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哲学者と宗教学者がオーディオについて語り合う

黒崎政男×島田裕巳のオーディオ哲学宗教談義 番外編。オーディオが変わったら聴き方も変わってきた?!

公開日 2019/11/06 15:28 季刊analog編集部
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ステレオ録音の初期はワクワク感で溢れていた

黒崎 では次に、モノラル盤とステレオ盤が両方出ているものを。デューク・エリントンとジョニー・ホッジスの『サイド・バイ・サイド』(Verve)です。いまの文脈でいうとね。同一演奏をどう表現するかという。この時代、モノラル班とステレオ班がいて。モノラルの方が主流だった時代です。今日持ってきたレコードは両方ともほぼオリジナル盤なんですけれども。ステレオは「ステレオフォニック」って、こんなに大きく書いてある。

ついでにいうと、(モノラル盤は)オリジナルで買ったら、かつての所有者の書き込みがあったんですよ。これを見ていて、ハッと気づいたのが、有名な『サイド・バイ・サイド』は、ふたつの時代の演奏をがっちゃんこして入れているんです。A面の1、2、4曲は1959年。ピアノがエリントン。で、その他はビリー・ストレイ。ホーンのピアノで1958年の録音です。つまりA面3曲目とB面全曲はエリントンは演奏していない。まったく別の時の演奏をがっちゃんこして作ったアルバムです。こちらは何年に演奏している方、って。書き込みの、点とかで区別している。私、この書き込みの人に「ああ、ありがとうございます」って、感謝したの。そうじゃなきゃ、気楽にA面、B面聴いていたら絶対わからないよ。

島田 それ、誰が書いたんだろうね。

「ジャケットの裏面に買った人による録音時期をメモした書き込みがあるんです」

黒崎 買った人でしょう。で、ライナーを読み始めたらB面、「ジャスト・ア・メモリー」。最初にベン・ウェブスターがテナーサックス吹いて、次にロイ・エルドリッジがトランペット吹いて、その後に初めてジョニー・ホッジスがすっごいビブラートのかかった美しいアルトサックスを吹いていると書いてある。この順を知って聴くのと知らないのとは大きな差。CDで聴いていたら、絶対気がつかない。こんな楽しい聴き方ってしない。

では、「ジャスト・ア・メモリー」をモノラルで。

〜デューク・エリントン&ジョニー・ホッジス『サイド・バイ・サイド』モノラル盤より「ジャスト・ア・メモリー」〜

デューク・エリントン&ジョニー・ホッジス『サイド・バイ・サイド』モノラル盤

その裏面 曲名付近の書き込みに注目
トーレンスTD226、、EMT997、 EMT OFD25、オクターブHP500SE、MRE220、JBL HEARTS FIELDで聴く

黒崎 エリントンを聴くというのは、ホッジスを聴くことだと、私には思われて。これは、ジョニー・ホッジスが抜けて、もう一回再会した時に、エリントンがゴマすって、デューク・エリントン&ジョニー・ホッジスの『サイド・バイ・サイド』っていう、このアルバムができたわけです。しかしさすがエリントン、自分の見せ場を作っているのが、商売人だなあと。

島田 ほかの人は「プラス・アザーズ」と謳われている。その他大勢だと(笑)。

黒崎 これと同じ演奏のステレオ盤。こちらも聴いてみましょう。


デューク・エリントン&ジョニー・ホッジス『サイド・バイ・サイド』ステレオ盤

その裏面
〜デューク・エリントン&ジョニー・ホッジス『サイド・バイ・サイド』ステレオ盤より「ジャスト・ア・メモリー」〜リンLP12SE(URIKA II内蔵)、KLIMAX DSM、KLIMAX 350で聴く

黒崎 音が良いんだよねえ。URIKA
IIでジャズ鳴らすと結構いける。もっと細いのかと思うんだけど、ステレオで、この時代の録音がいい音する。再生機のおかげなのか、ステレオの方のマイクがものすごくいいものを使っているからなのか。私には分かりませんけど。

島田 モノラルとステレオとで、違うね。ステレオだと、お互いの演奏を聴いているな、という感じがするけれど、モノラルはそういう感じがしない。そんなにたくさんメンバーいないけど、ステレオはオーケストラという前提がひとつあって、その中でそれぞれが演奏しているなということがよく分かる。音色的に考えたら、モノラルの方が単体の音としていいかもしれないけれど、音楽ということで考えるとステレオの方がいいですね。

