期待のニューカマー・KUDOSの挑戦。“パッシブ型”チャンデバで実現する独自サウンドをレビュー!
オリジナリティあふれる技術で攻めるイギリスの新興ブランド
タイムロードが輸入するイギリスのスピーカーブランドKUDOS(キュードス)は、昨年もっとも熱い視線が注がれたブランドであろう。ニューカマーでありながら、昨年のステレオサウンドグランプリにおいてゴールデンサウンド賞を獲得。「今年のゴールデンサウンド賞を受賞したあのスピーカーの音はどうなの?」という声が年末そこかしこで聞こえたものだ。
そんなKUDOSのグローバルセールス担当であるニック・アレンさんが来日。ブランドの背景や最新プロダクトついて、たっぷり解説いただいた。
KUDOSは、2006年にイギリスの北部でスタートしたブランドである。スピーカー開発のキーパーソンはデレク・ギリガン氏。コンサートのPAエンジニアとして音楽業界でのキャリアをスタートしたあと、NEAT Acousticにてスピーカー開発を手がけ、その後独立してKUDOSを立ち上げた。KUDOSとはギリシャ語で「名声」「栄光」などを意味するそうだ。
以前試聴した際には、「TITAN 707」の魅力もさることながら、ブックシェルフ型の「TITAN 505」の完成度の高さが非常に印象的であった。たった2本のステレオ再生でありながら、包み込まれるようなサラウンド感で、部屋全体が音楽の海に満たされるような、柔らかで豊穣なステージングが印象的であった。
SEAS社と共同開発したオリジナルのスピーカーユニット、そして剛性の高いウッドによる独自のキャビネット形状もKUDOSのオリジナリティあるところである。左右の側面パネルは本体からわずかに離れており、不要な振動を低減。キャビネットはイングランドのウィリントンにある工場にて、職人の手作業で組み立てられているそうだ。
またTITAN 707のウーファーについてはアイソバリック方式を採用しており、向かい合わせに配置されたウーファーユニットが不要な振動を相殺。アイソバリック方式は元々リンが持つ特許であったが、現在は特許も切れており様々なメーカーで採用されている。余談になるが、KUDOSのスピーカーはリンのEXAKT(デジタルクロスオーバー)のプリセットが最初期から用意されているなど、リンとの深い縁も感じさせるブランドである。
スピーカーのポテンシャルをさらに引き出すチャンネル・デバイダー
ニックさんの今回の来日の大きな目的は、このKUDOSのスピーカーのポテンシャルをさらに引き出すチャンネル・デバイダー「SIGAO DRIVE」についてより深く知ってもらうためだという。
SIGAOとは、こちらもギリシャ語で「沈黙」を意味する言葉である。ノイズフロアを下げ、音楽ソースに込められた微細な情報をより精緻に引き出したい、という想いが込められているようだ。背面には「シー」という顔をした「emoji」が記載されているのも、遊び心があって楽しい。
SIGAO DRIVEは、KUDOSのスピーカーと組み合わせて使用できる、パッシブタイプのチャンネル・デバイダーである。(他社スピーカーでは使用できない、KUDOS専用モデル)。TITAN 505とTITAN 707は2ウェイ、最上位のTITAN 808は3ウェイスピーカーであり、最大3ウェイまで帯域分割を行える。
プリアンプとパワーアンプの間に接続して使用するチャンネル・デバイダーであるが、電源なしで使用できるという、少々特殊な構成となっている。多くの場合、クロスオーバーはオペアンプにコンデンサー、抵抗、インダクターを組みあわせてハイパス/ローパスフィルターを構成するが、このSIGAO DRIVEは電源なしで構成されている。機械的振動が信号系にノイズを乗せてしまうこと、また電源による歪みの発生を避けるためだとニックさんは説明してくれた。
(ちなみに海外のレビューなどをみるとactiveと記載されていることもある。ニックさんも「active crossover」と説明してくれたが、あくまで電源は不要。海外レビューではactive unpowered crossoverと記載されていることもあるようだ)
