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公開日 2021/12/30 08:00
貴重なヴィンテージ管も紹介

真空管アンプ基礎講座:「300B」「845」など代表的な出力管を知ろう

飯田有抄(真空管解説:岡田 章)

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真空管アンプの魅力といえば、球に灯がともる美しさ。そして、その球によって音が決まる要素が大きいという神秘であろう。ここでは、音の決め手として大きな要素となる真空管アンプの「出力管」に焦点を当てて、主要な球とその先祖のお話と歴史、またそれらの球から真空管アンプを選ぶ指標までを探ってみたい。“球博士”こと岡田 章さんを講師としてお迎えし、“真空管女子”の道まっしぐらのクラシック音楽ファシリテーター/音楽ライター・飯田有抄さんにレポートしていただこう。

飯田有抄さん(左)と、真空管愛好家の岡田 章さん(右)

■真空管を使えばシンプルなアンプができる

真空管のほのかな光や、薄いガラスの美しさ、どこか温かみのある響き。そうした魅力に、昨今また注目が寄せられている。筆者もその幻想的な佇まいに惹かれ、1年ほど前から真空管アンプを使用している。

真空管愛好家の岡田 章さんによれば、「管球式のアンプは、最小で2本の真空管とトランスを通って音を出せるので、ある種ダイレクトで歪みの少ない響きを楽しめます。そのシンプルで素直な音質が、音楽の心や温かさを伝えてくれると感じる人が多いようですね」とのこと。

今回は入門レベルの筆者でもよく分かるように、代表的な出力管とそれらのご先祖にあたる貴重なヴィンテージ管の歴史、そしてアンプの選び方まで、岡田さんにたっぷりと語ってもらった。その全貌をまとめてみよう。

■直熱型三極管:代表選手は「300B」

真空管にはさまざまな種類があることは、皆さんもよくご存知だろう。球の大きさも形もさまざまだ。まずは大きく2種類に分かれる。三極管と多極(四極・五極)管だ。

三極管はもっとも歴史が古く、「フィラメント」「プレート」「グリッド」という3つの電極から成る。フィラメントから出てプレートへ流れる電子の量を、グリッドが調整するという仕組み。現在も出力管として使用される代表的なものとして、岡田さんが教えてくれたのは「300B」「845」「211」「2A3」と呼ばれる4つの球だ。

三極管の基本構造

「300B」は、真空管アンプといえばだいたいこの形がイメージされるほど、広く知られる“憧れ”の球。比較的柔らかな響きが特徴的で、音楽ジャンルを問わず、真空管の良さを端的に味わうことができる。日頃からクラシック音楽を聴く筆者も、実は300Bの出力管アンプを使用しているが、ピアノソロからフルオーケストラまで、響きをつぶさに再現してくれて満足度が高い。癖がなく、どんな音源も安心して再生できる。

音の良い直熱三極管の代表。特にシングル動作では出力は8W程度とやや小さいが独特の真空管らしい柔らかく繊細で素直な音色が発揮される

「音楽をしっかり鑑賞したい人にとって、間違いのない球。音質の理想的な基盤として知るにはとてもいいですね。でも逆を言えば、真空管の世界を段階的に追求してみたいという人にとっては、いきなりアガリに到達してしまうので、“これ以上”を求めようとすると難しい。コストが100倍くらいかかってしまいます(笑)」と岡田さん。

なるほど、考え方によってはいきなりゴールに到達してしまうので、管球ワールドそのものをじわじわと探訪したい人には、先々のお楽しみ・目標地点としても良いかもしれない。音楽ソースの情報を間違いのない安心クオリティで楽しむことを狙いとするなら、お薦めできる出力管だ。

ウェスタン・エレクトリックが1930年代初頭からWE211Dに替わる自社のトーキー劇場用アンプ(WE86A)の出力管として開発したWE300Aの改良管。内輪な動作の方が音は澄んで良い(編集部注:2018年よりカンザスシティに新工場が設立され、再生産もスタートしている)

■軍事用から劇場用へ。安定した300Bの安定した品質が評価される

なぜ300Bはそこまで安定感があるのだろう。実はこの球のご先祖は、ウェスタン・エレクトリック社が1917年に製造した「VT-2」という球だ。これは軍事用に力を入れて開発されたもので、飛行機からの無線通信や音声増幅のために用いられたものである。軍用だからコストに糸目はつけられなかった。プラチナを使用した大変高価なものだった。岡田さん所有の実物を見せてもらったが、現在の300Bよりも丸くて小さく、可愛らしい形をしている。

1917年、第一次世界大戦末期の米軍用として開発された元祖出力管。WE-300A/Bの先祖。航空機の無線通信機の発振(5W)・変調に使った

第一次大戦後、1920年代にはラジオ放送が開始し、1930年代には劇場でトーキー映画が流行した。また時を同じくしてSPレコードの電気吹き込みも可能になった。ウェスタン・エレトリックはVT-2を土台とし、オーディオ専用の球を総力をあげて開発。それがWE-300A/300Bという球となった。ウェスタン・エレクトリック社の英国系の会社STCは、「4300B」という300Bと見た目もそっくりな球を作った。またRCAでは1920年代末にナス型の「UX-250」を製造し、電蓄や業務用に使用されるようになった。

1930年代半ばにトーキー映画の劇場用として開発されたWE-300Aを改良したWE-300Bの英国STC版。WE-300Bと同様、1970年代まで一般には市販されなかった

1929年、低周波(オーディオ)専用として米国Westinhouse社で理論的に設計された最初の出力管(シングル4.6W、プッシュプル12W)。フィラメント電圧(7.5V)はVT-2の名残

このように、まずは軍備品として誕生し、そして映画・ラジオ・レコードといったエンターテインメント産業の隆盛とともにあった300B系の真空管は、安定した高いクオリティで作り続けられたのだった。

■パワフルな送信管系三極管、「845」と「211」

さて、300Bとともに出力管として活躍している三極管に「845」と「211」がある。姿形は300Bよりも大きく、フィラメントの材質が異なるため、かなり明るく光を放ち、音質もパワフルだ。845も211も見た目はそっくりだが、どちらかといえば211は無線用として米軍で大量に使用されていた。

211をオーディオ用に改良したのが845である。845は1000V近い電圧が必要になるため、扱いは易しくないが、三極管でそれだけのパワーを持つ球は他にない。もともとは放送局で使用されていたが、現代はオーディオ用として普及している。岡田さんによれば、211の方が歪みの少ない素直な音として感じられる場合があるそうだ。

煌々と輝くトリエーテッドタングステンフィラメントが特徴。使用には高度の技術が必要だが、直線性が素晴らしくシングルで最大30Wも得られる

この2本の真空管のご先祖にあたるのが1918年頃に作られた「CW-1818」という球で、元祖中型出力管として地上無線局で使用されていた。

1918年、ウェスタン・エレクトリック直熱型三極管VT-4、WE-211A。元祖中型出力管(750V、50W級)、地上無線局の出力・変調用。後のVT-4C/211(GE)、UV-845(RCA)の直系の先祖(フィラメント電圧10V、ベースが同じ)

三極管ではもうひとつ、「2A3」という球もよく知られている。こちらも300Bと同時期に誕生したが、比較的安価で、電蓄やラジオに使用されてきた。RCAが最後に手がけた三極管である。300Bに比べれば、多少高音域が出しにくいとのこと。

RCA系の音の良い直熱型三極管の代表。シングルで3.5W、プッシュプルで15Wが得られ、フィラメント電圧は2.5Vと低く、交流点火でもハムが出にくい

より高能率なビーム管の登場

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