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各タイトルの音質もレビュー

時代を作った「和フュージョン」の名盤群が新リマスターで蘇る! 録音現場の音を再現した立役者とは?

公開日 2016/09/01 11:47 大橋伸太郎
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千駄ヶ谷ビクタースタジオでのインタビューを終え、全13作品すべてを自宅試聴室で聴き直した。渡辺貞夫が1977年、78年、79年に発売した3作を続けて聴くと1年毎の録音の変化に驚かされる。いずれもアナログ録音だが「演奏の記録」というジャズ録音の従来のコンセプトから現代録音のパラダイム「音空間の創造」へ一歩ずつ近づいているのだ。

数年後PCMデジタル録音時代が開幕する。音楽も録音も、そしてオーディオも歴史的変革期のまっ只中にあった。その熱気をK2HD PRO MASTERINGでそっくりアーカイブした本シリーズは、フュージョン、ジャズファンならずとも必聴の企画といえよう。それでは第一期全13タイトル個別試聴へ移ろう。

■ビクター「和フュージョン」第一期全13作品を個別紹介!

「渡辺貞夫 マイ・ディア・ライフ」VICJ-77001

1977年L.A.録音。L.A.ユナイテッド・ウェスタン・スタジオ、東京・音響ハウスで録音。24CHアナログテープ録音。ミキシング1/4テープ、30ips、ドルビー使用。

渡辺貞夫 「マイ・ディア・ライフ」

アルト、ソプラノサックスからフルートまでナベサダが持ち替える楽器の音色ニュアンスが全曲実に豊か。TR01のデイブグルーシンのアコースティックピアノのアタックの鮮鋭感、きらめいて散乱するような透明感豊かな響きに唸らされる。TR02ハービーメイスン(ds)の打撃のタイトな量感、パーカッションの音の断片が空間に刻印される立体感も見事だ。ノリノリのエイトビートTR03のナベサダのソプラノサックスの響きの解像力に溜飲を下げる。アコースティックデュオTR04の余韻の汚れのなさも素敵。同時録音のグルーブ感を重視したオーソドックスなジャズ録音だが、リマスタで音の鮮度と音場の見通しが飛躍的に向上、からりとした西海岸の空気と強い陽射しが生む深い陰影を連想させる奥行き感が漸く姿を現した。40年前の録音とは思えぬ自然で生々しい音楽の佇まいだ。




「渡辺貞夫 カリフォルニア・シャワー」VICJ-77002

渡辺貞夫 「カリフォルニア・シャワー」

1978年L.A.レコードプラントで録音。ミキシング、アナログ24CH.1/4テープ、15ips、ドルビー使用。

アルバムタイトルTR01の輝く日差しを浴びて躍動的に歌うサックスが印象的。TR02はストリングスも加わり、全楽器の音色が明るさと色彩を増し低音楽器の量感が充実。ずっしりした量感と開放感をかねそなえた、まがうことなき名録音。リマスタ効果でユニゾンで楽音が重なっても一つ一つの楽器が明瞭な存在感を失わないのに感嘆。TR03のギターの量感、シンバルの鮮鋭感にのけぞる。TR04 のチャック・レイニーの明瞭かつ深々と沈むエレキベースと、憂愁を湛えつつからりと澄んだ質感を失わぬソプラニーノの対比、TR04のリー・リトナーのギターソロはクリアトーンの美しさに聞き惚れる。TR05の弦が加わったバラードはリッチで華麗な音色が吹き零れ試聴室の空気を艶やかに染め上げる。演奏の密度と楽曲のバラエティに名盤を再認識。それもアナログマスターまで遡った徹底した今回のリマスタあればこそ。




渡辺貞夫「モーニング・アイランド」VICJ-77003

渡辺貞夫「モーニング・アイランド」

1979年N.Y.録音。A&Rレコーディングスタジオ。アナログ24CHテープ。ミキシング1/4テープ、15ipsドルビー使用。

N.Y.録音に変わり前2作ののびやかさを残しつつ端正でスマート、洗練された音楽を聴かせる。リマスタの恩恵は帯域の拡大と解像力。エリック・ゲイルの褐色の指使いが見えるよう克明な描写力のTR02。低域方向へ帯域の拡張も目覚ましくTR03のスティーブ・ガッドのバスドラが深々と沈み嬉し涙がちょちょ切れる。ストリングスに加え、ホーンが加わりほぼオーケストラサウンドのTR04では混濁と飽和が生まれず、視界のいいダイナミックな音空間が現れ、アナログLP時代から隔世の感。シャッフルリズムが楽しいTR05は、バック金管の楽器の音色バラエティを描き分けるノイズ低減ぶりに感嘆。三部作を続けて聴くと1年毎の変化のスピードに気付かされる。LA、NYという立地によるミュージシャンシップの違いもあるが、3作目の本作は従来の伝統的ジャズ録音のコンセプト「演奏の記録」から、現代録音のパラダイム「音空間の創造」へぐっと近づいていることが分かる。




森園勝敏 「4:17pm」VICJ-77004


森園勝敏 「4:17pm」
1985年録音。ビクタースタジオのPCM-3324レコーダーで録音、JVC DAS-900 デジタルレコーダーで3/4インチUマチックテープにミックス。第一期13作品唯一のデジタル録音。

四人囃子、プリズムを経てソロに転じたギタリスト森園の唯一のコンセプチュアルなAORアルバム。ボーカル(日本語詞)も森園が担当、高音へのポジションチェンジで音程が少々不安定なのが逆にリラックスムードを醸して素敵。MALTA(sax)、佐山雅弘(key)とサポートも名手揃い。

冒頭からPCM録音は音の立ち上がりのスピードが違うと痛感。’70年代から楽器と奏法が変わったこともあるが、タイトで緻密な音の質量はまさに現代録音のそれ。インストナンバーTR04のアコギのシャープな音の輪郭、メランコリックなワルツTR07の倍音を無制限に放射してきらめく佐山のピアノ、TR08のスネアドラムのタイトで滲みない打撃、ヤン・アッカーマン風クリアトーンを森園が聞かせるTR09でのエレキベースのずっしりした量感、メロウなボサノヴァ調バラードTR05のストリングス(シンセではない)のブリリアントな艶とナチュラルサラウンドする広がり感、浮遊感はデジタルマスター→ハイレゾリマスタの効験あらたか。アナログとデジタルは音質面に関して一概に優劣は言えないが、コンセプチュアルな音空間の創造という面でデジタル録音の出現の意義を知らしめる好盤。

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