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一条氏が開発経緯と今後に迫る

新型PS3の目指すものとAV機器としてのPS3 - 技術者特別インタビュー

2009/09/17 一条真人
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今月9月3日、PlayStation 3(PS3)に待望の新モデルが登場し、これに合わせてシステムファームウェアが3.00にバージョンアップ(※)された。今回はそんなPS3について、SCEの商品企画部チーフの橋本智志氏、ネットワークプラットフォーム開発部11課課長の高瀬昌毅氏に、新型PS3、そして、将来のPS3について話をお伺いすることができた。
※発売後、9月15日にアップデートを実施し現在のバージョンは3.01になっている

(株)ソニー・コンピュータエンタテインメント 商品企画部チーフ 橋本智志氏

(株)ソニー・コンピュータエンタテインメント ネットワークプラットフォーム開発部11課 課長 高瀬昌毅氏

■製品コンセプトと狙い

ー アメリカでは300ドルを切るとヒットするというように、300ドルがマジックナンバーと言われていますが、今回の価格はそういう数字を意識したものなのですか?

橋本氏:PS3は発売から3年経とうとしている時期で、全世界の売上台数も2000万台を越えています。そうした状況でそろそろ我々としても、より広い層に届かなければいけないという思いが強くあり、その思いを結実させた結果、この価格を実現しました。

単純に言えば、よりライトユーザー層やまだPS3を触ったことがないお客様に向けてもアピールしていきたいということです。そのスタート地点からコストやデザインについて考えており、今回のコンセプトは「カジュアル&親しみやすさ」というものになっています。

新型PS3「CECH-2000A」

ー マーケティング的に製品ライフのなかでのフェーズが変わったということですね。ところで今回は様々な改良によるモデルチェンジですが、“その次”というのもユーザーとしては気になるところです。“現行機としてのPS3”は今後どれくらいまで続けるお考えなのでしょうか。

橋本氏:ハードウェアのポテンシャルが高いことと、システムソフトウェアのアップデートで機能拡張ができるので、従来のプラットフォームより長くご利用いただけると思っています。

ー オプションのスタンドを使えば縦置きできますが、今回のモデルでは横置きが基本ですね。これはなぜ、横置きを基本にしたのでしょうか?

橋本氏:「カジュアル&親しみやすさ」というコンセプトの下で現在のデザインに落ち着いたという経緯があります。リビングの中に置く場合、「どういう置き方が置きやすいか?」「ビジュアル的にしっくりくるか?」という面を追求した結果、新型PS3では横置きがいいと判断したのです。それをベースにデザインを突き詰めていって、縦置きしてもおかしくないことも念頭においてデザインして、現在の形状になりました。ただ、この横置きをデフォルトにしたからといっても、専用の縦置きスタンド(別売)を使って縦置きいただくこともできます。

別売のスタンド「CECH-ZS1J」を使用すれば縦置きも可能

ー 縦置きと横置きによる放熱の違いも影響したのかなとも思っていたのですが、その点についてはいかがですか?

橋本氏:放熱的な面で言うと、縦も横もスペックを満たすように作っています。PS3の場合、背面から大きく廃熱しているので、あまり置き方に左右されないのです。

機体背面部の様子

ー なるほど。さて、DLNAがようやくDTCP-IP対応になりましたが、これは新PS3登場に合わせて、商品性にインパクトを与えたかったということでしょうか。

橋本氏:いえ、特にこのタイミングをねらったというものではありません。これまでもPS3のシステムソフトウェアのアップデートを繰り返してきたわけですが、その都度やりたいことが山のようにあって、そのなかでどういう順番でどういう機能を出していくかというのを常に検討している状態です。

実は、DTCP-IPに早く対応したいという気持ちは以前からあったのですが、実際にそれでメリットがあるユーザーというのは、ワールドワイドに見た場合にあまり多くはないわけです。そのため優先順位があまり高くなかったという側面もありましたが、ようやくこのタイミングで出せました。

■PS3のAV機能と今後の可能性


ー 現在搭載しているDLNA機能のバージョンはいくつですか?

高瀬氏:バージョン1.5に対応しています。

ー DLNA1.5ということは、プレイヤーとしてだけでなく、レンダラー(DMR)として機能させることも可能なのでしょうか?

高瀬氏:PS3にレンダラー機能を持たせるということについて検討はしました。ただ、仕組みとしてはやれるのですが、現時点では搭載していません。商品性とのバランスや検証コストなどを考慮した場合、その機能を搭載することにそこまでのメリットがあるのかいうと、難しいと言わざるを得ない側面もあったのです。

ー PS3の商品性がどこにあるのか、何が求められているか、ということですね。

橋本氏:ええ。そこは強く意識しなければいけないところですね。

ー なるほど。ところで、DLNAサーバー機能搭載を搭載する可能性はありますか?

橋本氏:そうなると、例えば「処理の重いゲームをしているときに、サーバーに負荷がかかったらどうなるか」など、考えなければならないことが出てきます。PS3はあくまでゲーム機なので、やはりこれも技術的な問題と言うよりも商品性の部分で、現時点では計画していません。

高瀬氏:常にサーバーを動かすというのはそもそも相当に難しいですね。ゲーム中にサーバーという組み合わせはかなり難しいです。また、PS3にはDLNAサーバー機能はありませんが、類似した使い方としてリモートプレイ機能を搭載しており、PSP「プレイステーション・ポータブル」からPS3のHDD内のメディアコンテンツを再生できますので、まずはこちらの魅力を感じていただきたいですね。

ー 発売当初、PS3はBDプレイヤーとしても人気が高かったと思います。最近では多くのメーカーからエントリー価格帯のBDプレイヤーが発売されており、ソニーからも同価格帯に「BDP-S360」が発売されています。そんななかで、PS3はBDビデオ再生、映像や音のクオリティを向上させることに、どのくらい力を入れていくのでしょうか?

橋本氏:もちろんBDビデオの再生も可能なのですが、PS3はBDプレイヤーとして販売しているわけではなく、また、BDプレイヤーと競争するものではありません。我々としては「SCEがBDを再生するとこうなる」というような提案をしたいと言いますか、エンターテイメント性を重視しています。そのため、例えば操作方法や画面での見せ方にしても、いわゆるAVメーカーのBDプレイヤーとは違うものを目指しており、違う体験をお客様に与えたいと考えています。具体的に言うと、今回はコントローラでジョグシャトル的な使い方ができる機能を実装しています。

BDP-S360

ー 一部にはPlayStation 2との互換復活などを望む声も相変わらず聞こえてきますが、例えば、SACDを再生できる機種を併売するといったようなバリエーション展開は考えられないでしょうか?

橋本氏:現状ではSACD機能搭載機を出す予定は特にありません。異なる機能を持たせるようなバリエーション展開についてはマーケティング的には将来的に考えられないわけではありませんが、SACDに特化した機種を出すような考えは現状ではありません。

■インタビューを終えて

来年、2010年にはPS3は3Dゲーム機として遊べる機能を搭載するとも言われるが、現時点では技術的な検証を行っているということで、今回はこれについての話は残念ながら、聞くことができなかった。とはいえ、次の舞台、3Dに向けて、PS3はさらに加速していくことだろう。期待したい。

筆者プロフィール
デジタルAV関連、コンピュータ関連などをおもに執筆するライター。PC開発を経て、パソコン雑誌「ハッカー」編集長、「PCプラスワン」編集長を経てフリーランスに。All Aboutの「DVD ・HDDレコーダー」ガイドも務める。趣味はジョギング、水泳、自転車、映画鑑賞など。

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