黒崎 このアルバムに関してはそう感じますね。クラシックに関しても、ジャズに関しても、もちろん最初は全てモノラルだったわけだから。ステレオが出始めて、本当に大丈夫なのかって、モノラルとステレオ、両方録っていたわけです。55、56年から65年くらいまでは続くんじゃないかしら。最初はモノラルが主で、ステレオがサブ。その次、平等になり、最後はステレオで録って、モノラルはミックスして売り出す形になった。

島田 ステレオ録音の方が、工夫がある気がする。どう録っていいか分からないけれど、こういうことが正しいんじゃなかろうか、ってエンジニアが考えて録っている。

黒崎 ウィルキンソンの面白さというのは、ステレオというイリュージョン。イリュージョンに乗っかった面白さが録れている。

島田 だから楽しかった。

黒崎 楽しい。聴いている方も分かるんです。オーケストラは、モノラルのファーストプレスのメンデルスゾーンもあるんですけれども、せっかくウィルキンソンが録っているのにつまんないんですよね。いまさらながらステレオの発明という意味を感じます。

島田 ただ、ステレオのいちばんはじめ、ワクワクやっているのは、一時的なもの、そんなに続かない。

黒崎 その時のワクワク感とかびっくり感とか、才能が結集して、ステレオ初期にめちゃくちゃ名録音が生まれている。

島田 それが、いまの技術でようやく表現できるようになった。

黒崎 いまになってオーディオ装……特にプレーヤーがすごく良くなったからね。今日は島田さんがクラシックにも目覚めたのが嬉しいなぁ。

島田裕巳氏

島田 それをいうとね、黒崎さんの世界はジャズとかクラシックでいうと、クラシック。ひとつの音楽ジャンルだと僕は思ったの。

黒崎 あぁ、僕はジャズもクラシックも境目がないの。

島田 その通り。共通しているのは、いまはできないもの。演奏も録音もできないもの。できない、ってところが重要だと思うの。いまでもできるんだったら関心を持たない。そういう意味での「クラシック」。

黒崎 失われてしまったもの。

島田 そう、失われていないと黒崎さんは感じないの。

黒崎 骨董音楽? オーディオで聴くものは、全ていまは存在しない過去ですけど。レコード音楽は骨董ということか。そういえば、ホロヴィッツが来日して演奏した時に、吉田秀和が「ひび割れた骨董だ」って言った。骨董の意味がダメという意味なのか素晴らしいという意味なのか。それにしても、ここまで赤裸々に明らかにしてくれている最近のオーディオのテクノロジーの進化というものは……。

ということで、今日も長い時間、どうもおつき合いいただきまして、ありがとうございました。
(哲学宗教談義 先生たちの夏休み 完)


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〒104-0061東京都中央区銀座2-3-5三木ビル本館5階 フリーダイヤル 0120-62-8166




黒崎政男Profile
1954年仙台生まれ。哲学者。東京女子大学教授。
東京大学大学院人文科学研究課博士課程修了。
専門はカント哲学。人工知能、電子メディア、カオス、生命倫理などの現代的諸問題を哲学の観点から解明している。
「サイエンスZERO」「熱中時間〜忙中趣味あり」「午後のまりやーじゅ」などNHKのTV、ラジオにレギュラー出演するなど、テレビ、新聞、雑誌など幅広いメディアで活躍。
蓄音器とSPレコードコレクターとしても知られ、2013年から蓄音器とSPレコードを生放送で紹介する「教授の休日」(NHKラジオ第一、不定期)も今年で10回を数えた。
オーディオ歴50年。
著書に『哲学者クロサキの哲学する骨董』『哲学者クロサキの哲学超入門』『カント「純粋理性批判」入門』など多数。



島田裕巳Profile
1953年東京生まれ。宗教学者、作家。
東京大学大学院人文科学研究課博士課程修了。
専門は宗教学、宗教史。新宗教を中心に、宗教と社会・文化との関係について論じる書物を数多く刊行してきた。

かつてはNHKの「ナイトジャーナル」という番組で隔週「ジャズ評」をしていた。戯曲も書いており、『五人の帰れない男たち』と『水の味』は堺雅人主演で上演された。映画を通過儀礼の観点から分析した『映画は父を殺すためにある』といった著作もある。

『葬式は、要らない』(幻冬舎新書)は30万部のベストセラーとなった。他に『宗教消滅』『反知性主義と新宗教』『なぜ八幡神社が日本でいちばん多いのか』『スマホが神になる』『戦後日本の宗教史』『日本人の死生観と葬儀』『日本宗教美術史』『自然葬のススメ』など多数。


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