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時代を作った「和フュージョン」の名盤群が新リマスターで蘇る! 録音現場の音を再現した立役者とは?

公開日 2016/09/01 11:47 大橋伸太郎
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高中正義 「オン・ギター」VICJ-77005

高中正義 「オン・ギター」

1978年スタジオA、サウンドシティ、メディアスタジオで録音。アナログ16CH録音、ミキシング1/4テープ、15ips、ドルビー使用。

「ブリージン」(ジョージ・ベンソン)「君に捧げるサンバ」(サンタナ)のエレキギター名曲を含む有名曲で構成した高中正義によるギター模範演奏集。シリーズは他につのだひろのオンドラムス、後藤次利のオンベースがあるが今回本作のみがK2HD PROリマスタ発売された。一種の教則本なので編曲と編成がシンプル、高中のギターテクニックと音色表現にフォーカス、拡大表現した演奏。バックの演奏もバランスよく明瞭に収録されている。

アナログ録音のマッシブな量感を残しつつ、デジタルリマスタで解像感が飛躍的に向上、ピッキングに加えディストーションやダイナコンプといったエフェクターの使用法が明瞭に伝わり(ギター小僧へ愛情を込めた高中自筆のライナーが泣かせる!)、模範演奏の価値が高まったといえよう。

楽器をやらない「聴くだけ」の音楽ファンにとっても、オリジナルより数段上手い高中の演奏(TR05)、バックを務める、細野晴臣、高橋ゲタ夫の堅実にビートを刻むベースの野太い量感(TR03、05)や高橋幸宏、ロバート・ブリルの切れ味鋭いドラムスの打撃(TR03)等々、K2HD PROリマスタならではの聴き応え。




野呂一生 「スウィート・スフィア」VICJ-77006

1985年L.A.スタジオサウンドレコーダーズにてアナログ録音。ミキシングもアナログ1/2テープ、30ips。


野呂一生 「スウィート・スフィア」
カシオペアのギタリストにしてリーダー野呂一生の初リーダー作。ネイザン・イースト(bs)、パトーリース・ラッシェン(key)からホーンセクションにシーウィンドまで野呂指名の米西海岸の有名セッションミュージシャンを率いてL.A.で現地エンジニアのサポートでレコーディングした。

ギターをばりばり弾いているかと思うと意外にも、作曲家、アレンジャー、プロデューサーとしてやりたいようにやったビューティフルなアルバム。カシオペアのイメージで聴くといい意味で裏切られる。ディスコビートの曲が多く、ボーカリスト(フィリップ・イングラム)が加わった曲はAOR風だ。アナログ多重を駆使しホーンや新世代シンセ、野呂のギターをダビング、重層的な音空間を作り上げているがマスタリングで音が解れ、2000年代の録音と言われて納得してしまう見事なマスタリング。ドラムスの滲みなくタイトな打撃、TR06のシンセソロ、TR07のギターソロの宙空に漂い空気に刻印するような表現は必聴。




松原正樹 「流宇夢サンド」VICJ-77007


松原正樹 「流宇夢サンド」
1978年、ビクタースタジオでアナログ16CH録音。ミキシングはアナログ1/4テープ、15ips。

今年2月に惜しまれつつ世を去った松原正樹は、キャンディーズ始めとする歌謡曲のセッションギタリスト、ハイファイセット等和製ポップスのバックで1970年代に若くして名声を確立した名手。初リーダー作の本作は村上ポンタ始め手練を集めたビューティフルなアルバム。多彩な奏法とエフェクターを駆使し、セッションプロらしい表現幅を聴かせるが決してギターアルバムではなく、多彩な楽器群のカラフルなアンサンブルミュージック。作編曲に旧友上田正樹が加わりブルージーなかくし味。

ブラス(テナーサックス、トランペット、トロンボーン)、ストリングスからハモンドオルガン、アナログシンセまで含む多彩な楽器群による編成をアナログ多重で収録、この時代らしくやや籠もった音質だが、リマスタで曇りが減り楽器の輪郭が鮮明に。いい意味でスペース(空間性)が感じられる。帯域がやや控えめだが、低音楽器(ベース、ドラムス)にぞくっとする量感。松原の豊かな歌心のギターが前面でのびのびと躍動する。

