「鈴木敏夫とジブリ展」開催中。鈴木Pの生い立ち、アニメージュの誕生秘話、映画コレクションなど見どころ紹介
日本各地14ヵ所で開催されてきた「鈴木敏夫とジブリ展」が、遂にフィナーレを迎える。その開催地に選ばれたのは、鈴木プロデューサーの故郷でもある愛知県、ジブリパークに隣接する愛・地球博記念公園 体育館だ。そして先日、その開会式が行われた。
「鈴木敏夫とジブリ展」は、数々のスタジオジブリ作品に関わってきた鈴木プロデューサーが、これまでに出会ってきた書籍や映画作品、音楽ソフトや、それを通して見えてくる時代背景に注目した展示会だ。それらの作品や作家からどんな影響を受けてきたのか、どのようにして編集者・プロデューサーとしてスタジオジブリ映画を確立していったのかが紹介されている。
愛知会場では、鈴木プロデューサーが幼少期からこれまでに摂取/収集してきた約8,000冊の書籍、約10,000作品の映画作品に加え、音楽に関するコーナーも登場、多くのアナログレコードも展示されていた。さらに、高さ約15mの油屋(あぶらや)とその周りの不思議の町を再現した空間が出現、『千と千尋の神隠し』の作品世界をリアルに体験できるようになっている。
その油屋の前で開催された開会式では、愛知県知事の大村秀章氏から挨拶があった。「20年前に、自然の叡智をテーマとして開催されました『2005年日本国際博覧会』(愛・地球博)では、この地がメイン会場であったわけでございます。当時の愛・地球博ではパビリオンのひとつとして、サツキとメイの家を建てていただいて、昭和30年代の、自然と調和したエネルギー消費の少ない日本の生活様式にスポットを当てた展示を行いました。

現在、ジブリパーク内のどんどこ森でお楽しみいただいているサツキとメイの家は、当時の建物を、その後2回ぐらい手を入れましたが、そのまま使わせていただいているものでございます。今のジブリパークは、サツキとメイの家がきっかけでもあったかと思います。
その後、愛・地球博10周年記念事業の際に鈴木プロデューサーにお願いして実現したのが、『ジブリの大博覧会』でした。その大博覧会が全国を巡った後、展示物を置く場所がないよねという話から始まって、倉庫も作ろうということからジブリの大倉庫、そしてジブリパークに進んでいったというのが流れでございました。
今回は、『鈴木敏夫とジブリ展』のフィナーレという形で、愛知で開催していただいたということでございます。実は私も今日初めてここに来て、期間限定の展覧会でこんなに作り込んでいただいたのかと驚いております。2ヵ月あまりの開催でございますが、どうぞよろしくお願い申し上げます」。
そして鈴木プロデューサー自身からも、本展示会についての想いが紹介された。「最初に、今回の展示とも関係があるんですけども、ちょっと振り返ったんですよね、自分の人生を。気が付いたら僕もこの夏には77歳なんですよね。それを振り返った時に自分は何をしてきたのかな? そういうことを考えてみたんです。
そしたら浮かんできたのが、一緒に仕事をやってきた宮撫xで、どんどんいろんなことが出てきました。彼と初めて口をきいたのが1978年5月、そこから数えると47年の付き合いで、ちょっと自分でもびっくりしました。47年間ひとりの人間とちゃんと付き合ったっていうのは自慢してもいいのか、そんなことも思った次第です。
今回の展示も鈴木敏夫という名前ですけれど、ジブリって宮撫xのために作ったスタジオだったわけで、そのスタジオを作る前の話と、作った後どうしたかってことが基本的には中心なんですよね。それを、僕を通して、ジブリというか、宮浮ウんのことを体験するっていう。そういう仕組みになっているんですよ。
僕は別に監督でもない、単なるプロデューサーですから、そういう名前を付けるのはいかがなものかという思いもあるんです。ただ、何らかの形でジブリの歴史を紹介するという時には、ひとつの方法かなと。そんな風に判断しているんですよね。
みんなが本当にやりたいのは、『宮撫xとジブリ展』だと思います。でもね、できないんですよ。だって彼が怒るから(笑)。だから僕の名前を借りてジブリの歴史、その中で気が付いたら宮浮ウんのことが入る、これが大きなテーマだと思いますよ」
今回、一般公開に先駆けて展示の内容も拝見できた。そこでは、鈴木プロデューサーの生い立ちから現在までを時系列に追いかけつつ、スタジオジブリの作品が紹介されている。
驚いたのが、鈴木プロデューサーの物持ちのよさだ。幼い頃に夢中になった映画や音楽といった展示も、どんなタイトルが選ばれているかなどひじょうに興味深かったのだが、何より高校時代に友達と作った同人誌や、ラジオの企画でもらったソノシートとその際のお知らせの手紙まできちんと保存されていたのには恐れ入った。よほど几帳面な性格じゃないと、ここまでの資料の整理、保存はできないでしょう。
