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<山本敦のAV進化論 第50回>LDACキーマンインタビュー(1)

ソニー「LDAC」がハイレゾ相当のデータ量をワイヤレス伝送できる理由 − 開発者が語る技術的特徴

2015/04/15 山本 敦
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「CDリッピングから音楽配信・ダウンロードへ、ここ数年の間にコンシューマーの音楽を聴くスタイルが世界規模で変化してきました。ところが片方では、多くの方が聴く音源のクオリティは128kbpsから256kbpsがまだ中心でした。LDACの技術は既に完成していたのですが、ビットレートの小さいファイルを通すことを目的とした技術ではなかったので、発表のタイミングを計っていました。

やがてハイレゾが注目を浴びて、ソニーでも約2年前から戦略的にハイレゾに注力するようになり、ビットレートの大きなハイレゾコンテンツがユーザーの手元に届くようにもなりました。また一方では、ウォークマンやスマートフォンなどポータブルオーディオプレーヤーを、Bluetoothを中心としたワイヤレス環境で便利に楽しみたいというユーザーも増えつつある頃でしたので、Bluetooth環境でもっといい音が楽しめるLDACがデビューする最適な時期が訪れたということで、遂に今年お披露目する運びとなりました」(宮原氏)

宮原靖武氏 ソニー(株) V&S事業本部 企画マーケティング部門 事業開発部 事業開発課 ビジネスプランナー

LDACは、BluetoothのオーディオプロファイルであるA2DPに入れ込んだ後、ソース側にはエンコーダー、レシーバー側にはデコーダーを実装することで一連の再生環境が整う。

コーデックを開発してBluetoothのプロファイルに組み込む段は鈴木氏が所属するシステム研究開発部が行っているが、他にもウォークマンをはじめとするソニーのハードウェア開発チームが、それぞれの機器への実装と音質評価にも加わった。ソニーの中で“オーディオの技術と商品に関わるエキスパートたち”が集う環境で、LDACの開発はさらに加速していったのだ。

「最終的には音楽を聴く方々がLDACのサウンドを“いい音”だと感じていただけるかが一番大事です。そのためには理論的なアプローチだけで技術を完成させることは難しいので、コンシューマーオーディオ機器のチームにも加わってもらうことで感性評価を加えながらLDACを磨き上げてきました」と鈴木氏は開発の経緯を振り返る。


■Bluetooth環境での利用に最適化されたLDAC

LDACはコーデックの技術なので、展開は様々なバリエーションが想定されていたが、今回はBluetoothの音質を向上するために最適化も図られた。一般的にBluetoothのデータ通信はパケット単位で処理されるが、パケットにコーデックのデータを「効率良く入れ込む」工夫が技術の肝なのだと、鈴木氏は説明する。

SBCでの伝送時のデータ処理イメージ

「Bluetoothの場合、データをソース側からシンク側の機器に送る際に、データを細切れにして数ミリ秒の一定時間間隔で小分けにしながら伝送します。その一つずつのデータの集合が“パケット”と呼ばれるものですが、やたら無闇にデータを詰め込んでしまうと、LDACが狙うところの音質が出せなくなるので、きちんと計算してデータを格納する必要があります。

そこでLDACでは、先に規格化されていたA2DPという伝送システムの中に、最も効率よくデータを格納しながらワイヤレスで飛ばすための仕組みを採用しています。A2DPのフレームができる前からコーデック技術が存在していて、それをA2DPの伝送システムに後から適応させたAACと比べると、伝送効率の点でLDACの方が有利です。

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