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最新作の魅力を“音楽”からマルカジリ!

『真・女神転生IV FINAL』 サウンドコンポーザー小塚氏を直撃。サントラならではの聴き所とは?

公開日 2016/02/24 10:00 アニソンオーディオ編集部:押野由宇
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ゲーム音楽ならではの構成とサウンドトラックならではのメリット

−−では、段々と『真・女神転生IV FINAL』にお話をシフトさせていただきます。まず本作の音楽は、こういったジャンルだ、と端的に言い表すことができますか?

小塚 このゲームの世界観で各シーンに合わせて音楽を作るとき、例えばですが、ここはジャズでいけばOK、プログレでいけばOKとやってハマることがほとんどなかったんです。プログレっぽいコード進行だけど、音色はテクノっぽくするとか、細かく分解してやらざるを得なかった。なので、結果的にはジャンルで言い表すことが難しくなりました。ひとつのジャンルで徹底してコンセプチュアルに作るというのも有効な方法だと思うんですが、このゲームに関してはそうではありませんでした。もしかしたら、そうやって作って上手くまとめる方法もあったのかもしれませんが……(笑)。ジャンルではありませんが、『真・女神転生IV FINAL』ではストーリーとしてメルカバー側とルシファー側、そして多神連合による勢力争いがありまして、それぞれの勢力によって音楽的にカラーを分ける様な事はしています。

−−なるほど、その独自の世界に合うような、独自の音楽が必要だったわけですね。では、『真・女神転生IV FINAL』は『真・女神転生IV』の世界観を引き継いだ上で新たなシナリオが用意された作品となりますが、音楽の面では引き継いだ部分、新たに作り上げた部分はあるのでしょうか?

小塚 舞台は共通ですが、主人公が変わっていますので、別の立場から出発することになります。そうすると世界の見え方が違ってきますから、楽曲についても、同じようなシーンでも少し違うものにしています。ストーリーが進むにつれてどんどん前作とは異なった展開になりますので、そこには新しいものを作っていますし、逆に、前作と同じでも問題がなかったり、その方がむしろ良いと思えるようなところは、前作の音楽をそのまま使っています。

『真・女神転生W』シリーズの世界を理解する小塚氏だからこそ可能な、音楽制作へのアプローチが行われている

−−全体的な音作りの面においては、それぞれの作品で違いはありますか?

小塚 『真・女神転生IV』では、少しノイジーなサウンドを意識していました。音作りは、ゲームの映像の質感から影響される部分が結構ありましたね。前作は画面がなんとなく猥雑というか、ゴチャゴチャしたり、モヤっとしたりしていて、それまでの『真・女神転生』とはまた違った印象で魅力的だったんです。そこに質感を合わせて、ノイジーにしたり、モヤっとさせたりしていました。ストーリーも一筋縄ではいかない、葛藤などがある内容なので、音楽も何となくですがひねくれた要素を入れてみたりしています。フレーズが単純でも、音はひねくれたものを使ってみる、という風にですね。

今回の『真・女神転生IV FINAL』もその路線で音楽を作ってはいるんですけど、主人公が前作よりも若い少年で、ゲームの進め方によっては、新たな未来を切り開ける、といった立場でもあるんです。それなので、多少ノイジーさを抑えて、若々しさを意識している部分も若干ありますね。

−−実際に『真・女神転生IV FINAL』の楽曲制作にあたって、最初に取り組んだ楽曲はどの曲になりますか?

小塚 主人公は錦糸町の地下街に住んでいるんですが、まずそこで流れる「錦糸町地下街」という曲。あと、主人公が地上に出ると悪魔が歩き回っているような危ない場所になるんですが、そこで流れる「錦糸町・錦糸公園」という曲。この2曲を最初に作りました。サウンド関連のスタッフは、企画が出来てから携わることが多いんですが、僕に話が来た時点では錦糸町がホームでどういう場所で、ということが決まっていて、とりあえずそこから作ってくれ、と指示があったんです。一方で、メインタイトルで流れる「タイトル」という曲は、最後の方になって作りましたね。

「錦糸町地下街」はしょっちゅう流れる曲なので、まず聴き飽きないことを意識しましたし、主人公が若いので、イノセント感・素朴な感じを取り入れています。外に出ると危険だけど、ホームとしてここだけは安心できる、というようなイメージで作りました。「錦糸町・錦糸公園」はシンプルで、ダークな感じの曲になっていて、自分としては気に入っています。

登場人物の年齢や使用されるシーンなどを加味して、各楽曲は構成されている

−−では、今回の楽曲のなかで、制作するにあたり苦労したタイトルはどれでしょうか?

小塚 「ラージマップ」という、色んな場所に向かうためのマップで流れる曲ですね。ゲーム中は、移動のために定期的にそのマップを挟むんです。そのために、ストーリーのどの段階で流れても違和感がないようにしないといけなかったですね。あと、歩いている時間の長さを考えて曲を構成しないと、サビに行く前にマップが切り替わってしまったりするので、そこも配慮しました。曲を削って調整したりするような、ゲーム独自の理由で苦労しましたね。

あと、どの曲をどのシーンで使うかということも僕の方で考えて実際に入れ込みを行いながら作曲をしていたので、その行ったり来たりが結構大変でした。どのシーンにどの曲を使うか、この敵と戦う時は専用の曲を作らないといけない、など。そういった部分を今回は一任されていたので、どういう曲を作るかを決めるまでに時間が掛かりましたね。

−−ゲームの展開を考えた、ゲーム音楽ならではの苦労話ですね。実際に作業を進める際に、ゲームではどんなシーンになるか、プレイして確かめることは出来るのでしょうか?

