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「ミンヨン 倍音の法則」スタッフインタビュー − 宇宙に身を投げ出すような映画製作の現場

公開日 2014/11/25 10:46 山之内優子
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ポー川を介した人々の出会い

ー 佐々木監督とはらださんはいつ実際に知り合われたのですか?

はらだ 2009年に岩波ホールでイタリアのポー川を舞台にした「ポー川のひかり」という映画を上映したんです。ポー川は佐々木さんの「川の流れはバイオリンの音」の舞台にもなっている川です。僕は「川の流れ」のことを思い出して主演の中尾さんが劇中で描かれたスケッチをロビーに飾ったりしていた。あ、こんなことをやっていると思って貰えれば、という軽い発想だったのです。すると、石井高(たかし)さんという、イタリアのクレモナ在住のバイオリン職人で「川の流れ」のコーディネーターをされた方から、岩波ホール宛にお手紙がきたんです。イタリアの地味な映画を日本で上映してくれて非常にうれしい、自分はこの映画が大好きだみたいな主旨でした。そこで、実は中尾さんのスケッチをロビーに飾っているんですよとメールでお礼のお返事をしました。
 
そうしたら、ある日突然、2009年の9月だったと思いますが、佐々木昭一郎ともうします、というメールが私のパソコンに入ってきたんです。僕は、あの佐々木さんでいらっしゃいますか、実は私はあなたのことをとても尊敬していて若い時にずいぶん影響を受けましたと、そんなご返信をしました。その後、佐々木さんと頻繁にメール交換をするようになりました。

実際にお目にかかったのは、その年の12月です。青白い人を思い浮かべていたらすごい元気な人で驚きました。かなり熱っぽく色々話されて、僕なんかが口をはさむ余地は全然なかった。

その頃、NHKの元放送総局長で、かつての佐々木作品のプロデューサーでもあった遠藤利男さんも「ポー川のひかり」をお好きで、岩波ホールに二度も見にいらしていました。遠藤さんは今の時代こそ佐々木作品が作られるべきだと話されて、佐々木作品への思いが遠藤さんからも伝わってきました。
 

被爆マリアと音・音楽をめぐる企画の提案

はらだ 佐々木さんにお目にかかった翌日か翌々日のメールだったと思いますが、佐々木さん、これほどお元気なのでしたら、何か新しい作品をお作りになられたら、と書きました。そこに、岩波ホールの原田として少しでもお手伝いできたらみたいなことを一言添えたのです。すると佐々木さんは、あなたが僕に何か作らせたいと考えているものがあるのなら、その企画書を書いてくれみたいなことを言われたのですね。僕としては岩波ホールという劇場の人間だから、そこまで立ち入るつもりはなかったのですが、佐々木さんと一緒にいるうちに、新作の映画を作ろうという空気になってきたんです。その背景には、今の時代こそ佐々木作品が必要なのだと盛んにおっしゃられた遠藤利男さんの声に押されたということもありました。

当時の僕自身は佐々木さんと出会う前から、長崎の被爆マリアと音をテーマに絵本を描きたいとずっと思っていたのですが、すごく行き詰まっていた。

長崎に原爆の落ちた時、広島もそうだったらしいのですが、音が本当になくなったそうです。落ちた後も翌日も、風の音さえもなくなるぐらいに無音状態になる。生き物から何からみんな耐えてしまうので、そういうこともあると思うんですが、色々なレポートを見ると、長崎も広島も、何か変だ、何か変だと思うと、気がつくのは「あ、音がない」。そういうふうなことをお書きになっている人が何人かおられた。僕はそれをテーマに、音楽、あるいは音と被爆マリアを重ねて、絵本ができないかと思っていたんです。

ところが絵本という平面の世界では頁数も限りがあるし、自分の力がないせいもあるんだろうけれど、どうしても行き詰まってしまった。そして「四季・ユートピアノ」を思い出して、当時はDVDがなかったものだからシナリオを読み、自分の中で記憶を蘇らせて何か自分の被爆マリアの絵本を完成させるためのヒントを得られないかと、ずっともんもんとしていた。そこに佐々木さんのメールが飛び込んできたので、なおさらびっくりしてしまったわけです。

企画書の短い文章に、長崎の被爆マリアをめぐる、さすらう二人の女性の物語みたいな事を書いて、そこにモーツァルトを重ね、音と音楽をめぐる物語のような、断片的な詩のようなものを佐々木さんにお渡ししたんですよね。2010年の2月だったかな。

次ページいくつかの出来事が重なって動き始めた映画の企画

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