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DSDの素晴らしさは音楽が好きな人ほど分かるもの − オノ セイゲン氏に訊くDSD配信の魅力

公開日 2011/08/05 17:10 ファイル・ウェブ編集部
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昨年後半からe-onkyo musicやOTOTOYなどのサイトで始まり、「より生音に近い音を楽しめる」とオーディオファンから注目を集めているDSD配信。音質的にも音楽的にも優れたタイトルが続々と登場してきているが、8月5日から、オノ セイゲン氏のDSD音源4タイトルが配信スタートする。

オノ セイゲン氏と言えば、80年代には、坂本龍一氏・渡辺香津美氏といった大物アーティスト作品の録音/マスタリングを担当。幅広いジャンルで優れた音源を世に送り出していることで有名だ。また、コム デ ギャルソンのショー用に作った作品が各界から絶賛されるなど、自身も作曲家、ミュージシャンとしても活躍されている。

今回はそんなオノ氏に、このたびリリースされるDSD音源について、そしてDSD配信の魅力についてお話をうかがった。

オノ セイゲン氏。サイデラ・マスタリングのスタジオで、DSD音源を聴きながらお話をうかがった。

8月5日リリース
BAR DEL MATTATOIO / SEIGEN ONO
  <DSD版><192kHz/24bit版><96kHz/24bit版

MONTREUX 93/94 / Seigen Ono Ensemble
  <DSD版><192kHz/24bit版><96kHz/24bit版

NekonoTopia NekonoMania / Seigen Ono
  <DSD版><192kHz/24bit版><96kHz/24bit版

Berliner Nachte / Seigen Ono
  <DSD版><192kHz/24bit版><96kHz/24bit版

■DSD配信をすることになったきっかけ

−− 今回DSD配信が決まったきっかけは何だったのですか?

オノ セイゲン氏(以下オノ):スーパーオーディオCDの初期よりDSDレコーディング/マスタリングに取り組んできましたから、録音し再生するフォーマットとしてのDSDの素晴らしさは実感していました。e-onkyo musicやOTOTOYでDSDを配信するサービスが始まり、ようやく家庭でも高価なオーディオ機器がなくとも、PCとDAC(DAコンバーター)という、ネットオーディオ型の音楽の楽しみ方が普及してきたことがきっかけです。今回のDSD音源はe-onkyo musicとOTOTOYの両方に私の方からお願いしました。同時期に配信がスタートします。

−− DSD配信の第1弾として、今回の4作品を選んだ理由はどういったものなのでしょうか?

オノ:私は、録音エンジニアという仕事とまったく別に、音楽家としての活動も続けています。音楽家としての自分で、もっとも重要なアルバムである「BAR DEL MATTATOIO」や「MONTREUX 93/94」から始めようと思いました。これらの作品は、海外の多くのミュージシャンとのネットワークが広がるきかっけになりました。

サイデラ・レコードでは、オリジナルマスターはアナログもしくは、DSDなので、今年中に、既にCDなどで発売している20タイトルほどをDSDによるリリースを予定しています。並行して、現在制作中の最新の音源も用意したいと考えているところです。私以外のミュージシャンの作品もプロデュースしていきます。サイデラ・レコードでの制作に興味ある音楽家の方は、お知らせ下さい。

−− DSD配信用の音源はどのように作っているのでしょうか? たとえば既にSACDで発売されているタイトルは、SACD用に作ったDSD音源をそのまま配信することになるのでしょうか? それとも新しくマスタリングし直しているのでしょうか?

オノ:新しくマスタリングしています。というのも、10年以上前の技術と今とでは、パソコンのCPU速度を見ても判る通り、技術は格段に進歩し、ようやくDSDを思うとおりに扱うことができる時代になりましたから。

また「BAR DEL MATTATOIO」や「MONTREUX 93/94」は90年代に録音した音源ですが、アナログマスターテープには、CDではとても入りきらない情報量が記録されています。アナログマスターテープの調整には、いつも最新の注意が必要なのです。放っておくと、多くの貴重な音源が失われてしまうかも知れない。温度湿度の管理をしていても、年月によるテープ自体の物理的な劣化があるだけでなく、テープレコーダーの調整を正しくできるのは、私が最後の世代なのです。そして今、コルグのMR-2000Sなどのおかげで、5.6MHz(SACDの2倍)という非常に高いレートでアーカイビングできるのです。アナログのアーカイビングは96KHzでは不十分です。またHDDの価格は本当に安くなりましたね。アナログマスターをDSDにアーカイブするタイミングは、まさしく今なのです。私自身のアナログマスターテープも、今回5.6MHz DSDでアーカイビングしたものは、一部をのぞいて、勇気をだして全て処分しました。テープを捨てる決断は苦しかった(笑)。でも、5.6MHzのDSDはその覚悟ができるほど素晴らしいものだと考えています。

