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話題のハイレゾ音源をパイオニアの新ネットオーディオプレーヤー「N-50」「N-30」で聴く!

2011/11/16 山之内 正
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ネットワーク経由での音楽再生にいち早く取り組んできたパイオニアから、満を持して初のネットオーディオプレーヤー「N-50」「N-30」が登場した。同社らしいオーディオ技術を盛り込みつつ、N-50では最高192kHz/32bitまでのハイレゾ音源再生に対応。CD以上のクオリティを持つ音源を楽しめる手頃な価格の新モデルを山之内 正氏がレポートする。

■CDを超えるクオリティの音源を楽しめる“ネットオーディオ”

CDを超えるクオリティの音源(=ハイレゾ音源)を、高音質音楽配信サイトから手軽に入手できるようになった昨今。これまで44.1kHz/16bitというCD規格に縛られていた音楽は、データで配信できるようになったことによりその制限から解かれた。家にいながらスタジオマスタークオリティの音楽を楽しむことも、いまや夢物語ではない。ハイレゾ音源を楽しむ“ネットオーディオ”は、オーディオファン・音楽ファンならばこれから是非押さえておきたい新スタイルである。

そんな“ネットオーディオ”を楽しむのに欠かせないのが、NASなどの大容量ストレージに保存した音楽をLAN経由で再生する「ネットオーディオプレーヤー」だ。

NASなどのストレージはプレーヤーと同じネットワークにつながっていればどこに置いてもいいので、端から見るとなぜディスクを入れずに次から次へと音楽が聴けるのか不思議に見えるかもしれない。選曲は手元のスマートフォンやタブレットで画面をタッチするだけ。スマートで、新しい。これがいま話題のネットオーディオの標準的スタイルなのだ。

ハイレゾ音源を再生するもう一つの方法としては「USB-DAC」が挙げられる。こちらは、パソコン内蔵のDACではなく、外付けの専用DACを使うことで再生音質の向上を図るというもの。再生の際PCが必須となるためネットオーディオプレーヤーよりもリスニングスタイルとしては制限されるが、必要となる周辺機器がネットオーディオプレーヤーより少なく済み、導入が簡単というメリットは大きい。

ネットオーディオ機器を発売するメーカーは着実に増えているが、これからネットオーディオを始めるなら、この分野に経験豊富なメーカーの製品を選ぶのが安心だ。たとえばパイオニアは2007年からレシーバーやAVアンプにネットオーディオ機能を載せ、すでに多くのノウハウを蓄積している。

【パイオニアの主要ネットワーク対応製品ヒストリー】
2007年:USBメモリ再生/iPod接続/DLNA経由の音楽再生対応コンポ「X-Z9」「X-Z7」
2007年:DLNA経由の音楽再生などに対応したAVアンプ「VSA-LX70」「VSA-AX4AH」「SC-LX90
 以降、ネットワーク対応AVアンプを多数発売
2009年:iPodデジタル接続/DLNA経由の音楽再生対応コンポ「PDX-Z10
2011年:初のネットオーディオプレーヤー「N-50」「N-30



■最新技術とオーディオ的作り込みを融合させた「N-50」「N-30」

そのパイオニアがいよいよこの秋に2機種のネットオーディオプレーヤーを発売した。どちらもコンポーネント仕様で、特に上位のN-50は筐体や電源部の作り込みに力が入っていて、同社が蓄積してきたデジタルオーディオとアナログ技術のノウハウがたっぷり盛り込まれている。ネットオーディオプレーヤーはディスクドライブなどの機構部が不要なので、その分のコストを他のパーツや筐体の剛性強化にまわすことができるのだろう。

N-50

N-30


N-50の背面部

N-30の背面部
■現状最高峰のクオリティ・192kHz/32bit音源の再生にも対応

N-50の音質改善技術の例を具体的に見ていこう。デジタルブロックでは、192kHz/32bit DACを搭載した点と、微小信号をなめらかに再現するビット拡張技術「Hi-bit 32 Audio Processing(以下Hi-bit 32」)」の採用に注目したい。「Hi-bit 32」は192kHz/24bitを含むすべてのデジタル音源で32bitの高音質再生を実現するという技術で、パイオニアのAVアンプには採用されてきたが、ネットオーディオプレーヤーへの同様な回路の搭載はこれまでほとんど例がない。

「Hi-bit 32」技術により、16bitや24bit音源を32bitまで拡張して処理でき、アナログ波形に近い音を実現する

また、192kHz/32bit DACの搭載により、先日オクタヴィア・レコードから発売された192kHz/32bit音源(関連ニュース)を聴くことが可能な点も大きな特徴と言えるだろう。実売約7万円の本機で、現状最高峰の音源まで楽しめてしまうのだ。

USB-DACもN-50だけの装備だが、そこでは音質改善に威力を発揮するアシンクロナス(非同期)伝送を実現していることが見逃せない。ジッター成分の多いパソコンのクロックではなく、N-50側のD/Aコンバーター用高精度クロックを使い正確にデジタル信号伝送を制御する仕組みで、少し前までハイエンドのUSB-DACにしか採用例のなかった技術だ。

実際にN-50をUSBオーディオ機器として聴いても再生音の水準は単体D/Aコンバーターに迫るものがあり、特に音場の深さと音像の立体感は特筆に値する。

筐体設計と電源部にも特別な強化策が仕込まれている。振動対策として底板に2重構造の「リジッドアンダーベース」を取り付け、重心を下げたことがまずは注目のポイント。電源部はデジタルとアナログの電源トランスを分離して物理的に離れた位置に配置し、相互の干渉を抑えている。