小塚 そうですね、社内でゲームと音楽の両方を作る際には、出来た楽曲をゲームに入れ込んで自分でプレイして確認するんです。実際に使われるシーンに音楽を合わせてみて、違ったなと思えば作り直してまた入れてみる、といった風に。ですので、開発途中でしたが『真・女神転生IV FINAL』は隅々までプレイしました。

−−ご自身がゲームをやり込んでいるからこそ、内容とマッチした音楽が生み出されるというわけですね。

小塚 そうだと良いな……(笑)。

ちょっと控えめになる小塚氏。『真・女神転生W』シリーズのダークかつカッコいい音楽は、こんな優しい人格から生まれています

−−続いて、ゲームをプレイしながらではなく、音楽単体で楽しむことになるサウンドトラックについてお聞かせください。その聴きどころはどういったところにありますか?

小塚 まず単純に、ゲームでは圧縮ファイルが使用されているので、CDの方が音が良いです。また、ゲーム機の本体スピーカーは特性にかなり特徴がありますので、一旦曲を作った後に実際にゲームに組み込んで確認してみた上で、本体スピーカーから聴こえやすい様に調整する事もあるんです。それをサウンドトラックにする時に、ミックスをやり直すなどして作曲した時点のイメージに近い音にしたりとか、曲のパッと聴きの印象が変わってしまわない程度に細かく調整しています。

−−CDでは、『真・女神転生IV FINAL』の音楽の本来の姿が楽しめるわけですね。圧縮されたりする前の、制作時のレートとしては、どの程度のスペックで進められているのですか?

小塚 基本的には全部、48KHz/24bitで作っています。ゲームでは48kHz/16bitにした後に、さらに圧縮された音源が入っています。CDでは44.1kHz/16bitですね。48kHz/24bitで作っている理由としては、CDにするのを見越すと、24bitから落とした方が良い音になるんです。制作環境としては今ではもっとハイレートな環境が当たり前になっていると思いますが、少なくとも今回は生楽器を録るわけでもなかったので、サイズ的にデータ運用にも余裕がある48kHz/24bitで制作しています。

−−サウンドトラックには『真・女神転生IV』に引き続き、小塚さんの楽曲解説掲載のブックレットが付属しますね。かなりの曲数ですが、これは大変だったのではないですか?

小塚 全楽曲分、何かしらを書くということになっていたんです。解説というと堅苦しいのですが、各曲にまつわるこぼれ話的なものとか、どういう意図で作ったとか、そんな何かしらですね。ゲームサントラ特有の文化かもしれませんが、そういったオマケ的な要素があると買っていただいた方も喜んでくださる様でして、それなら無いよりあった方が良いかな?という(笑)。しかし前作『真・女神転生IV』のサウンドトラックでは全112曲のコメントを書いていまして、下手をすると曲を作るより時間が掛かったんじゃないかというくらいでした……というのはオーバーですが、今回も、37曲分の解説を頑張って書いていますので、ご興味のある方はぜひ(笑)。

−−ファンとしては、この小塚さんの苦労の結晶であるブックレットも楽しみです。では最後に、読者の方へ向けてメッセージをお願いします。

小塚 前作『真・女神転生IV』のサウンドトラックは、ゲームの発売から結構時間が経ってから発売されました。なので、ひょっとすると出ていることを知らない方もいらっしゃるかもしれませんね。前作で使って、今作では使わなかったような曲もありますので、両方のサウンドトラックを揃えると『真・女神転生IV』シリーズの全曲が聴けます。ですので、よろしければあわせてお願いします!


◆ ◆ ◆


最後にどことなく商魂たくましい部分が垣間見えたようでもあるが(笑)、これは『真・女神転生IV』と『真・女神転生IV FINAL』の両方に携わる小塚氏ならではの言葉だ。実際に『真・女神転生IV FINAL』の音楽には、『真・女神転生IV』の音楽を聴くことで共通する世界観や新しい展開を感じさせるものがある。もちろん、『真・女神転生IV FINAL』のサウンドトラックを単独で聴いても楽しめるものとなっていることは間違いない。

というわけで、ゲームをプレイしているユーザーであれば、その世界観を濃厚に表した音楽で“メガテンワールド”に没頭できる。本作および前作をプレイしていない方も、これだけのこだわりのもと生み出された音楽なので、単純に音楽作品として聴いてみて欲しい。きっとゲームそのものをプレイしてみたくなるのではないだろうか。そんな中毒性のある、悪魔的な魅力を持ったサウンドトラック、お薦めだ。



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製品情報

タイトル:真・女神転生IV FINAL オリジナル・サウンドトラック
仕様: 2枚組CDアルバム(全37曲)
品番: LNCM-1133〜4
価格:¥3,241(税抜)
発売元:株式会社アトラス
販売元: Mastard Records
*サウンドコンポーザー小塚良太氏による、全楽曲解説を掲載したブックレット封入






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