後藤正文さん主導の“滞在型”レコーディングスタジオが静岡県藤枝市にオープン。若手ミュージシャンの支援の場に
筑井真奈ASIAN KUNG-FU GENERATIONのボーカル&ギター、後藤正文さんの声かけによって、静岡県藤枝市にスタートした“滞在型”レコーディングスタジオ「MUSIC inn Fujieda」。3月22日(日)の正式オープンに先駆けて、本日21日にオープニングセレモニーが開催された。
「MUSIC inn Fujieda」は、藤枝市に残る130年の歴史を持つ土蔵を改装したレコーディングスタジオ。後藤さんが創立したNPO法人「アップルビネガー音楽支援機構」が運営を担う。後藤さんのSNSでの投稿をきっかけにスタートしたプロジェクトで、元々はお茶の倉庫として使われていた土蔵を改装し、ドラムやピアノ、ボーカルも収録できる本格的な録音スタジオとなっている。
“滞在型”と謳う通り、隣の建物にはキッチンや浴室なども整備されており、都会の喧騒から離れ、集中して音楽制作に取り組める環境を用意する。
クラウドファンディングによって、5,169人が支援し、総額7,500万円を超える寄付が集まった「MUSIC inn Fujieda」プロジェクト。寄付だけではなく、アーティストや音楽関係者からも、家具やレコーディング機材といった貴重な資材の提供も寄せられた。
土蔵をあと130年残すべく、壁の塗り直しや、基礎工事のやり直しなども行ったそうで、地域住民や現役ミュージシャンたちのコミュニティの場であると同時に、未来の世代に向けた「文化を守る」拠点としても期待される。
後藤さんは、藤枝市の隣の島田市の出身。オープニングセレモニーにおいて、「静岡県は災害の多いエリア」と子供の頃から言われ続けてきたことに触れ、「この建物は130年間立派に立ってきました。未来に視点を向けると、また130年、将来の世代にこの素敵な設備を渡せることになります」と、未来の世代に向けた橋渡しが自分たちの課題であると表明。
続けて「若い子たちに希望を持ってもらいたい」と希望を語り、「130年後の世代に向けてどう手を尽くしていくかと、私たちがここでやっていることがひとつのロールモデルになって、みんなでいろんなことをシェアしていく、そんな場所になったら嬉しいなと思っています」と力を込める。
すでに昨年11月には、ASIAN KUNG-FU GENERATIONによるテストレコーディングを実施。収録された楽曲は、4曲入りの「フジエダEP」として3月25日に発売される。後藤さんも、「このスタジオの音の可能性を私たち自身が実感する大きな出来事となりました」と振り返る。
実際に蔵の中に足を踏み入れると、高さ4.5mを確保したという天井高に驚く。NHKスタジオ等の音響設計を行う日本音響エンジニアリングが設計を担当。音質のために平行面を持たないように設計されているほか、当時の大工さんの手作業の跡などもあえて残したつくりとなっているという。
後藤さんも、「残響が長いため、ホールに近い音響を実現できています。そのため、楽器を鳴らしたニュアンスや響きを演奏者も楽しめる環境となっています」と蔵ならではの利点を解説する。
スタジオ使用料金についても、支援価格(審査制・常設機材使用料込み)で平日33,000円、土日祝で44,000円。「都内のスタジオの1/3程度」と、若手ミュージシャンにとっても使いやすい環境であることを強調する。
「つまり、3回失敗できるということです。それは創作において大事なことで、成果が得られない時間の積み重ねの中から、ある日素晴らしいものが生まれることがあります。失敗を怖がらず、自分たちらしい作品を作り出してくれたら嬉しいです」と未来のミュージシャンに力強いエールを贈る。
さらに、「富とかチャンスを自分だけのものだと思って閉じ込めていたら、枯れ果ててしまう」と問題意識を表明。後藤さん自身も多くのレコーディング機材をこのMUSIC inn Fujiedaに提供しており、「機材の本当の価値は、使った瞬間にある」と強調する。
初めてレコーディングをするアーティストにエンジニアを紹介する活動や、地域を活性化していく取り組みにも力を入れていくとしており、「音楽は単なる経済合理性だけでは測れない、人の心を豊かにし、社会をつなぐ力を持っていると信じています」と、音楽の持つ力について改めて力強いメッセージを発信した。