その代わり、どのようなアンプと組み合わせてもベストなパフォーマンスを発揮できるよう、背面の端子で、接続するスピーカーとのベストなインピーダンスマッチングを図れるようになっている。具体的には小型のピンをコネクタに合わせて差し込むことで、インピーダンスを調整することができる。
スピーカー側の背面端子をみると、シングルワイヤーで使うための端子と、その上にマルチウェイ用の端子も搭載されている。通常スピーカーには内部に(パッシブの)ネットワーク回路が搭載されており、マルチアンプで動作させるには、その回路を取り外す等の調整が必要になる。だが、そういった複雑な操作をしなくても、シングルとマルチをそのまま切り替えられる、という点も、KUDOSのスピーカー開発が重視している点である。「外部チャンネル・デバイダーによるメリットを多くの人に感じてほしい」というデレクさんのこだわりでもあるそうだ。
なお、すべてバナナプラグ専用となっている(Yラグは使用不可)。これについても、「基板に直接接続することができるので音質面でも有利」というデレクさんの考え方によるものだ、とニックさんは教えてくれた。
包まれるような音場感の再生が魅力
今回はTITAN 505とTITAN 707のそれぞれについて、SIGAO DRIVEを組み合わせて試聴をおこなった。パワーアンプは、高域にCHORDの「ULTIMA 5」をステレオで、低域は「ULTIMA 3」をモノラルで組み合わせている。ソース機器としては、タイムロードの自社ブランドarchitecturaの「nano core」をroonのトランスポートとして使用している。
ノラ・ジョーンズの「Don't know why」では、まるで透明なキャンバスに描き出されたかのような明るさと晴れやかさを聴かせてくれる。ノイズフロアが下がり、ステージの奥行きが遠く見通せるなかに、ノラの声がどこまでも伸びやかに自然に広がってゆく。久石譲とロンドン・フィルによる「もののけ姫」では、オーケストラのステージがより遠くまで見通せることに加え、声の浸透力も高い。
「TITAN 707」ではより中域のリッチさが増す。以前試聴した際は「TITAN 505」の完成度の高さ、ブックシェルフとしてのまとまりの良さが印象的だったが、SIGAO DRIVEを組み合わせると、よりユニットのポテンシャルが引き出させるTITAN 707の魅力を改めて気づかせてくれる。
ニックさんがおすすめだという、ロジャー・ウォーターズの「Amused to Death」を聴く。これは面白い。冒頭KUDOSのスピーカーの特徴を「ステレオ再生とは思えない包まれるような広がり感」と述べたが、まさにその本領が発揮される。
右真横から犬が吠える鳴き声が聴こえ、左斜め後ろからはラジオのようなノイズ感のあるアナウンスが聴こえてくる。まるで四方八方から音が聴こえる部屋に閉じ込められたかのようで、思わず首を左右に振ってしまう。犬の鳴き声はあまりにリアルで、実際に外で吠えているのかと思ったほど!
繰り返すがあくまでここにあるのは2本のスピーカーによるステレオ再生である。ロジャー・ウォーターズはもちろん元ピンク・フロイドのフロントマンであり、(イマーシブオーディオという言葉が存在しなかった時代から)立体的な音響設計に関心を持ってきたアーティストである。この世界観をステレオで、しかもここまで臨場感豊かに鳴らしてしまう実力には改めて驚嘆する。
音源ソースに収められた位置情報や、細やかなニュアンス、空気感は、さまざまなノイズによってマスクされてしまいやすい、本当にわずかな情報である。だが、それを精緻に引き出してあげると、ステレオ再生からここまでの豊穣さが引き出せるのかと改めて思い知らされた。
KUDOS、新興だが侮れないブランドである。音楽の国、そして豊かなオーディオカルチャーを育み、数々の名門スピーカーブランドを産んできたイギリス。そんな国のスピーカー開発の土壌の豊かさに、改めて思いを馳せた。
(提供:タイムロード)

