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<山本敦のAV進化論 第125回>

ソニーの技術 × 独創的アイデア。ambie“耳を塞がないイヤホン”開発者に話を聞いた

公開日 2017/03/02 10:00 山本 敦
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実機のサウンドを聴いてみよう。プレーヤーには一般的な使用環境を想定してAndroidスマートフォンの「Xperia XZ」を組み合わせた。アウトドアで使うことを想定して、はじめはある程度賑やかなカフェで聴いてみた。

ambieをスマートフォンと接続して試聴

リスニング感は明らかに普通のイヤホンとかなり異なる。開放型のインナーイヤホンともまた違って、音源との距離がより離れている。音楽を聴いているというより、“きこえてくる”という表現がふさわしいだろうか。

その試聴感をマイケル・ジャクソンの「Billie Jean」から、前奏のパートを例に解説してみよう。冒頭からドラムスとパーカッション、エレキベースによるリズムが続き、20秒を過ぎた頃にシンセサイザー、30秒後にマイケルのボーカルが重なってくる。ドラムスのハイハットやスネア、パーカッションの高域がシャキシャキと少し尖って聴こえてくる。ベースの音は集中して耳を傾けないとわかりにくい。でも、歌が始まるとボーカルはキリッとして伸びやかだ。わりとしっかり耳に飛び込んでくる。

しっとりとした女性ボーカルのメロディが主役のバラード系の楽曲とは相性が良かったものの、クラシックギターのソロ演奏は主旋律の線が細く弱音が聴きづらかった。BGM的に音楽を楽しむのに向いているイヤホンだが、元々BGMっぽい曲を賑やかな場所で聴くのにはあまり向いていないかもしれない。

むしろ上原ひろみのピアノトリオによるアグレッシブな演奏など、ある程度メロディに強いインパクトのある楽曲の方が自然に楽しめる。もちろん静かな部屋に一人で座って音楽を聴くとambieのリスニング感も普通のイヤホンのそれに近づいてくるが、それだと製品が目指す本来のコンセプトから少し遠ざかってしまうように思う。

1時間ほど身につけながら音楽を聴いてみたが、筆者の場合は特にストレスを感じなかった。人の耳はそれぞれ形が違うので一概には言えないが、皮膚が薄い耳の上の方が、ambieは着けやすいと思う。ただ、やはり耳穴の近くに寄せた方が音像は明瞭度を増してくるので、リスニング感がなんとなくしっくりと来ない場合は装着位置を見直してみることをおすすめする。

イヤホンのようなポータブルオーディオ機器を身に着けながら、外の音が聞こえてきたり、周りの人と会話もできるという感覚は確かに新鮮だ。本機を開発した三原氏も「スマホで音楽などのコンテンツを利用する時間が増えた今の私たちにとって、もう一度コミュニケーションの大切さにも目を向けて楽しめるように、音楽を“ながら聴き”するスタイルをambieは提唱したい」とコメントしている。

「コミュニケーションを大切にした“ながら聴き”するスタイルを提唱したい」と三原氏

そのコンセプトは音楽再生に限らず、これからスマホで“音を伴うコンテンツ”を楽しむスタイルに一石を投じるものになるだろう。例えば音楽以外にも電話をかけたり、通勤中にニュース動画をチェックしたり、リラックスタイムにゲームを楽しむ時などにもスマホは欠かせないツールだ。

より良い音でコンテンツを楽しむためにはイヤホン・ヘッドホンの利用は有効だが、ambieのようなツールを使って音を“ながら聴き”できるようになれば、周りとのコミュニケーションが完全に遮断されることもなく、マルチタスクが同時にこなせるようになる。

自分の好きな音楽を聴いて作業をしながら、周りからの呼びかけにも対応できるようになるので、オフィスでのワーキングスタイルを変えてくれるかもしれない。ambieは防水仕様ではないが、アウトドアでスポーツをしながら音楽を聴くときの安全性を高められそうな手応えがあった。

スポーツ時の装着イメージ

今後の商品展開についても訊ねてみた。三原氏は「ハード機器に限らず、アプリやサービスも含めてambieの創立コンセプトである“人と音楽の関係を変えるもの”を積極的に作っていきたい」と答えてくれた。ソニーが持つ技術資産や独創的なアイデアが、より小回りの効くベンチャー企業であるambieならではの機動力を活かして、今後色んな方向に翼を広げていく可能性がありそうだ。

ambieを使ってみて、もしこれがワイヤレスになればもっと満足度が高まるだろう、と感じた。というのも、ユーザーは外の音も聞こえる状態なのに、耳元からはケーブルがぶら下がっている状態なので、周囲にはイヤホンで音楽を聴いているように見えてしまうから、周囲からは話しかけづらくなるし、何となく会話も弾まない。「どうせイヤホンで音楽を聴いている人は外の音が聞こえてないんだよね」という、ある種の先入観を打破するまでに、繰り返し説明しなければならないのは面倒だ。

それならばやはり「完全ワイヤレスイヤホン」が理想的なambieの最終形ではないだろうか。見た目にもオーディオ機器を装着しているように感じられないから、コミュニケーションがよりスムーズにできるようになりそうだ。よりデザインに磨きをかけるとすれば、「音楽が聴けるイヤカフ」をさらにコンパクトにして、音楽が聴ける「イヤリング」や「ピアス」にまでできれば、ファッションアイテムとしても斬新だし、その未来感は半端ではない。

「音楽がしっかりと聴けなければならない」という、これまでのイヤホンの常識をいったん離れて俯瞰すれば、ポータブルオーディオはもっと自由に、大胆に形を変えていけるポテンシャルを秘めているということを、ambieが打ち出したコンセプトが示唆している。

(山本 敦)

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