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ハイレゾ配信も準備中

MUSIC/SLASH(エムスラ)はオーディオファンの救世主になれるか。代表・谷田光晴氏インタビュー

インタビュー:永井光晴

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2020年09月01日

『TATSURO YAMASHITA SUPER STREAMING』2017年『氣志團万博』(千葉県・袖ケ浦海浜公園)でのパフォーマンス。 Photo by 菊地英二
約束の時「2020年7月30日20時」。“業界最高水準”の音質を誇る「MUSIC/SLASH」(ミュージック/スラッシュ=以下、略エムスラ)のこけら落とし配信は、そのライブ映像そのものが貴重な、山下達郎のライブストリーミング『TATSURO YAMASHITA SUPER STREAMING』だった(試聴レポートはこちら)。

そんな高音質ライブの感動の余韻も残る8月、そのエムスラを企画・運営する株式会社SPOONの代表である、谷田光晴氏にインタビューを試みた。オーディオファンはもちろん、アーティスト自身が望む高音質配信が生まれたきっかけは何だったのか、これからエムスラはどこへ向かうのか、気になる動向を伺った。


オーディオファン待望の高音質ライブストリーミング、“エムスラ”とは


エムスラ(MUSIC/SLASH)は、「音楽を愛し、音楽を本当に届けたい人、届けて欲しいと願う人のために音楽を最高品質で提供する」を標ぼうし、数ある音楽配信プラットフォームの中でも業界最高水準となる、AAC-LC 384kbpsで配信を行うサービス。さらに12月にはラディウス(株)と共同で、最大96kHz/24bitのハイレゾ音声でストリーミングを行う「MUSIC/SLASH Premium」を立ち上げることも、すでに発表済みだ(記事はこちら)。

コロナ禍でライブ活動がままならないエンターテイメント業界にあって、絶対的なクオリティと、1回のライブ配信に対して最大視聴者数を無制限としたチケット販売、堅強な著作権管理技術による違法コピーや違法アップロード対策を施し、アーティストの収益確保まで考慮するなど、これまでの配信の問題点を解決したワンパッケージ・サービスとなっている。

山下達郎ライブストリーミングの裏側。−エムスラ専用のエンコーダーを開発

───山下達郎のライブ、じつに最高でした。MUSIC/SLASHのプラットフォーム音質という器もさることながら、収録ライブ素材の大元が高音質であることも理由なのかなと思いましたが。

谷田:もちろんそれもありますが、達郎さんや、エンジニアの方も含めて、エムスラの384kbpsのサウンドというものを極限まで活かせるよう十分に検証されて、スタジオワークされたという面が大きいと思います。

─── 配信向けに最適化するために、ミックスダウンなどもやり直していると。

谷田:ミックスダウンはもちろんですが、なによりエムスラが配信用のリアルタイムエンコーダーを作ったという面が大きいと思います。達郎さんのスタジオ的にはPro Tools(プロ・ツールス)から出ているデジタル音声を、普段使っているアナログコンソールを介してAD変換したうえで、それをエムスラのエンコーダーを通してリアルタイムに検聴頂きました。それにその場で調整を加えながら、配信用フォーマットのコンテンツを完成クオリティで確認しながら作業していただきました。

ライブ現場のPAさん(音響担当)でいうと、会場の音を鳴らす人とは別に、配信向けのエンジニアリングをする人がまた必要となります。それは配信クオリティを上げるという意味においては不可欠な要素だと、私たちのほうからもスタジオ関係の皆様には事前にお伝えし、ご納得いただいています。

−エムスラのきっかけ。「プロジェクションマッピング」のクリエイティブ・ディレクターとして、IP転送に興味を持つ


─── エムスラの発想の原点を教えてください。

谷田:映像で表現する人間の中には、作品がデータで完成してしまえば終わりと思ってしまう人が多いんです。でも私の場合は(その映像作品を)どう流すか、どういう環境で再生するか」を常に意識して作っています。というのも、前職の株式会社タケナカで、2009年頃から爆発的に人気になった「プロジェクションマッピング」という映像技術に関わることになったからです。

株式会社タケナカは映像・音響のサービスプロバイダーで、クリエイティブ・ディレクターでありながら、テクニカル・ディレクターを兼務していました。なぜならプロジェクションマッピングは、映像コンテンツを作るだけでなく、どう流すか、どう発表するかが重要だったからです。もちろん、そこをすごく意識していましたし、同時に映像・音声のIP転送技術の可能性に興味を持ち始めました。

Ustreamによるパブリックビューイングに参加し、有料配信の実証実験に関わる


谷田:その頃にUstream(動画共有サービス)が登場して、何でもかんでも、いろんな場所から配信しましょうという文化が流行りました。そんなとき2011年に坂本龍一さんのプロジェクトに参加しました。そのイベントは「Ustreamで自由にパブリックビューイングをやってもらってもいいですよ」、という仕掛けだったのですが、それとは別に、ちゃんとお金を払ってもらえる可能性を考えるために、韓国のオペラハウスから、六本木のTOHOシネマズまでハイビジョン映像と非圧縮の音声を転送する実証実験を有料で行いました。私は六本木側のテクニカル・ディレクターとして関わったのですが、それが大きな契機でした。

当時の映像はMPEG2で、今から考えるとそれなりの画質だったのですが、専用回線を用意しなければならずお金がかかったり、「結構たいへんだな」と思いつつも、いずれこの時代が来るという感触がありました。

東日本大震災のときは、「東北ショッピングモールに、野外フェスの音楽ステージを配信しましょう」という企画がきました。これまではテレビの衛星中継車を使っていたものから、インターネット回線にリプレイスされはじめ、そういった経験・ノウハウを積み重ねることになりました。

YouTubeをはじめとした動画プラットフォームの登場も、「音は鳴っていればいい」

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