オープニング曲TR01は、リマスタで歪みが消え後半松原の艶のある美しい音色が聴けるいわば名刺代わり。メロウなスローナンバーTR03は、クリアトーンのギターが左右に響きをゆったり広げ奥床しく定位、参加ミュージシャンのコーラス(男声、女声)がメロディを歌うTR04の音場の深い遠近感と広がりにセッションの良好なコミュニケーションが伝わり、ハモニカのフレーズを鋭く虚空に刻み付ける鮮鋭感はデジタルリマスタの威力。サックス、トランペットを含む金管、ストリングスと最も編成の大きいTR05も歪みが最少に止められている。全曲を締めくくるTR09の波音のSEが音場にナチュラルサラウンドする豊かな広がり感は秀逸。




松原正樹 「テイク・ア・ソング」VICJ-77008


松原正樹 「テイク・ア・ソング」
1979年ビクタースタジオでアナログ24CH録音。ミキシングは1/4テープ、15ips、ドルビー使用。

前作に比較し坂本龍一、松任谷正隆、深町純、難波弘之(key)、女声ボーカルに矢野顕子と、メジャーどころも加わりスケールアップ、リッチなシティポップ寄りになった印象。松原のギターもTR03サンタナ調からアコギまで多彩。音色のバラエティを最大限活かし、艶のある松原のギターの豊かな音色を味わえるリマスタだ。LP発売時のライナーによれば驚くことにベーストラック一発録りらしい。コーラスや弦はダビングだろうが、奥行きのある重層的な音空間という点で1980年代のデジタル録音に近づいていることが今回のリマスタから分かる。

豊富な楽器アンサンブルのトータルな音空間主体のアルバムだが、TR04の松原のクリアトーンの透明感を湛えた響き、タイトル曲TR05の前半アコギのピッキングの鈍らない切れ味、ピアノの煌めくオブリガードの鮮鋭感にデジタルリマスタの威力。坂本龍一作曲のTR06のディストーションから生まれるいい意味での「濁り」の分解能がリマスタで増し、松原ならではのギターの色艶に引き込まれる。




秋山一将 「ディグ・マイ・スタイル」VICJ-77009


秋山一将 「ディグ・マイ・スタイル」
1978年ビクタースタジオ、スタジオA、サウンドシティ、フリーダムスタジオでアナログ16CH録音。ミキシングは1/4テープ、15ips、ドルビー使用。

秋山一将は、渡辺貞夫に見いだされ鈴木勲グループに参加を経て、渡辺香津美らのギターワークショップに参加した本格派ジャズギタリスト。本作は初リーダー作だがメインストリームジャズでなく、ボサノヴァまで含む多彩なフィールドの音楽性が発揮されボーカルまで担当。当時全世界を覆ったフュージョンミュージックの主流感のほどがわかろうというものだ。

CTI、A&M等アメリカのクロスオーバー(イージーリスニングジャズ)に近い都会的に洗練されたメロウな音世界。女声ボーカル、テナーサックス、ホーン隊(スペクトラム)まで楽器が多いが、1978年のアナログ16ch録音とは思えない鮮度の高く高解像度の音質に感嘆。音質の改善効果とアナログからの躍進という点で今回のリマスタの白眉。

バート・バカラックの「アルフィ」に似たフレーズが酔わせるTR02は、秋山のスパニッシュ風味のアコギの力強い量感が素晴しい。秋山本人がボーカルを担当するボッサナンバーTR03は、R.T.Fを彷彿する益田幹夫のエレピの虚空を煌めいて転がる粒立ちと鮮鋭感が印象的。女声トリオの漂うようなコーラスがリバーブを従えて甘美にナチュラルサラウンドするTR04はアコースティックピアノの鮮鋭感とのコントラストが見事。ホーンスペクトラムを従えたTR07は、リマスタで解像度が向上、タイトル通り「ジャズギタリスト秋山」のマインドとバックグラウンドをしかと聴いた。

次ページ続いて「山岸潤史 オール・ザ・セイム」「阿川泰子 スウィートメニュー」など

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