N-50の内部構成。デジタル部とアナログ部を分離している

姉妹機のN-30ではこれらの対策や装備を省略しているが、ネットワーク回路とデジタル回路の基本構成はN-50と同等で、対応ファイル形式とサンプリング周波数にも違いはない(ただし192kHz/32bit音源は再生非対応)。ネットオーディオプレーヤーとしての使い勝手に差はないので、特にUSB-DAC機能を使う予定がない場合はこちらを選ぶのもありだろう。ちなみに両機種ともスマートフォンで動作する専用アプリ「Pioneer ControlApp」での快適な操作にも対応している。

■HQM STOREのハイレゾ音源をN-50で味わう


試聴を行う山之内氏
CDを上回るマスターグレードの高音質音源を配信しているクリプトンのHQM STOREからダウンロードした音源を使って、N-50の再生音を聴いてみよう。

最初に聴いたのはリンツ・ブルックナー管弦楽団がアイヒホルンの指揮で演奏したブルックナーの交響曲第8番(タイトル情報)。編成の大きなオーケストラならではの重量級のサウンドが左右スピーカーの外側まで広がり、金管楽器群の音圧が凄まじい。CDで何度も聴いてきた演奏だが、配信音源の方が低音楽器の下支えが厚く、演奏のスケールがひとまわり大きくなったように感じる。

ジャズを聴くと、音の生々しさがやはりCDとは次元が違うことに気付く。藤井寛クインテットの『Collaboration』(タイトル情報)というアルバムだ。ヴィブラフォンは楽器を目の前にしているようなリアルな音色で、ドラムスの切れもスタジオで居合わせたような感触。ベースは弦の太さと張力の高さが伝わる芯のある音で、立ち上がりが俊敏で緩みがない。セッティングはN-50を普通にラックに載せてLANケーブルとラインケーブルをつないだだけ。特別なことは何もしていないのに、ここまで鮮度の高い音がいきなり出てくる。それがネットオーディオプレーヤーの恐るべきところだ。CDプレーヤーではこうはいかない。

HQM STOREには96kHz/24bitで録音された新しい音源も揃っている。ローランド・バティックが独奏を弾くハイドンのピアノ協奏曲(タイトル情報)は、室内オーケストラならではの軽快な伴奏に乗ってピアノが自由な演奏を繰り広げる筆者お気に入りの演奏だ。N-50はオーケストラ、ピアノともにゆったりとした温かみのある響きを再現し、テンポの速い楽章ではピアノの中音から高音の分離の良さを聴き取ることができた。コントラバスは少人数とは思えないほど豊かな響きを聴かせるが、余韻が過剰になることはなく、音場はとても見通しがいい。

ハイドンといえばウィーン。そこから連想して、次にフィルハーモニック・アンサンブル・ウィーン“モーツァルティステン”が演奏するシューベルトの交響曲第5番(タイトル情報)を聴いた。ウィーンの演奏団体らしい柔らかい響きと自然なフレーズのつながりにあらためて感嘆する。それにしてもこのオーケストラはアンサンブルがよく揃っているが、それがわかるのはN-50が奏者の息遣いまで忠実に再現しているからだろう。Hi-Bit 32をオンにして聴くと、その描写の緻密さがいっそう際立ってくる。

HQMのハイレゾリューション音源のなかには、アナログマスターからハイレゾリューションのPCM音源に変換した曲も数多く含まれており、そのなかには最高位の192kHz/24bitで入手できるアルバムも少なくない。1977年にベルリンのテルデックスタジオで録音されたベルリン弦楽合奏団のロッシーニ弦楽ソナタ(タイトル情報)はその代表的な録音で、ヴァイオリンの澄み切った音色や空気をたっぷり含んだヴィオラの厚い響きが聴きどころだ。チェロの艶やかで柔らかい音色やコントラバスの伸びやかな響きもアナログ録音の良さだろうか。消え入る瞬間まで柔らかさを失わない残響の美しさとともに、アナログレコードを聴いているような懐かしさを感じた。

最後に、姉妹機N-30の音の印象も簡単に紹介しておこう。ハイドンのピアノ協奏曲や藤井 寛クインテットの録音を聴くとオーケストラやベースがN-50に比べて若干軽めになる傾向があることがわかる。だが、自然な立ち上がりや温かみのある木質の残響感など、ハイレゾ音源ならではの感触はしっかり聴き取ることができた。

■ネットオーディオプレーヤーの決定版を探す音楽ファンにオススメしたい

N-50の中核をなすのはLAN経由のネットワーク再生とUSB-DAC機能だが、それ以外にもiPodのデジタル接続やUSBメモリー再生など、様々なデジタルメディアの高音質再生をサポートしている。AirPlayは買ったその日から使えるし、オプションを追加すればBluetooth、Wi-Fi接続にもそれぞれ対応する。今回はネットワーク再生に的を絞って紹介したが、インターネットラジオを含め、ネットオーディオプレーヤーとしての機能はフル装備に近い。

すでに紹介した通りN-50/N-30はネットワーク再生の音質メリットが顕著で、しかも機能に不足はない。手頃な価格も含め、ネットオーディオプレーヤーの決定版を探している音楽ファンの期待に十分応えてくれるに違いない。

パイオニアのN-50とN-30で、ハイレゾ音源の魅力を楽しみ尽くしてみてはいかがだろうか。

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