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AIと人力のハイブリッドでプレイリストを作成

自動レコメンド機能で、カラオケがもっと自由に。 “サビだけ”“スキップ”も思いのまま、新しいカラオケの楽しみ方

公開日 2026/10/12 07:00 橋爪 徹
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カラオケに行ったら、選曲のわずらわしさやプレッシャーに悩まされた経験、誰もが一度はあるのではないだろうか。DAMで知られる業務用カラオケの老舗、株式会社第一興商が「選曲レスカラオケ」を実証実験しているという話を聞きつけ、9月下旬、筆者は静岡県裾野市に向かった。

Toyota Woven Cityの「Kakezan Invention Hub」にて、選曲レスカラオケの実証実験が行われた

楽曲レコメンドを駆使したカラオケの実証実験

Toyota Woven Cityにインベンターとして参画している第一興商は、居住者や訪問者を対象とした選曲レスカラオケの実証実験を9月いっぱい行なってきた。

参加者に事前アンケートを行ない、取得した情報を元にその人だけのプレイリストを作成。指定した日時にDAM搭載のEV自動車e-Palette内でカラオケを体験。得られたデータを分析し、より手軽で高精度な楽曲レコメンド手法の確立やグループ向けのプレイリスト作成を見据えた実証実験も検討していくという。

e-Paletteには、最新のLIVE DAM WAO!が設置されていた。車内でカラオケ?と一抹の不安も沸いてきたが、実際に試してみたらそれは杞憂だと分かった。伴奏の聞こえ具合や歌いやすさは実際のお店と比べても遜色はない。外への音漏れも、「カラオケをやってる」ことは伝わるが、いわゆる“カラオケ店内の廊下への音漏れ”に比べたら圧倒的に静かだった。

車内には最新のLIVE DAM WAO!を設置。周囲を気にすることなくカラオケを存分に楽しむことができる

3時間みっちり、選曲レスカラオケを楽しんだ感想は?

筆者が到着した時点では、旅行で近郊を訪れたというご家族が3人でカラオケを楽しまれていた。通常、実証実験は1名で行なっているが、ご家族での参加は稀だという。3時間余りのカラオケを終えて、満足そうな表情で車を降りられた皆さんにお話を伺った。

インタビューに答えてくれたのは、母親のマリさん(60代)、長女のサトミさん(40代)、次男のカズヒロ(40代)さんの3人だ。まずは、選曲レスカラオケの実証実験に参加したきっかけを尋ねてみた。

家族旅行でウーヴンシティを訪れたという3人に、「選曲レスカラオケ」の楽しみを語ってもらった。左から母親のマリさん、 次男のカズヒロさん、長女のサトミさん 

「家族で熱海に旅行する計画を立てるときに、ホテル代も考えて少し離れたところに宿を取ることにしました。近場にWoven Cityがあることを知ってからは、この街を見てみたい気持ちと、選曲レスカラオケにも興味が沸いて、参加を決めたという経緯です」(マリさん)

事前アンケートには、好きなアーティストや好きな曲、よく歌うアーティスト、カラオケをよく利用していた時期なども答えたという。

選曲レスカラオケの実証実験は、自分からの選曲は行えない代わりに、毎回自動で選曲された曲の1番のみが歌えるシステムとなっていた。歌わない曲はスキップをしたり、サビなら歌えるときは「サビヘ」ボタンを押すとサビの少し前から曲を流すこともできる。

実際にどのくらいスキップを行なったか聞いてみると、「半分くらい。サビだけ歌った曲も多かった」(マリさん)、「ほとんど歌えた」(カズヒロさん)、「7割くらい。適切なキーが分からず、オリジナルキーでは高すぎて歌えない曲もあった」(サトミさん)というように反応は様々。逆に歌ってみた楽曲では、意外な選曲も少なくなかったそう。

「自分だったら選ばないけど、イントロが流れて「こんな曲あったよね!」と懐かしい気持ちになって歌ったりしましたね」(サトミさん)

「その時期に流行っていた曲が出てくると、自分では選ばないけど、歌ってみっか!みたいな気持ちになれて、サビだけでも歌ってみるとかありました」(カズヒロさん)

選曲レスカラオケの楽しみや将来の可能性に話題が広がる

確かに考えてみれば、好みドンピシャ一辺倒は少しつまらない気もするし、知っているけど自分では入れないあの曲をつい歌ってしまう楽しさは選曲レスならではといえそう。

選曲レスカラオケのメリットは次々と飛び出す。主なものをまとめると以下のように大別された。

・歌える曲名を思い出して、デンモク(選曲する端末)で検索してといった手間がない
・次の曲を選ばなきゃいけないプレッシャーから解放される
・選曲のネタが切れて間が途切れる心配がない

プレッシャーというのは、例えば付き合いで目上の人と行く“接待カラオケ”などが分かりやすい。選曲レスカラオケに任せれば、仮にイマイチな曲が流れても、システムが選曲したからと言い訳ができる。あるいは「こんな曲あるんだ」とか「これを選んできたか」というやりとりが生まれて場の空気も盛り上がるかもしれない。

選曲レスカラオケの体験を心から楽しまれたのだろう。こんな機能があったらいいなという要望も次々に飛び出した。

「グループで利用するときは、参加した全員のプレイリストをシャッフルしてくれる機能があったらいいですね。」(カズヒロさん)

「「この曲好き!」という前向きな気持ちを「スキボタン」を押して伝えられたらいいです。スキの傾向をリアルタイムに選曲に反映してくれるとか。さらに言えば、声の反応や歌い方などを分析して好みを拾ってくれれば、コンシェルジュみたいでいいですよね」(サトミさん)

