動きが顕在化し、サウンドバーの需要を押し上げています。

また、現在の商品はまだワイヤードが中心ですが、今後はワイヤレスを含めた商品展開が重要になってくると考えています。ドルビーアトモスをはじめとする大画面、高解像度に最適なサウンド・フォーマットが提供されており、JBLでもドルビーアトモスに対応した商品を主力に据えて展開しています。

なお、日本ではリビングルームも米国と比較すると狭くなりますから、当然、テレビのサイズも違ってきますし、サウンドバーのサイズについても、米国で展開しているものと同じものは導入できません。そのようななかで、日本市場にフォーカスした「Bar 5.0 MultiBeam」が、今回、VGP2021 SUMMERでテレビシアター大賞を獲得できたことは非常に光栄です。大きな成長が予想されるサウンドバー市場で、映画館のような臨場感溢れる体験をさらに高められるような商品を開発、お届けし、JBLの存在感をアピールして参ります。

■日本のリビングに最適な「Bar 5.0 MultiBeam」

―― サウンドバーの臨場感をもっと多くの方に手に入れていただきたいですね。テレビシアター大賞を受賞した「Bar 5.0 MultiBeam」の狙いやセールスポイントについてお聞かせいただけますか。

メッツガー 日本のリビングルームに「Bar 5.0 MultiBeam」は最適なサウンドソリューションであると自負しています。特に都市部においては、日本ではリビングルームもあまり広くないため、サブウーファーレスの商品が好まれる傾向が見受けられます。「Bar 5.0 MultiBeam」もサブウーファーを必要としないワンボディタイプですが、音質への妥協は一切ありません。パッシブラジエーター4基を搭載し、横幅709mmのコンパクトなボディからは想像できないパンチの効いた重低音を実現しています。

プロフェッショナルの領域ではマルチサウンドシステムが使われていますが、このモデルには「MultiBeam テクノロジー」と呼ばれるJBL独自の技術が採用されています。搭載した9つのスピーカーが放つ音のビームが、左右の拡がりやサラウンドサウンド成分を部屋の壁に放射し、反射させることで、実際に音が左右・後方から聴こえる“リアルサラウンド”を体験いただけます。これもまたJBLならではのプロフェッショナルの知見が活かされたものです。


JBL独自の「MultiBeam テクノロジー」により音のビームが放射、反射させ、実際に音が左右・後方から聴こえる“リアルサラウンド”を実現する。
本体にはマイクを搭載し、部屋の広さや壁までの距離をきっちりと測定し、どのような部屋でも形状に合わせて調整されたた、映画館で聴いているような包まれたサウンドを実現します。自宅で映画館の醍醐味を味わえる商品。可能ならば是非、同じ条件で聴き比べていただきたいですね。

―― テレビを取り巻く音の環境は確実に進化していきそうですね。

メッツガー 日本では「Bar 5.0 MultiBeam」の成功を受けて、来年以降ローンチする商品には次のステージへと進めるイノベーションを導入し、進化、注力して参ります。モデルの特徴に応じて価格設定にも見直しをかけるなど、どのようなニーズ、レベルでも楽しめる選択肢を用意していきます。「Bar 5.0 MultiBeam」で実現したことを、もっと手頃な価格のシステムでも再現できるようにすることももちろん目指しており、容易ではありませんが、エンジニアにとっては非常にエキサイトなテーマであり、日本市場でどう評価されるかは非常に重要なポイントだと考えています。

また、スピーカーケーブルが必要となるような通常の5.1chのホームシアターシステムは、配線も非常に複雑で、導入するのを煩わしいと考える人は少なくありませんでした。ここも将来的には、リビングルームで誰もがごく簡単に設置できるように、配線を無くしていくことが、普及のハードルを低くする上での重要なテーマのひとつであると考えており、グローバルでこのイノベーションを鋭意開発しております。

■JBL75周年。アニバーサリーモデルも好評

―― JBLは今年75周年となり、4月には、アーティスト・Crystal Kay(クリスタル ケイ)さんのブランドアンバサダー就任も発表されています。

メッツガー 75周年のアニバーサリーイヤーを迎え、誰もがパッと見て「あっJBLだ!」とわかっていただけるようなブランド・エクイティの創造をはじめ、ブランド・ビルディングやブランド・アイデンティティをもっと強化していきたいと考えています。たとえば、コナミさんが銀座1丁目にオープンしたeスポーツの体験型ショールーム「esports銀座store」には、JBL PROFESSONALのスピーカーを採用いただいていますし、第一興商さんのカラオケルーム「ビックエコー」で採用されているスピーカーやマイクもJBLのもの。ブランド・アイデンティティをきっちりと製品につなげていく作業は大切なことで、これをさらに広く多岐にわたり展開させていきます。


