ホームシアター専用ルームを作るなら別だが、リビングルームなど生活空間を兼ねた部屋の場合は、リアスピーカーの設置場所を見つけるのは容易ではない。ホームシアターの敷居を低くするには、リアスピーカー問題の解決が不可欠なのである。

各社が解決法を探るなか、有効な手段として注目を集めているのがフロントサラウンドシステムである。文字通りリアスピーカーを使わずにサラウンド感を引き出す手法だが、立体再生を実現する具体的な方法には各社違いがあり、効果の大きさも異なる。それに加えて、定位が曖昧になりやすいなど弱点も指摘されている。

そんななかフロントサラウンドの有効性をめぐる議論に一石を投じるシステムが、マランツから新たに提案された。英国サウサンプトン大学と鹿島建設の合弁事業の成果を生かし、マランツが製品化に成功したOPSODIS(Optimal Source Distribution)がそれである。

一般的な方式は、通常の2chステレオを踏襲したもので、全周波数域の音源がリスナーから60度に位置するために、制御効果のよいところ(青い部分)と悪いところ(赤い部分)が断続的に存在することになる。OPSODISでは3本のスピーカーのユニットを左右対称、水平方向に並べて設置する。こうして再生周波数が下がるに従ってスピーカーユニットを最適な角度で広げることで、どの周波数域でも高い制御効果が得られるという仕組みだ。そのためにOPSODISでは各スピーカーの設置位置と振り角が厳格に決められている。

OPSODISの動作原理は、音声信号の位相を制御することによって、立体音場効果を生む成分を、ターゲットとなる耳だけに届けることにある。これはクロストークキャンセルと呼ばれ、仮想サラウンド再生では非常に重要な手法だが、従来は逆相成分を加えて余分な音を打ち消すことで実現していた。しかし、OPSODISは位相を90度回転させた信号を加えることによって、右または左の耳だけに目的の音を届ける。従来方式とは異なり、逆相の打ち消し信号を多数発生させることがないので、より音源に忠実な再生ができるアドバンテージがある。

また、独自の位相制御の効果を十分に発揮させるため、厳密なスピーカー配置を採用していることもOPSODISの大きな特徴だ。スピーカーは左右とセンターの3個だが、両側のスピーカーには低音ユニット、センターは中高域ユニットを配置。耳からの角度を周波数ごとに変えて、音場制御の効果を高めることが狙いだ。

OPSODISの第一号機としてマランツが開発したES-150は、アンプ部ES-150Aと3個のスピーカーES-150Sで構成される。スピーカーは床置きまたはラックに設置する設計だが、スピーカーの間隔とフロントの基準ラインを指定通りに揃えて、横置きで設置するという原則は守らなければならない。薄型テレビと組み合わせる場合は、センタースピーカーをラックに入れ、左右のスピーカーをその外側に設置するのが合理的な方法だろう。高さ方向のスペースは有効に利用できるので、スクリーンとの組み合わせにも好適だ。

左は一般的なステレオ再生の配置。すべてのユニットがタテに並ぶため、すべての周波数域の音源がリスナーから60度の位置になる。右はOPSODISの配置。中央から左右対称に、高域を再生するトゥイーター、中域を再生するスコーカー、低域を再生するウーファーの順番に水平に並べて、リスナーの前方を取り囲む。トゥイーターは5.6kHz以上の周波数を受け持ち、リスニングポイントから約5度の位置に配置。スコーカーは約14度、ウーファーは約37度と52度で配置される
従来方式では打ち消しのための制御信号を多数発生させるため原音を劣化させてしまう(上の図)。一方、OPSODISはクオリティの高いオリジナル音源に忠実な音場を再現できる(下の図)。しかも壁反射を利用しないため、設置環境にサラウンド効果が左右される心配がない