「歌いやすいボタンがあったら、いいかも。テンポとかキーとか自分に合っている曲をその後の選曲に反映してくれると助かります」(マリさん)

というように、盛りだくさんのリアルなお話を聞かせていただくことができた。

AIとデータベースを組み合わせてプレイリストを作成

なんだか、筆者も選曲レスカラオケをやってみたくなった。そもそもどうやってプレイリストを作っているのだろう。舞台裏も気になるところだ。

今回は、開発本部 コンシューマ事業部 応用技術課の執行理恵氏と第一興商のエンターテインメント事業本部 宣伝部 広報課の恩地菊美氏から詳しい話を聞くことができた。

ここWoven Cityでは、様々な企業が実証実験を行なうことができる環境が整っている。インベンターと呼ばれるそれらの企業には、最初はエンターテインメント系企業が存在しなかった。一番乗りの第一興商は、2人用のカラオケ設備をWoven City 内の2箇所に導入するなど、住民が自由にカラオケに触れられる環境を提供していたという。選曲レスカラオケは、いよいよ第一弾の実証実験として今年9月から始めたばかりのプロジェクトだった。

ウーヴンシティ住民や、ここで働く人々のための娯楽の場としても活用されている

「やっぱり選曲で悩むという課題は元々認識していました。弊社としては、これまでレコメンドに力を入れてはいたのですが、せっかくWoven Cityに参画していますので、普段は試せないようなことをやろうと。それが選曲レスだったのです」(執行氏)

選曲のしやすさは、デンモクのUIを工夫したりと様々な改善を重ねてきた同社。ただ、選ぶという行為は必須だった。ならば、いったん選曲行為自体をなくしてしまったら、どのような反応が得られるか、利用者の反応を見るというフェーズが今なのだという。

取材時点では、実証実験は残り1日というまさに最終盤。利用者からの反応は大好評と言えるほど上々とのこと。

選曲レスカラオケを体験した参加者の声

「プレイリストは、事前アンケートを基に、お一人様あたり100曲を用意しています。基本的には人力で作っていまして、詳しくはお話しできないことも多いのですが、例えば弊社がこれまで蓄積してきたランキングのようなデータベースを参考にしています。そこにAIによる選曲も一部混ぜています」(執行氏)

プレイリスト作成には様々なやり方があり、その方法ごとにどの曲がどれだけ歌われたのを見極める目的もあるという。1ヶ月間の実証実験を終えようとしている今、これまでの手応えを聞いた。

「当初の予定を遙かに超える参加者の方にご利用いただいて、プレイリストの作成も少し変わっていきました。『なんで私が好きなこの曲を知ってるの?』みたいな意外性を狙う意図もあったのですが、途中から難しくなってしまい、割とざっくり「おそらくご存じだろう」みたいな選び方になっていきました。しかし、逆にそれが良かったという声が結構ありまして。いわゆる“私の隠れた十八番”みたいな、そこを当ててほしいというニーズは少ないという発見ですね」(執行氏)

知ってはいたけれど歌ってこなかったあの曲、いざ何十年ぶりに自分が歌ってみたらとても楽しかったという反応も寄せられる中、プレイリストの作り方がよりシンプルにできるかもしれないという希望が生まれたそうだ。もちろん、さらなるプレイリストの改善にも意欲をみせる。

「現状はお一人100曲のリストを決めたらそれは固定の状態です。歌唱具合とスキップの傾向よるリアルタイム分岐ですとか、リピーターを想定したプレイリスト改善は今後の課題として取り組んでいきたいですね」(執行氏)

筆者は当初、“カラオケ文化の未来”みたいな大仰な切り口を想像していた。しかし、実証実験から見えてきたことは、まだまだ既存のカラオケでアップデートできることがあるのだという堅実なイノベーションの息吹だったように思う。

橋爪氏もカラオケにチャレンジ!

「カラオケって、デンモク持って「何歌う?」みたいなイメージがもうずっと何十年も変わっていないんです。選び方が分厚い本からデンモクになって、スマホになってと一定の変化はあったものの、やはり部屋に入って歌うまでの時間が結構長くて、そこにモヤモヤを感じていました。選曲レスカラオケはここを変えられるかもしれないという期待があるんです」(執行氏)

DAMはスマートフォンアプリからでも操作できる

カラオケ人口をさらに増やしていきたい

将来的に、顔認識や音声(声紋)認識、アプリ連携などで部屋に入るだけで選曲レスカラオケが始るとしたら、まったく新しいスタンダードが生まれそうだ。自分で選びたいときは割り込み選曲を掛ければいいわけで、機能的に選曲レスとの両立は難しくはないだろう。

「選曲レスカラオケが新しいスタンダードになったら、これまでカラオケをちょっと敬遠して方々がじゃあ行ってみようとなるかもしれません。カラオケを楽しむ上で、ストレスになることは1個ずつ無くしていきたいと思っています。普段は行かない方が付き合いなどでカラオケに入ったとき、選曲レスのおかげで「意外と楽しかった」と思ってくれたら、カラオケ人口がもっと増える可能性もあります。そこを目指していきたいです」(執行氏)

まったく新しいカラオケの在り方を見据えた、選曲レスという手法。現時点では、利用者からのリアクションを数値と感想ですくい上げるという段階で、実用化の具体的な検討はこれからだ。新しすぎるが故に、やってみて初めて見えてきた側面が多かったことは、利用者の反応だけでなく、開発側である第一興商の振り返りからも明らかだ。

カラオケの楽しさを拡張し、間口も広げそうな選曲レスカラオケ。今後の展開から目が離せなくなりそうだ。

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