JBL75周年、アニバーサリーイヤーの展開に意気込むメッツガー氏。
下は10代・20代からご年配の方まで、あらゆる年代層に認知される幅広い商品を取り揃えていきたいと思っています。オーディオではそれこそ幅広く長い経験を有していますが、ヘッドホンやBluetoothスピーカーはまだ新しい領域で、シェアももっと伸ばしていかなければなりません。サウンドバーで得られた技術もスピーカー等に落とし込んで、若い人たちにもメッセージをぶつけられるような商品をお届けしていきたいですね。

―― JBLブランド75周年を記念したスピーカーシステム「L100 Classic 75」とプリメインアンプ「SA750」も発表されました。VGP2021 SUMMERでは、独自のホーン技術と新開発コンプレッションドライバーを搭載したスピーカー「HDIシリーズ」とともに、企画賞を受賞しています。

メッツガー 「L100 Classic 75」のベースとなった「L100 Classic」は2020年に発売されたモデルで、JBLのスピーカーのラインナップの中でも最大のセールスを記録しています。「L100 Classic 75」は、見た目はこの「L100 Classic」とかなり似ているのですが、中身はアニバーサリーイヤーを記念するモデルとして、ドライバーシステムもすべて異なるもので、太く強い低音、よりパワフルなサウンドを実現しています。開発を担当したエンジニアの強い想いが込められています。75周年にちなみ全世界で限定750セットの販売となります。


JBLブランド75周年アニバーサリーモデルとして発売されたスピーカーシステム「L100 Classic 75」。
「SA750」は、プリメインアンプの銘機と名高い「SA600」からインスパイアされた製品になります。外見は踏襲していますが、最新のデジタル技術が搭載されるなど中身はまったくの別物で、アナログレコード再生からデジタルストリーミング、ハイレゾ再生まで幅広く対応します。全世界で1年間を通して台数限定により生産、販売する予定です。


同じくアニバーサリーモデルのプリメインアンプ「SA750」も発表されました。
また、「HDIシリーズ」はトップエンドのモデルとして、ご年配のオーディオファンにとどまらず、若い人からも大変ご好評いただいています。グレイオークリアルウッド仕上げとしたキャビネット・デザインが、パッと見た目の高級感、上質感を演出する仕上がりになっており、女性にも好評です。実際に購入される際には、奥様をお連れになられて来店されるケースが多いとお聞きしており、リビングに置いても自慢のできるデザインとして自信をもってお薦めできるスピーカーです。エンタテインメントの世界を広げることができる商品と位置づけ展開していきます。


2つのアニバーサリーモデルとともに、VGP2021 SUMMERで企画賞を受賞したスピーカー「HDIシリーズ」。写真は「HDI-3800」。

JBL「HDI-3600」。


JBL「HDI-1600」とスタンド「HDI-FS」。
■インフルエンサー活動も強化

―― 専門店ではコロナ禍でこれまで開催していた新製品イベントもままならないなか、販促面におけるメーカーに対する期待も大きいのではないでしょうか。JBL75周年ということで市場への話題づくりにも期待が寄せられますね。

メッツガー ハーマンインターナショナルでは、国内トップレーシングチーム「トムスレーシング」や日本最大規模のクラシックカーラリー「Vecchio Bambino (ベッキオ・バンビーノ)」、プロバスケットボール「Bリーグ」などでスポンサーシップをしており、非常にレンジの広いマーケティング活動を展開しています。

今年はJBL75周年という節目の年にあたり、アーティストのクリスタルケイさんにブランドアンバサダーに就任いただきました。インフルエンサー活動も積極的に行っていく方針で、JBLの露出をさらに広げることで、老若男女を問わずもっと多くの人に認知していただきたいと思います。

ポータブルオーディオからホームシアターを含めたホームオーディオ、さらにカーオーディオまで、包括的に取り組んでいくことが、ブランド・エクイティのひとつと考えており、これからも「かけがえのない音楽体験」を提供できるよう、さまざまな取り組みを行っていきます。


「JBLの露出をさらに広げ、老若男女を問わずもっと多くの人にJBLのブランドを認知いただきたい」と語るメッツガー氏。
―― それでは最後に後半戦に向けて意気込みをお願いします。

メッツガー 半導体不足による製品供給への影響が長らく続いており、サウンドバーやポータブルオーディオは在庫状況を常に確認しながら、バランスをとった舵取りが求められます。半導体がいつ入荷されるのかがまったくわからない状況ですので、勘案しながらプランニングを進めて参ります。

「Bar 5.0 MultiBeam」も、2月に市場導入してわずか2カ月で在庫をすべて一掃してしまいました。生産はまだ戻り切っていない状況ですが、このモデルの導入によりいろいろな面において進化、飛躍することができましたので、生産状況が回復次第、アクセルを踏み込んでいきます。来年に向けてもさらに需要を喚起できるように仕掛けていきます。一方、影響を受けないヘッドホンや完全ワイヤレスイヤホンについては徹底して強化を図ります。

この記事をシェアする

  • Twitter
  • FaceBook
  • LINE