アナログマスターテープ(これは「MONTREUX 93/94」のもの)アンペックス456ハーフインチテープに15インチ/秒の速度で、ドルビーSRを使用。1995年発売のCDのマスタリングは、N.Y.C.スターリングサウンドのテッド・ジェンセン氏であった。今回は5.6MHzDSDにアーカイビングして最新のシステムでマスタリング。

オノ氏が愛用中のコルグ MR-2000S


そのアナログマスターテープの当時の録音と、今回の再生に使用したSTUDER A-80マスターレコーダー。上部にドルビーSRユニットも見える。


■DSD配信の魅力について

−− たしかに、今回配信されるDSD音源を実際に聴いてみて、音の生々しさに驚きました。高音の伸びや低音の深み、音の密度…たとえば「Bar del Mattatoio」では、サンプリングされたニューヨークやサンパウロなどの環境音が、本当に街なかにいるのかと勘違いしてしまうほどリアリティがあって驚きました。一聴して「これはスゴイ」というのが分かりますね。

オノ:そもそも録音の目的とは、距離や時間をとび超えて「そこに行けなかった、実際には体験できなかった音を、あたかも自分がそこで体験しているように聴ける」ということだと思うんです。タイムマシーンですね。でもCDでは、そこまでのリアリティはなかった。それはまず、CDとDSDでは情報量が違うからです。情報量が少なくても、何を演奏しているかは分かります。でも、その演奏に込められた想いまで伝わりにくい。PCMでは、サンプリングレートやビットレートを上げれば時間軸は細かくなりますが、ダイナミックレンジは音量に依存して、PCMでは音量の小さな部分ではビットレートが落ちてしまうから確保できない。しかしDSDではレベルの高いところも低いところも同じレゾリューションで記録できます。シンフォニーで第3楽章アダージョ、などもっとも美しい部分が、PCMでは致命的です。DSDでようやく音楽の要である休符や、美しい弱音なども「そのまま」収録できるのです。

−− つまり、譜面として書き起こせるようなものよりももっと深いところにある“音楽”を収録できるんですね。CDは「知る」ことしかできませんが、DSDは「体験」できる、という感じでしょうか。

オノ:そうですね。楽譜とは、時間軸に楽譜上の音の高さとダイナミックレンジが書かれたデジタルデータと言えますが、演奏にはそれ以上の意味、つまり − 表情、感情がこもっているでしょう。DSDでは、それがありありと感じられるのがいいと思うんです。音楽は、良い音で聴いてこそ「体験」できるのだと思います。


■DSDの魅力をそのまま楽しむために − 試聴環境について

−− 例えばAudioGateを使ってパソコンで聴く場合、DSDデータをPCMに変換することになります。こういった場合でも、DSD音源である恩恵は何か得られるのでしょうか。


「音楽が好きな人には、ようやく「本当の意味でのレコード」を楽しめることができる時代がきたのです!」と語る。
オノ:そうですね、PCMに変換して聴かざるを得ない際は、最初からPCMの音源を購入しても同じことになります。ただ、その元の音源がDSDである場合は、48kHzあるいは、ふつうのCDつまり44.1kHz/16bitに間引きされても、音響が低くてもっとも美しい部分を、PCMからPCMの場合よりもきれいに収めることができます。

DSDをそのまま再生できる環境を作るのは、意外と手軽です。PlayStation 3でもDSDディスクを聴くことができますし、コルグのDSDレコーダー「MR-2」は75,600円で、再生以外に録音でもDSDの魅力を楽しめます。MR-2くらい手軽なものでも、下手したら何百万円もするCDプレーヤーより良い音が聴けるんですよ。

DSDの素晴らしさは、音楽が好きな人ほど分かってもらえると思います。ぜひ体験してみて欲しいですね。音楽が好きな人には、ようやく「本当の意味でのレコード」を楽しめることができる時代がきたのです!

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