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「ダイナミックオプティマイザー」

【集中連載】現地で見たNetflix “最強” の理由(3)高画質を可能にする最新エンコード技術とは?

公開日 2017/03/24 10:00 山本 敦
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山本敦氏が米Netflixの本社を訪問、Netflixの最新動向やその取り組み、今後の展開についてレポートしていく連続企画。第3回目では、モバイル端末をターゲットとした最先端のエンコード技術について話を聞いた。

低パケットで高画質なモバイル再生を実現する「ダイナミックオプティマイザー」

モバイル端末をターゲットにする最先端の配信技術については、Director of Video AlgorithmsのAnne Aaron氏の説明を聞いた。

動画圧縮の技術についてはAnne Aaron氏がデモを交えながら解説した

Netflixのユーザーは、特にアジアを中心に広がっているという。Product InnovationのバイスプレジデントであるTodd Yellin氏も「スマホやタブレットはもちろん、スマートテレビやPCなども使い分けてコンテンツを楽しんでいるユーザーが多い」と述べている。例えば、夜にリビングで楽しんだシリーズドラマを、寝る前にベッドで続きを見るといったようなスタイルにも馴染むよう、マルチデバイス間でのレジューム再生など、機能やサービスの使い勝手を高めることに力を入れてきた。

モバイル視聴に関連する機能改善はさらに進み、昨年5月にはストリーミング再生時のモバイルデータ使用量をユーザーが手動で選べる機能が加わった。11月からは一部の対象コンテンツをモバイル端末にダウンロードして、オフライン環境でも見られるようになっている。

Aaron氏は「Netflixは、ユーザーの方々がどんな環境でコンテンツをストリーミングしている時にも、ベストな画質で映像が見られるようにエンコーディング技術を日々改善しています」と大きな方向性を述べ、現在開発中の具体的な新技術についても語ってくれた。

Netflixのモバイル向けストリーミングは、映像のエンコードにH.264/AVCを採用。タイトルごと、いくつかの画質/ビットレートごとにエンコードの段階を細かく分けたファイルを用意して、ユーザーが利用する回線の状態に自動で合わせながら可能な限りベストな画質でストリーミングする「アダプティブ・ビットレート方式」によって配信を行ってきた。

そして先述の通り、現在はユーザーがモバイルデータ使用量を設定メニューから選択できるようになっている。なお映像ファイルのエンコードについては、アマゾンのクラウドサービスであるAWSを活用している。

後述する、200kbps前後のストリーミングの比較。今夏以降に導入を予定するダイナミックオプティマイザーの機能により、パケット通信量を抑えながら高画質な映像をストリーミングできるようになるという。写真の比較デモでは右側のイメージが最新技術により表示されたものになる

ところが最近では、コンテンツの多様化とディスプレイの高精細化により、さらに高画質・大容量のデータを効率よく伝送できるエンコード技術が求められるようになってきた。そこでAaron氏のチームは、映像を1〜3分単位のチャンク(データのかたまり)に分解して配信する方法を2015年ごろに開発。これを昨年11月に始まったダウンロードサービスにも採用している。

現在はチャンク単位のエンコード処理をさらに発展させた、「ダイナミックオプティマイザー」と呼ばれる最新エンコード技術の導入も検討している。世界で指折りの動画圧縮技術を研究するエキスパートをチームに招き、「チャンク単位で映像の内容を判別しながら圧縮を最適化するアルゴリズム」の開発も進めているという。

ここでは圧縮コーデックにはGoogleが開発したVP9を使用。映像の圧縮効率自体を高めながら、さらに映像を「シーン単位」で解析して、映像内容に対して最適なビットレートを割り当てる。人間が映像を目にした際に、最も視線が集中する箇所にビットレートを多く割り当てることで、画面全体としてはデータ量を抑えながら映像の精彩感を維持するアルゴリズムを採り入れている点も大きな特徴だ。

セミナーでは、100kbps前後の動画部と56kbpsの音声部で構成される約200kbpsの動画素材を2つ用意して、現行の圧縮方式に対してダイナミックオプティマイザーで処理された映像が明らかに高画質であることをデモで示していた。同じコンテンツをストリーミングした場合、消費されるデータ容量も約半分に抑えられる効果があるとのこと。

新機能は今年の夏以降のローンチに向けて開発が進められている。スマホでNetflixを楽しむユーザーにとっては待ち遠しい限りだ。また「モバイル再生でも高画質なNetflix」という売り文句は、日本をはじめスマホで動画を楽しむすべてのユーザーに強く響くに違いない。

(山本 敦)

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