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哲学者と宗教学者の対談が炸裂!

黒崎政男×島田裕巳のオーディオ哲学宗教談義 Season 2「存在とはメンテナンスである」<第2回>

公開日 2019/01/18 17:46 季刊analog編集部
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人生不可解なり − 華厳の滝と哲学

島田 いやいや、断ります(笑)。でも、哲学をやるって、そういう人生の苦悩を背負うってことじゃないの? そうでもない?

黒崎 んー、特に。

一同 (笑)

島田 だって、哲学をやったことで、コルトレーンかバッハなわけでしょ? やっぱり精神が病んでいるとしか思えない。
※Season1 第1回を参照)

一同 (笑)

黒崎 そんなことないよ。でも、人生をどう生きるかどうかという文学的哲学が日本では主流ですよね。阿部次郎の『三太郎の日記』とか。藤村操が「人生不可解なり」って華厳の滝に飛び込んじゃったからね。

哲学者・黒崎政男氏

哲学やる人はみんな行くんですって。藤村の先生だった漱石も書いているんですよ。「あの分じゃ華厳の滝に行きますよ」って。

島田 漱石に叱られて。確か19歳だよね。

黒崎 宿題やってこなかったかなにかですごく叱責したんですよ。藤村が飛び込んだのは、その3日後のことです。ところが、1989年の朝日新聞で、実は失恋が原因だったということが明らかになった。遺書を託された失恋相手、ご本人が亡くなられたので、遺族が手紙を公開した…。なんだ、哲学で自殺したわけじゃないんだとなった。

島田 だいたいそういうもんじゃない? 人生一番の問題って女性だから。

黒崎 そう。抽象的なことで人は死なないんじゃないかな。人生不可解だ、で飛び降りることのほうが不可解ですよね。

一同 (笑)

島田 黒崎さんが哲学を選択した経路は?

宗教学者・島田裕巳氏

黒崎 僕は数学的問題ですよ。つまり、どうして世界は法則で成り立っているのか。なぜ、人間が生み出した微分・積分の通りに、「もの」は飛ぶのか。「もの」は微分・積分を学んだのか。世界が微分・積分で成立しているとして、17世紀にニュートンとライプニッツによって発明される以前はどうだったのか。それはもともと宇宙の根源にあったのか。我々がただそういう風に解釈しているだけで、世界はもともと数式によって成り立っているのか。

そういう疑問が私の哲学の根源です。だから、生きるとかそういうことは関係ないんです。

さぁ、次に行きましょう。ブルックナーのシンフォニー9番。オイゲン・ヨッフム指揮のベルリン・フィルで聞きます。9番はブルックナーでも究極というか。聴く、というより体験ですね。そのくらい素晴らしい曲ですね。

島田 交響曲はだいたい9番で終わるの?

黒崎 そういうジンクスがありますね。みんな9番を書くと亡くなる。ベートーヴェンがそうで、マーラーは絶対死にたくないと思って、8番の後に「大地の歌」という名前をつけて9番を避けたんだけど。結局生きて9番を書いて、10番の途中で亡くなった。ショスタコーヴィチだけ15番ぐらいまで書いてます。

さて、DSDは1963年のリマスタリングです。以前はリマスタリングされると音はよくなるものだと思っていたけど、最近はむしろ悪くなるんじゃないと思い始めました。誰によるリマスタリングかということが決定的に音楽を作るんじゃないでしょうか。では、ブルックナーの9番。一楽章。

哲学者・黒崎政男氏

〜ヨッフム(指揮)、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団『ブルックナー:交響曲第9番』DSDファイルを聴く〜
LINN KLIMAX DS/3、OCTAVE V80SE、PIEGA Master Line Source 2


ヨッフム(指揮)、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団/ブルックナー:交響曲第9番 DSDファイル
黒崎 テ・デウムをオイゲン・ヨッフムが録音するのは、1966年くらい。その前はブルックナーの9番のLPは1枚で出ていたんですよ。それから以後、テ・デウムは片面なので、テ・デウムと9番のカップリングで2枚組で出るようになった。テ・デウムが半面だから、その半面ともう1枚の3面を使って9番を入れている。ところがどう聴いても、最初の1枚組の方が音がいいんです。

それでこちらを持ってきました。ドイツ盤全集に入っているものなんですが、より音が澄んでいます。潰れているんですよ、2枚組の方は。まあ、あまりにも個別的で細かすぎる話ですが。普通はさ、2枚組にしてゆったりカッティングした方がいい音すると思うじゃないですか。

島田 誰も興味ないから。

黒崎 えーっ!(笑) 

一同 (笑)

〜同じ盤をアナログレコードを聴く〜
KLIMAX LP12、URIKA II、KLIMAX EXAKT DSM、KLIMAX EXAKT 350


ヨッフム(指揮)、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団『ブルックナー:交響曲第9番』DSDファイル
黒崎 臨場感が全然違うね。

島田 音楽の世界にのめりこむような、そういう世界。DSDは一歩引いたような。

黒崎 DSDはそういう距離感。安心して、自分は別のところにいるような。

島田 逆に言えば、LPのような聴き方がいやだという意見もあるよね。

黒崎 確かに。


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