それが確信できたのが、鈴木プロデューサーが徳間書店に入社し、雑誌「アニメージュ」を立ち上げた頃の資料展示を見た時だった。鈴木プロデューサーを中心にして決められていったという雑誌の方向性やスタイル、編集方針についての解説は、僕自身も出版業界に関わってきた一人として改めて参考になったし、何より編集作業の効率を上げるために様々なマニュアルを作っていたこと、その資料が残っていることに感服した。
その最たるものが、会場に展示されていた「文字校正統一マニュアル」。誌面での言葉遣いについて、例えば“むかう”という言葉は“向う”と“向かう”のどちらを使うのかなど、現場では判断に迷うことも多い。さらに、ある言葉を漢字、ひらがな、カタカナのどれで表記するかなど、独自のルールを作っておくケースもある。
鈴木プロデューサーは原稿用紙13枚にわたって間違えやすい用語を整理し、編集部と印刷所で共有していたというのだ。これは今日のウェブ記事制作でもしばしば問題になることで、そういった点に1980年頃から取り組んでいた姿勢と、その資料を大切に保存していることにはもはや尊敬の念しかない。
その後に続くジブリ作品の誕生の経緯(『風の谷のナウシカ』の連載がアニメージュ誌上で始まった理由や、各劇場作品の企画書も必見)、劇場公開時の印象的なキャッチコピー、ロゴに至るまで、どれも立ち止まってじっくり読みたくなるものばかりで、時間が経つのを忘れてしまう。
このように「鈴木敏夫とジブリ展」は、1980年代の日本のアニメーションブームを牽引した「アニメージュ」と、さらにはそこから誕生したと言ってもいいであろう「スタジオジブリ」、ひいてはその作品群に込められたクリエイターの思いを、詳細な資料を“読む”ことで理解させてくれる貴重な内容となっている。
さらに展示の最後には、「鈴木敏夫の本棚」「鈴木敏夫の映画コレクション」「鈴木敏夫の音楽コレクション」という、フィジカルメディアを愛する者にとっては夢のような空間が出現する。既にカオナシが読書をしているビジュアルが多くの媒体で紹介されていると思うが、実際の“空間”に身を置くと、そこに収められた“叡智の量”に圧倒されるはずだ。
カオナシに向かって左奥には鈴木プロデューサーのお気に入りレコード(LP&シングル)も並び、ジャケットを手に取ることもできる。同じ室内(入口側)にはテクニクスのレコードプレーヤーSL-D3が置かれていたので、これでレコードを再生していたのかもしれない。
ちなみにカオナシの右側側面にはブラウン管を模したディスプレイも展示され、1950〜60年代の日本映画の特報や予告編がリピート上映されている。しかもそこに置かれていたのが、ナショナルのVHDプレーヤー、DP-850というのもスゴイ!これも鈴木プロデューサーが使っていた物なのか、ご本人に直接伺えなかったのが残念だった。
その先、入口に道祖神が置かれた通路を抜けると、高さ15mの油屋と不思議の町が広がっている。なお、鈴木プロデューサーは以前からジブリパークに実物大の油屋を作ってみたらと提案していたそうだが、さすがにサイズ的に難しかったという。
今回は手前にカオナシと橋の模型を配置し、その後ろに天井から油屋の垂れ幕を吊り下げているが、橋の袂に立つと千(千尋)はこんな風景を見ていたのかと実感できる迫力があった。さらにプロジェクションマッピングによって雨が降ったり、風が吹いてくる演出もあるし、照明も連動して朝・昼・夜という1日の時間経過を体感できる内容になっている。展示の感想を聞かれた鈴木プロデューサーも、「これで、いいんじゃないかな。」と満足そうに話していた。
先に書いた通り、「鈴木敏夫とジブリ展」には、“読み込む” ことで様々な発見や学びがある展示が並んでいる。加えて書籍やレコードといった資料や造形物にも触れることができる(一部ですが)、充実した内容を備えていた。隣接するジブリパークと一緒に楽しめるチケットも準備されているので、家族揃って会場まで足を運んでみてはいかがだろう。

鈴木敏夫とジブリ展
・会期:2025年7月12日(土)〜9月25日(木)9時〜18時(入館は閉館30分前まで)
・休館日:火曜日 ※ただし9月23日(火・祝)は開館し、翌9月24日(水)は休館
・会場:愛・地球博記念公園体育館
・観覧料:通常チケット 前売券 一般(大学生以上)1,700円、中高生1,300円、小学生900円/当日券 一般(大学生以上)1,900円、中高生1,500円、小学生1,100円
・主催:スタジオジブリ、中日新聞社、愛知万博20周年記念事業実行委員会
・共催:中京テレビ放送、ジブリパーク
・特別協賛:au(KDDI株式会社)
・愛知展特別協賛:Boo-Wooチケット、ローソンチケット
・企画協力:ムービック・プロモートサービス、博報堂
・展示協力:ア・ファクトリー
・後援:愛知県教育委員会、JR東海
・特別協力:名古屋鉄道
・協力:名古屋市交通局、愛知高速交通、愛知環状鉄道
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