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「つくづくアニメは面白い」

4K化で報われた − 押井守監督が語るUHD BD版『GHOST IN THE SHELL』『イノセンス』の “新体験”

公開日 2018/06/15 17:00 編集部:押野 由宇
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また今回のUHD BDではサウンドも興味深い。『イノセンス』はもともと6.1chだったものがDTS:Xになっており、『GHOST IN THE SHELL』は『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊 2.0』で6.1chにアップコンバートされていたものが、2chのドルビーサラウンドで収録されている。

その意図について、押井監督は「僕はサウンドリニューアルを『機動警察パトレイバー 2 the Movie』で経験しているので、その威力は知っているつもりです。特に『イノセンス』はやりたかった。そういった作品はほかにもいっぱいある。『スカイ・クロラ』なんて、あれこそアトモスでやるべきだと思っているし、4Kで言うなら『天使のたまご』は信じられないくらい暗部に情報が入っているんので、それをどう作り出せるのかとかね。ただ、それをできるかは、ひとえに予算の問題(笑)。本音を言えば、全部やりたかった」とコメントした。

さらに押井監督は、リニューアルへの熱意を見せる。「僕はやったことは忘れる主義ですが、リニューアルすることは大好きなんです。自分が一度やったものをまた作り直すのが面白い。チャンスがあれば色々な作品もリニューアルしたいと思っている。『アヴァロン』だってデジタルでリニューアルしたら、もっと緻密に作れるだろうな、という思いがある。当然、音もいじりたい。技術があるのに出来ないのは、ものすごいストレスですよ。 “再生” したものを見てもらえば、作品がまた蘇る。もう一回、魂が入って、過去の作品じゃなくなるんです」。


「言ってみれば、クローンを続々と生み出せることは、デジタルの世界になったことの良さですね。僕はクローン大好きです。映画館で見たって、公開されて3日目と最終日では絵も音も変わる。映画にオリジナルはない。本質はクローンです。だから、技術で引っ張り出せるのであれば引っ張り出したいし、純然たる興味としてやってみたい。頑張って緻密な絵を作ってきて良かったと、しみじみ思います。背景にセルが乗っかってるだけのものを量産したのでは、こんな面白さを味わえなかった。当時は報われなかったとしても、やってきてよかった」(押井監督)。

UHD BDの見どころは?

今回のUHD BDの見どころについて、まずキュー・テックの今塚氏は「マスターポジを使っているので、フィルム自体がもともと5K相当の情報量を持っています。そのため、HDではフィルムの情報が出し切れなかったが、ここにきてやっと、フィルムの良さがすべて出せる時代になったと感じています」とコメント。

そのうえで「HDRの効果として透過光をしっかり出している反面、単純に明るくするのでは良い画にはならないので、基本部分はSDRの明るさ、輝度の高い部分をHDRで楽しんでいただけるように、0-100%内の明るさはできる限り変えずに調整しています。シーンとしては、多脚戦車との銃撃戦は、光を表現しやすいところだったので、輝度を上げて明るめにしています。またUHD BDではフィルムの持つBT.709という色域より広い、BT.2020の色域が使えるため、再現ができなかった色彩が出せるようになり、特にシアンブルー系の中間色が豊かになっているので、そちらもぜひご覧になっていただきたいと思います」と述べた。


押井監督はまず『イノセンス』について「気になってたところがあって、バトーが潜って水中サイボーグに引っ張られて、最後のベースに殴り込みにいくところ。エフェクトを掛けすぎて、色々な光を計算して作ったにも関わらず赤い水中になってしまった。最後のバトルシーンもそうです。バーチャルなマップの実験を重ねて突入するところ、情報量が多すぎちゃったんですよ。画の抜けがもう一つ悪くて、それが心残りだった。フィルムの印象よりも、かなり改善されていると思います」とコメントした。

そして『GHOST IN THE SHELL』については「やっぱり、 “光りもの” ですよ。透過光とか、グリーンの光で表示するホログラフ的なデータ系。フィルムではどうしても微妙な細い線が出ないので、苦労した。こうした光がどこまで出せるのかが肝かな、と思っていました。また、素子の肌は標準の色指定が存在しない。全カット違う色で、背景に馴染むように計算していたんですが、フィルターを使うことで実現していたので、それがクリアになったときにどうなるんだろうという懸念はあった。見どころとは逆かもしれませんが、公開時に不安だったところがどこまで改善されているのか。そういった肝となる点はやれているんじゃないかな、と思います」と述べた。


あらためて、完成した映像を観た印象について押井監督は「みんながハッピーになった」と語る。「驚きましたよ。自分で色んなことやってきたんだな、っていう感慨にふけりましたね。つくづくアニメーションは面白い仕事だなって思いました。デジタルになって見えにくくなったかもしれないけれど、デジタルも “技” です。だから技術的な注文をした記憶はないです。僕にも何が見えてくるのか分かっていないので、とにかくやってみてくださいとしか言いようがないから。それが『良かった』とハッピーになるのか、『頑張ってくれたのは分かるけど、ちょっと違うんだけどな』という不幸な結果に終わるのか。今回は前者だった。僕はオススメします」。


なお視聴システムには、パナソニックの4K有機ELテレビ「TH-65FZ1000」に、UHD BDプレーヤー「DMR-UBX7050」が用意された。これは、いま一般家庭で実現できる最新の4K環境と言うことができるだろう。押井監督も「できればこの際、良いモニターを購入いただいて、セットで観ていただきたい。私も買います(笑)」とアピールした。

パナソニック 4K有機ELテレビ「TH-65FZ1000」

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■価格:¥9,800(税抜)
■ディスク構成:UHD BD(本編約82分)+BD(本編約82分)
■UHD BD収録映像/音声
リニアPCM(ドルビーサラウンド)/HEVC/66G/16:9<2160p Ultra High Definition>

『イノセンス』 4K Ultra HD+4K リマスター・ブルーレイ


■価格:¥9,800(税抜)
■ディスク構成:UHD BD+BD
■UHD BD画面サイズ:
16:9(2160p Ultra High Definition)
■UHD BD収録音声:
1、日本語(2.0ch/リニア PCM) 2、日本語(7.1.4ch/DTS:X) 3、日本語(DTS Headphone:X)

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「GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊」:約82分
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(c)1995 士郎正宗/講談社・バンダイビジュアル・MANGA ENTERTAINMENT
(c)2004 士郎正宗/講談社・IG, ITNDDTD

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